オーストラリアで漫画、アニメ、SFやファンタジー映画などのファンが集うポップ・カルチャー・イベントは、7月に行われる「SMASH!」だけではない。8月28日(土)~29日(日)にかけてOz Comic-Conがシドニーで開催され、会場はたくさんの参加者で埋め尽くされた。2012年から開催されているOz Comic-Conは、マーベル作品から日本の漫画、アニメ、RPGとさまざまなジャンルが一堂に会する人気イベントの1つ。多くの来場者が自分の好きなキャラクターのコスプレをして参加するのも魅力の1つだ。本記事では、2日間にわたるOz Comic-Conの会場リポートと来豪したスペシャル・ゲストのアメリカ人男性声優アーロン・ディスミュークさんのインタビューをお届けする。 (取材・写真・文=水本隆)
グッズ売り場は戦場!
会場に入るとまず、お店が並ぶ物販ブースがある。そこでは多くのアニメ、漫画グッズが販売されていた。人気作品『ポケット・モンスター』のキャラクターを擬人化したオリジナルのポスターや『宝石の国』の手作りキーホルダー、アニメや漫画とは全く関係のないドクロのインテリア・グッズまでさまざまなものが並ぶ。今回のゲスト声優であるサラ・ウィーデンフェフトさんが主人公を務めた『小林さんちのメイドラゴン』のオリジナル・ポスターは初日の昼には完売。日本国外における人気の高さがうかがえた。小物グッズからコスプレ・グッズまで、売られているのはすばらしいクオリティーの物ばかり。来場者が一番多い昼頃には通路を通り抜けるのも一苦労だった。
憧れのあの人に会うために……
ゲストとの写真撮影の会場には長蛇の列ができていた。定番のポーズから変わったポーズまで、思い思いの写真を撮ってもらい、写真をもらった人たちは満面の笑み。その写真を持ったまま、隣のサイン会場に向かう人もいた。
サイン会場は開始予定時間になるとたくさんの人で溢れ、ゲストの姿はそばでなくては見ることができないほどだった。多くのファンが持参したポスターや写真、キャラクターのフィギュアなどにサインをしてもらいながら、憧れの人との会話に胸を弾ませていた。サイン会場から出る時には、サインをしてもらったポスターを見ながら涙を流す人もいるほどだった。
皆で作るオリジナル作品
休憩場所には塗り絵ができる広いスペースがあり、ブースを訪れた人たちは絵に思い思いの色を塗っていた。本来のキャラクターとは違う色を使って楽しんでいる子どもたちや、塗り絵の前で記念撮影をする人の姿が多く見られた。オリジナルの塗り絵が出来上がっていき、それが連なっていく様は圧巻である。
みんなで一緒にレッツ・ダンス!
会場にはダンス・ゲームの「JUST DANCE」が設置されており、日本のボーカロイドの曲からK-POP、洋楽とさまざまな曲に合わせて人びとが踊っていた。ここは非常に人気があったブースの1つであり、多くのコスプレイヤーたちが踊るために長い列をなしていた。待っている間もスクリーンの映像に合わせて踊っている人や、踊っている人を見て観覧席で小さく踊る人など、ブースが一体となって盛り上がっていた。一緒にダンスを踊って仲良くなってから、再び一緒に踊るために列に並びに行く人たちもいた。
スペシャル・ゲスト、特別インタビュー!
アーロン・ディスミュークさん
アメリカの男性声優。9歳で『フルーツ・バスケット』の草摩燈路(そうまひろ)役で声優デビュー。主な出演作に『鋼の錬金術師』(アルフォンス・エルリック役)、『血界戦線』(レオナルド・ウォッチ役)、『アルスラーン戦記』(アルスラーン役)など多数。脚色家やディレクターなども務める。同イベントのサイン会場では、1人ひとりに対して時間を掛けて丁寧に接していた。
――日本の漫画やアニメについてどう思いますか?
日本の漫画やアニメは本当にすごいと思います。子どもの頃は、西洋のバトル漫画ばかり読んでいました。西洋漫画の良いところは、コマを追わなくてもすぐにストーリーがわかるところですね。正義と悪がはっきり分かれていて、悪役は「美しいものが嫌いだから、世界を黒く染めたい」というような絶対的な悪者です。でも、日本の漫画やアニメは違います。例えば、私は今「Dr.STONE」という、文明が滅んだ世界で主人公が科学文明を復活させようとするストーリーのアニメに携わっているのですが、主人公である千空は科学で世界を良くしたいと思っている反面、冷淡で利己的な面も持っています。このように日本のアニメや漫画には二項対立のものは少なく、日本のアニメに携わるたびに、日本のアニメは複雑だと感じますね。
――日本語と英語のセリフには差があると思いますが、それで困ったことはありますか?
セリフをどのように英語で言うかにほとんどの時間を費やしているかもしれないですね。スクリプト・アドバイザーの仕事もしているのですが、実際に『東京喰種 トーキョーグール』での私のお気に入りのセリフを例にして説明しますね。セリフは「殺してやる」というものなのですが、翻訳すると“I’m going to kill you. Blah, Blah, Blah, Blah, Blah.”と、とても間が空いてしまいました。だから、“I’m going to kill you.”を長く言い換える必要がありました。その場面と照らし合わせて、“When I’m through with you, you’re going to be picking up your teeth with broken figure.”と変えることで、セリフが長くなった上に、パンチが効いてクールな感情を乗せることもできました。
――レコーディングの時に気を付けていることは何ですか?
レコーディング中、自分に起こる問題は自分で対処しなければいけません。例えば、のどが乾燥してしまうと、違和感があるように聞こえてしまうので、全テイクの間に水を飲むようにしています。今日のようにファンと話をしたり、インタビューを受けたりなど、休みなく話をするところでも、のどを潤す必要があるので、痛み止めをいつもポケットに入れて持ち歩いています。声優は皆、のどをとても大切にしています。目一杯叫んでも声が枯れない叫び方があるそうなのですが、私はその方法をまだ知らないので、悲鳴を上げなくてはいけないシーンの度に、咳や血が出ないようにと願うことしかできていません。また、レコーディングにおいて、私とディレクターにセリフを最終的に決める権利があることを忘れないようにしています。セリフは作家によって事前に翻訳されていますが、それがキャラクターらしいセリフになっているのかどうかを私たちが確認するんです。その時には、日本の声優の考えをくみ取って、セリフに違和感がないように気を付けています。
――1つのエピソードのためにどのくらい練習をしますか?
スクリプトを事前にもらうことができないので、前もっての練習はできません。なので、スクリプトをもらってすぐに説得力のある読み方ができるようなやり方を身に付けています。まず日本人声優のバージョンを一度見てみて、それから彼らがどのように行っているのかを5~6回は確認し、それと同じタイミングと熱量になるようにレコーディングをします。ディレクターの満足のいくものとなっていたら、そこで仕事は終わりです。でも、もし満足のいくものでなければ、満足のいくようになるまでずっと居残りですね。
――『鋼の錬金術師』で演じられたアルフォンス・エルリックは疲れ知らずで、眠らなくても大丈夫ですが、食べ物を食べられません。彼についてどう思いますか?
アルフォンス・エルリックは食べたり眠ったりすることはできないけれど、楽しく行動しているので興味深いと思います。もし、彼のような力を持っていたら、人の助けになりたいですね。例えば、ハリケーンの来る所へ行き、人びとを自分の鎧で守ってあげたり、家に閉じ込められている人を出してあげ、できるだけ多くの人を救おうとすると思います。自分のできる限りのことをするという点では、作中のアルフォンスと同じですね。
――今後やってみたいキャラクターは何ですか?
これまで面白いタイプのキャラクターを演じてきました。以前はタフな男役を演じることが多く、今も何作か演じてさせて頂いていますが本当に楽しいです。また、とても教養のある、決して気持ちを表に出さない高貴なキャラクターも演じてみたいです。