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「シドニー・シアター・カンパニー」 日本人で初めて抜擢 – 岩崎麻由さん

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「シドニー・シアター・カンパニー」日本人で初めて抜擢-岩崎麻由さん

「シドニー・シアター・カンパニー」日本人で初めて抜擢

岩崎麻由さん

オーストラリアの名門劇団として名高い「シドニー・シアター・カンパニー」の舞台に、日本人として初めて立つ岩崎麻由さん。彼女が出演する『ホワイト・パール』は新作戯曲の発信地、ロンドンのロイヤル・コートでも演じられ、話題になった演目でもある。岩崎さんに役どころと、今回の公演に掛ける思いを伺った。(文・インタビュー=山下香)

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『ホワイト・パール(White Pearl)』
 タイ系オーストラリア人の若手脚本家アンチュリ・フェリシア・キングが若手作家の登竜門とされるロンドンのロイヤル・コートで上映し、話題を呼んだ注目作品。人種や国による差別、アジア諸国同士のコンプレックス、また行き過ぎた企業文化などを描くブラック・コメディー。またメイン・キャストが全て女性で演じられるのも、この演目の特徴だ。

<あらすじ>
 舞台はシンガポールにある世界的な化粧品会社「クリアデイ」のオフィス。そこではアジアにバックグラウンドを持ち文化や国籍の異なる6人の女性たちが働いていた。ある日、クリアデイの新商品、美白クリームの試作CMが何者かによってユーチューブに掲載されてしまう。すると差別的な内容を含んだその動画は、瞬く間に再生回数が増え、“炎上”。世の中から批判を受けることになる。
——誰かが絶対にクビになる。そう考えた6人の女性たちは、クビにならないためにそれぞれが画策を始める。そして、これまで隠していた同僚たちに対する差別や嫉妬、負の感情をあらわにしていく。怒り、秘密、ウソが溢れる小さなオフィスでの物語。


■会場:Riverside Parramatta(Cnr. Church & Market Sts., Parramatta NSW)
■日程:10月24日(木)~11月9日(土)※時間は日によって異なる
■料金:$30~
■Web: riversideparramatta.com.au/NTofP/show/white-pearl

——岩崎さんは、いつから役者を目指そうと思われていたのですか。

もともと母親が人形劇をやっていて、小さい時から舞台裏が好きでした。母親によると小さい時から「舞台に出たい」と言っていたみたいです。中学校の頃に演劇部に入ったのですが、12歳の時には役者になると決めていたと思います。体を動かすことも、ピアノや絵を描くことも好きで、全部できるのはどこだろうと思ったら、舞台だなって。役者じゃなくても音楽やセット、衣装も作ったりして、いろいろなことができる場所だと気付いたのが中学生の時でした。

——ずいぶん早い頃から決めていらっしゃったのですね。その後、演劇を大学で学ぶために来豪されますが、どうして海外を選んだのでしょう。

海外からの来日公演をよく観に行っていたので、演劇は英語で勉強したいと思っていました。また当時、日本はフル・タイムで演劇を学べる演劇学科がなかったので、きちんと演劇を勉強するなら海外しかありませんでした。オーストラリアに決めたのは縁ですね。16歳の時にオーストラリアの演劇学校の卒業生とお仕事をさせてもらって、その方が「行っちゃえば?」って背中を押してくれました。それで英語が話せないのにオーストラリアに来てしまって大変でした(笑)。

——海外に来てからの挫折はありましたか?

19歳の時にオーストラリアで初舞台を踏んだのですが「英語が分かるぞ、喋れるぞ」と思って演じても、ネイティブじゃない壁があって、キャスト内でも「なぜここに居るの?」、「英語が話せないのに役者をやりたいなんて」とよく言われていました。オーディションに行っても発音を指摘されて、仕切り直すために各国の役者が活躍している演劇の本場に行くしかないと思って、一度はニューヨークに行きました。

現地の演劇学校で発音を叩き直されたのですが、またそこでアイデンティティー・クライシスに陥りました。なぜかオーストラリアなまりの英語を話す日本人という自分を、アメリカでどう役者として売り込んだらいいのだろうと悩みました。私は日本人なまりがある役しかできないのか、発音を克服したら海外でも通用するのか、それとも日本人の役しかできないのかと、いろいろ考えましたね。でも人種に関係なく、1人の女優として受け入れられるようになりたいと思うようになって、最近ようやくいろいろなお仕事を頂けるようになってきました。だから挫折というか、「なぜ海外で演じるのか」を常に考えているかもしれないです。

——今回参加される『ホワイト・パール』は、どういった経緯で参加されることになったのですか。

今回演出を担当されるプリシラ・ジャックマンさんとこれまで2回ほどお仕事をしていて、彼女の紹介でオーディションを受けることができました。シドニー・シアター・カンパニーの舞台に出るのは、オーストラリアに来た頃からの夢でした。女優のケイト・ブランシェットが芸術監督をしている憧れのカンパニーだったので、オーディションを受けられただけでもすごく幸せでした。そして役を頂けることになって、本当にうれしいです。

——『ホワイト・パール』はどんな内容の作品ですか。

美白クリームの会社のお話です。その会社のプロモーションのビデオに強烈な人種差別が含まれていることが発覚して、会社の中の人たちが炎上にどう対処するかというお話です。働いている女性は日本人、韓国人、中国人、アメリカで育ったインド人、シンガポールで育ったタイ人など、異なる文化や国籍を持っているのですが、大変な状況に追い込まれていく中で国同士の問題や差別意識といったリアルな感情が出てきます。

——最初に台本を読まれた時はどう思われましたか。

「これは言って大丈夫なのかな」と思うようなセリフが結構あって、台本を読めば読むほど、「あ、これは大変な舞台だ」と思いました(笑)。差別用語がいっぱい出てきます。ドラマですがダーク・コメディーというか。でも今こそ、特にいろいろなアジア人が住んでいるシドニーで、こうした会話がある演劇を行うことは大切だと感じています。登場するキャラクターが現実に忠実ですし、言葉も喋り方もリズムも、白人の方が描くアジア人ではなくて、ただ奇麗な部分だけではない深みのようなものが出ていて面白いと思います。

——役者としてやっていく中で、岩崎さん自身も人種間の問題について感じることはありますか?

大学を卒業して役者として食べていこうと思った時に、本当にチャンスがありませんでした。まず舞台もコマーシャルも、やっぱり白人の役者を使いたいためオーディションの機会も少なかったです。今はコマーシャルを観ていると普通に白人とアジア人のカップルが出てくるようになりましたよね。人種に関係なく活躍のできる場がもっと増えて欲しいと思いますね。理想としては、やっぱり白人が演じる役をアジア人でも演じられるようになって欲しい。海外には日本人の弁護士もプレスの人もいるのですから。アジア人の役ではなくて、大人の女性の役として海外で受け入れられる役者になりたいといつも思っています。

——今回演じる役について教えてください。

日本人の新人社員です。上司にはシャイで意見を言わない子という扱いを受けているのですが、私としては物事をよく考えていて出しゃばらない、実は頭がいい人だと思っています。最初は海外の人が考えるステレオタイプの弱くて優しい日本人の役かなと思ったのですが、言うところはちゃんと言う役ですし、演じるのは私なので、ステレオタイプではないリアルな日本人の強さみたいなものが出ればいいなと思っています。

——演じる時はステレオタイプにならないように意識していらっしゃるということですか。

もちろん話の中で要求されているのはステレオタイプに近い日本人だと思うんですよ。今まで芸者や忍者の役を演じた時にも感じたのですが、日本人が必要とされる役ってやっぱりステレオタイプの役が多いと思います。だけど、私の中では型にはまらない日本人を演じるように意識しているつもりです。

——英語で演技をすることをどう感じてらっしゃいますか。

ホワイト・パールのリハーサルの様子
ホワイト・パールのリハーサルの様子
メイン・キャストは女性だけで演じられる
メイン・キャストは女性だけで演じられる

英語でセリフを覚えるのは、慣れるまでは本当に難しいです。やっぱりネイティブじゃないから、aやtheを忘れてしまったり、日本人の苦手な発音のRとLはどんなに練習してもつまずいたりします。でもセリフを1回覚えたら、役作りはどの国で演じても同じだと思います。演じるキャラクターは人なので、どの国に行っても同じような感情があったり同じ経験をしています。だから、全く同じ痛みを私が経験していなくても、自分の中にある痛みとつなげることを意識しています。

——今回のメイン・キャストは全て女性です。最近は映画や演劇で女性の活躍が目立ちますね。

やっとですよね、今まで女性が演出や役者に選ばれなかったり機会が与えられなかったのですが、やっとダイバーシティーが広がって、女性のプロデューサーや脚本家、演出家も増えています。男性目線で見た女性じゃなくて、やっぱり女性にしか書けない、私たち女性が感じている生き様みたいなものがある。そういう作品が最近出て来ていてうれしいですし、これからが楽しみです。

——『ホワイト・パール』を観る人に、注目すべきポイントを教えてください。

オーストラリアはアジア人がとても多い場所なのに、その声や生活を忠実に表現した作品がメジャーなシアターで公演されることが今までなかったと思います。こういう作品を、大きな劇団が取り上げること自体に意味があると思いますし、改めて国や人種の問題が注目されているのだと思います。アジアの中でもいろいろなアジア人がいることを知って欲しいし、ステレオタイプにはおさまらないアジア人女性たちを観てもらえたら。そして人種差別は、白人と黒人だけでなくアジアの国の間にもあって、深い問題だということを感じて欲しいですね。観終わった時に、ハッピー・エンディングではないと思うんですけど、考えさせられる内容になっていると思います。

岩崎麻由
神奈川県出身。高校卒業後の18歳の時に来豪。大学で演劇について学びながら、シドニーを拠点に役者として活動を始める。2011年には演劇の本場ニューヨークで演劇について学び、映画や劇場にも出演。17年に再びシドニーに戻り、現在まで舞台を活動の中心としながらも、テレビ番組や映画など多彩に活動をしている。

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