第74回
ブッシュファイアの被害者たち
9月初旬、クイーンズランド州南部のあちこちで大規模な山火事が起こりました。山火事が起きてしまう主な要因として、落雷やユーカリの倒木による摩擦熱が挙げられますが、放火が原因の場合もあります。ユーカリに含まれる油分に引火し、春先の突然の気温上昇、突風、湿度の低下などの気候条件が重なって、ゴールドコーストでは歴史上最悪と言われる規模に及びました。
最も被害を受けたスプリングブルック国立公園やラミントン国立公園付近の住民たちは緊急避難を余儀なくされ、ふもとの町カナングラには災害対策本部が置かれました。直接の救助や消火活動に当たっていた警察と消防からの要請を受け、野生動物保護団体ワイルドケア(Wildcare Australia Inc.)のボランティアたちも本部に常駐し、焼け出された野生動物の救助を行いました。
ハリモグラ、コウモリ、ワライカワセミ、ポッサムやコアラなど、たくさんの動物が保護され、治療を受けました。やけどや煙害に加え、何日も水や食べ物にありつけなかった動物たちはみんな疲弊し切っていました。
マディーと名付けられた5歳のコアラは、今も病院で治療を受けています。保護された時は耳、鼻と四肢にひどいやけどを負っていて、点滴や毎日の包帯交換が必要でしたが、1カ月経った今では包帯も取れ、皮膚もすっかり奇麗になりました。
治療を終えて野生に返せるほど回復しても、保護された場所は焼け野原と化しており、住処や食料となる木が再生を始めるには半年以上も掛かってしまいます。そのため、リリース先には巣箱や餌などが用意されました。野生に返ってしばらくの間、住みやすい環境が整うまでの手助けになるはずです。
床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。