INNER HOSPITALITY DESIGN
マリコさん
渋谷、西麻布などで人気の名店「ごりょんさん」のシドニー店や「スシトレイン」グループの店舗など、名だたる人気店のデザインを手掛けたきたインテリア・デザイナー、マリコさん。その個性的なデザインは多くのレストラン・オーナー、そして店のユーザーに愛されているが、彼女はどのようなこだわりを持ってデザインを手掛けているのか。インタビューを行った。
シドニーで数々の名店を生み出すインテリア・デザイナー
──20年以上にわたって数多くのレストランをデザインされていますが、インテリア・デザイナーの仕事の魅力をどのように感じていらっしゃいますか。
自分のデザインしたレストランで、私のことを知らない人びとが楽しそうに食事をしているのを見られるのがこの職業の特権ですし、苦労が吹き飛ぶ瞬間です。サリー・ヒルズの串焼きレストラン「ごりょんさん」のオープニング間近に、店の外をたまたま通り掛かったお洒落な女性が内装を外から見て「Beautiful !!」と思わず声にしているシーンを見ました。デザイン作業の不安や困難もその一声で、すべて報われたと感じ、うれしかったです。住宅やヘア・サロン、また、インド料理、イタリア料理などのレストランのデザインもしましたが、オーストラリアでの日本食レストランのデザインは面白いですね。
──マリコさんのインテリア・デザイナーとしての強みは何でしょうか。
大きく4つあると思います。1つ目は厨房など飲食関連設備のレイアウトのデザイン経験が豊富な点です。レストランの表と裏・客席側と厨房側など、両側からのニーズをくむことができます。
2つ目は、長年にわたる販売経験から、お客様の要望に合った厨房機具を販売・提供できる点。ショールームなどの経費がない分、お値打ちな価格で提供できる点を皆さんに喜んで頂いています。
3つ目に、過去の仕事経験からオーストラリアの諸規則に詳しい点です。ローカルの諸規則に関する知識なしにはデザインは始められません。近年、さまざまな規則によりDAと呼ばれる確認申請が複雑になってきています。そしてそのDAを私が手配できることも大きいと思います。
そして4つ目に水道排水、電気、照明もコンサルタントを使わずに私自身が工事用図面を作れる点です。専門家を手配すると通常数千ドル掛かりますのでコスト削減のお役に立てます。換気と空調は、他の専門家のエンジニア図面が必要となります。
──デザインの際には、どのようなことを心掛けていますか。
実は、オーストラリアで初めてのインテリア・デザインの仕事は、あるイタリア人のために行ったのですが、資金不足で、厨房機具の支払いが不可能となり、サプライヤーが、トラックで乗り込み機具をぶんどり返すという事態になったため、開店後すぐ倒産閉店してしまいました!私はとてもショックで、そのとき心に誓いました。「余分なお金は使わないでデザインをする!手掛けたクライアントは成功させる!」と。
手掛ける全ての物件はクライアントの財産ですから、10年以上、魅力を保持するデザインを心掛けます。また、サスティナブルをキーワードに、現場で再利用できるものはそのまま取り入れられるか検討します。以前、「Yayoi ギャラリーズ店」の実地設計を担当した時、ショッピング・センター側から以前の店の換気フードを廃棄するよう指示されました。しかし、掛け合って、そのままの形で、新しい厨房で再利用できるようしました。使える物を捨てないことでエコにつながりますし、時間短縮、コスト削減にもつながったと思います。大きな物でしたので、撤去費用、新しい換気フードの製作、取り付け費などを考えると、3万ドルは浮いたと思いますが、たぶんクライアントは認知していないかもしれません。
また、近年レンガ壁が流行っていますが、それ以前から私は現場にある物を取り入れるアイディアとして使っていました。例えば、「スシトレイン・ニュートラル・ベイ店」は、クライアントと工事業者双方が石膏(せっこう)ボードなどで覆い隠そうとするのを止めて、レンガ壁を守りました。照明が付いた時、ビルダーに「Mariko! I understand your design NOW !!(今になって、初めて、あなたのデザイン意図が分かったよ)」と言ってもらえてうれしかったです。来年で開店10年になるようですが、店内の雰囲気がいいというコメント付きで、先日、シドニーの40店(GoodFood.com.au-40 Quintessestially Sydney Eating and Drinking Experiences)の中に選ばれたそうです。
──「スシトレイン・ニュートラル・ベイ店」は屋根上にソーラー・パネルがあり、トイレの水には雨水タンクを利用していると伺いました。
エコの重要性は皆さん、分かっていると思いますが、設備の設置には初期投資が必要なので尻込みされる方が多いです。しかし、長い目で見れば節約になつながりますし、来店するお客さまの共感も得られます。「エコ=利益」という仕組みをもっと理解してもらえるとうれしいです。
──設計の際には店舗があるエリアの特色なども考えられていますか。
それぞれの地域の人たちが何を感じたいかということを常に意識しています。例えば、「スシトレイン・ローズベリー店」の設計では、自然が少ないエリアという印象のため、日本の框石(かまち)や、バーティカル・ガーデンを設置するなどしました。また、殺風景で歴史を感じさせないエリアを意識し、穴あきシャッターとアンティークの日本屏風で,インダストリー的なものと、そこにない伝統的なものをミスマッチとしてあえて組み合わせました。
──スタッフが働きやすい環境作りにも力を入れていると伺いました。
例えばフロア・スタッフが疲れないように歩く距離を極力少なくするために、テーブルから下げたお皿を洗い場と付近に置いた後、そこから数歩以内の位置でお客様に運べるレイアウト設計を努めてします。フロア・スタッフは疲れたら笑顔で接客できませんし、厨房にいるシェフもできた料理がなかなかピックアップされないとイライラします。イライラは伝染しますし、スタッフがピリピリしていれば、お客さんも空気で感じます。
──ずばり、これからのレストランはどうなっていくと思われますか?
人をひきつける魅力的な空間があるレストランが勝ち残っていくのではないでしょうか。最近は、ウーバー・イーツなどのデリバリーが人気ですが、もし、将来、大手の会社がデリバリーを低価格で、手広く始めたら、各レストランのデリバリー・オーダーは減る可能性があります。デリバリーが快適になってきている中、外食にわざわざ行きたいと思わせるために、インテリア・デザインの良さが重要になると思います。
──最近は、オーガニック食品に興味があるそうですね。
今後、食べ物の安全性、家畜のウェルフェア、自然食、菜食などを意識しているレストランは、していないレストランとの差が出ると思います。スーパーマーケットで、ケージ・フリー(平飼い飼育)の卵を買っている人は「ケージ・フリーの卵のみ使用」と掲げているお店を選ぶでしょう。他にも、オーガニックのてんぷら粉を使ったグルテン・フリーのてんぷらやしょうゆなどもアレルギーのある人に歓迎されると思います。また、農薬使用は消費者の健康だけでなく、それを扱う農家の人、流れた水の経路に住む全ての生物に影響を及ぼすのではないかと心配してしまいます。
──今後の展望についてお聞かせください。
これまでどおり、素敵で経験豊富なさまざなクライアントに出会い、満足いただけるデザインを作り続けたいと思います。スマートフォン世代は、ビジュアルのインフォメーションに手慣れていて手ごわいので、自身のアンテナをピカピカにする努力をします!
プロフィル
静岡県清水区出身。武蔵野美術大学インテリア・デザイン学科卒業。12歳の時、イギリスとフランスに旅行したことをきっかけに、逆に日本の文化に開眼する。「福島が危ない(広瀬隆)」という本を1990年頃に読み、日本を脱出。バリ島滞在を経て、原発のないオーストラリアに定住を決めた。INNER HOSPITALITY DESIGNを立ち上げる。さまざまな国の人に出会えるシドニーの生活が大好き。キューバ人の元夫との間に、1人娘あり。
Web: www.sydneyrestaurantdesigns.com.au