知ってると知らないでは大違い!
日豪プレス 法律相談室
第61回 あなたの価値は一体いくら?
人間の命はとても貴重で値段をつけることなどできません。でも万が一、交通事故に遭って負傷し通常の生活ができなくなったら、何を基準にあなたの負傷や損失に対する公正な補償を受け取ることができるのでしょうか? 車が損傷した場合は、保険金請求のプロセスは比較的迅速かつ簡単です。車の損傷の見積もりを取得し、損傷を評価し、評価に相当する金額を保険会社が支払います。車が修理不可能な場合、同じ価値の車を購入するのに十分な金額が支払われます。
物とは異なり、私たち個々の存在は掛け替えのないものなので、傷害補償を請求するプロセスは複雑でかなり時間が掛かります。医学的にけがの度合いを知るには、事故後12~18カ月掛かると言われています。長期的な障がいの正確な医学的評価ができるのが、けがが安定化した後になるため、想像以上に時間が掛かります。
オーストラリアでは同じ事故による傷害賠償の請求は一度きりなので、将来の懸念に対する適切な手当てが支払われるように、事故のけがが治癒し、その上でそのけががもたらした後遺症やそれに伴う治療、そして通常の生活が行えるように援助が必要な場合の費用などについても評価が必要です。ですので、傷害賠償について早期解決のケースを耳にすると、長期的な悪影響を考えた上で十分な補償請求が行われたのか? と疑問が生じます。長期的な治療にかかる費用の例として、10年間、月に1回フィジオに通うだけで1万ドル以上掛かることになります。
オーストラリアでは、原則として補償請求は、事故が発生しなかった場合と同様の生活を保障することを目的としています。これは単純に聞こえるかもしれませんが、けがの長期的な影響を考えると、この請求プロセスは複雑になります。一般的に、補償対象となる7つの請求領域は下記の通りです。
- 痛みと苦しみ:傷害そのものを補うための治療
- 過去の収入損失:事故の日から和解日までの収入を計算
- 将来の収入損失:予想される決済日から退職日までの収入を計算
- 過去のケアと支援:調理、清掃、洗濯などの家事支援や、治療や診断のための送迎支援
- 将来のケアと支援:和解日後から友人または家族によって提供される専門的または無償の支援
- 過去の治療費:事故の日から予想される決済日までのリハビリ費(多くの保険会社は、フィジオを含むリハビリ治療を勧めており、前払い支援を行っている)
- 将来の治療費:負傷者の残りの人生で予想される決済日から計算
濱田エマ
豪州弁護士。2015年6月MBA法律事務所入所。英日バイリンガルを生かし、同所の日本語部門で、交通事故や労災の負傷者の法律相談に日本語で対応する