法律相談室/バックパッカー税

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知ってると知らないでは大違い!
日豪プレス 法律相談室

第62回 バックパッカー税

オーストラリア連邦裁判所は10月30日、連邦政府が定めた通称「バックパッカー税」を無効と判断しました。これにより、日本人を含む多くのワーキング・ホリデー・ビザ所有者が、税金の返還を受けることになりそうです。

ワーキング・ホリデー・ビザ所有者に対し、税率15%の所得税を課する新税法(417あるいは462ビザを保有してオーストラリアに滞在する外国人は、オーストラリア人に対する扱いとは異なり、年収18,200ドル以下であっても15%の所得税を支払わなければならない)が施行されたのは記憶に新しいことと思います。それ以前は個々の条件にもよりますが、ワーキング・ホリデー・ビザ所有者であってもオーストラリア人同様、年収18,200ドルを超えなければ所得税を払う必要はなく、それを超えた額に対して、累進課税方式によって課税されるという方式でした。

連邦裁判所が出した画期的判決は、バックパッカー税を“国籍に基づくある種の差別”とし、ワーキング・ホリデー・ビザ所有者(今回の裁判の原告、オーストラリアにワーキング・ホリデー・ビザで滞在しているイギリス人)にこれを課すことはできないというものでした。裁判所はまた、イギリス・オーストラリア間で合意されている二重課税回避条約の無差別条項に違反する税法であると説明しました。

同種の課税条約はオーストラリア・イギリス間だけでなく、アメリカ、ドイツ、フィンランド、チリ、ノルウェー、トルコ、そして日本を含む複数の国々とオーストラリアとの間で結ばれています。そうしたことから、上記判決が日本やその他の国々から来たワーキング・ホリデー・メーカーにも適用される可能性があることは知っておくべきでしょう。

統計によると、毎年15万人もの外国人がワーキング・ホリデー・ビザでオーストラリアを訪れていますが、2016年半ばから2019年半ばにオーストラリアで働いたワーキング・ホリデー・メーカーの約半数に、今回の判決が適用される可能性があるようです。

連邦裁判所がこうした判決を出したというニュースは、幅広く称賛されています。なぜならオーストラリアの多くの農場経営者は、バックパッカー税が施行されてから農場で働くワーキング・ホリデー・メーカーの減少について心配していましたし、観光業界もオーストラリアの観光業全体に与える影響について危惧していました。オーストラリアの農場ではその労働力を外国人に頼っている部分があり、例えばQLD州の農園では果物の採集時期になると、そこで働く労働者(フルーツ・ピッカー)の9割近くが日本人を含むワーキング・ホリデー・メーカーであることもあります。一方、この画期的判決に不服なオーストラリア国税庁は、上訴の可能性もあると発言しています。


ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として25年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。

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