アパートの所有物件を強制的に開発業者に売ることに…あり得る話ですか?

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Q

アパートの一室を所有し居住していますが、住民の間で開発業者に物件を強制的に売らされるのではという懸念が出ています。私は今の家を売らされると他に行くところもなく大変困ります。そのようなことがあるのでしょうか。(70代男性=無職)

A

単刀直入にお答えすると、あり得ます。以前は集合物件に大幅な改築や建て替えを施したり、一棟売却を行ったりする際には物件所有者全員(100%)の合意が必要とされていましたが、2016年11月30日のNSW州における法改正により、75%の合意でそうした行為が可能となりました。同法改正の背景には、建物の老朽化などで妥当に必要とされる改築が1人のオーナーの頑なな反対でとん挫したり、反対者を同意させるために多大な時間やコストが生じたりする事情がありました。特にシドニーを中心とした都市部で人口が急激に増加している中、より効率的なタウン・プランニング(都市計画・整備)を行っていくためという理由もありました。従って、ご自身の意思に反して売却への合意を余儀なくされるという意味合いから「強制的に売らされる」ことがあると言えるでしょう。

だからと言って、追いはぎのような暴挙にさらされるわけではありませんのでご心配なく。この新しい法律の適用を受けるかどうかは、まず所有者会議で決められる必要があります。所有者の過半数が採択に同意しなければこの法律の適用を受けることはありません。過半数に達し新法の採択が決定した場合には、その後のプランが公平かつ公正に行われるかどうかの確認も含めて裁判所の許認可を得るプロセスが始まることになります。

同法律は、プランに反対の少数派(25%未満の内の1人)の権利保護に関する規定も設けています。全ての所有者に最低60日間意思決定のための猶予が与えられ、また、例えば売却の場合には、最低でも対価として市価が支払われる上に、妥当な費用の補ほてん填が保証されると規定しています。究極的には、こうした1人ひとりの処遇が、与えられた状況下において、公正かつ公平に行われているかどうかを判断するのは裁判所であるとも規定しています。

ただし、この新法は成立してから今日に至るまで、裁判所での争議の対象とされたことは数少なく(注:2019年8月8日の判例を例外として)、同法の運営の有効性が十分に試されるに至っていません。つまり、この法律があらゆる状況下で適用可能であるかどうかは、今後検証されていく段階にあるということです。同法は表面的には全ての「ストラータ(区分所有権)」物件に対応するものと定義しています。しかし、果たして実際にそうでしょうか。住宅物件の階下にオフィスや店舗が混在したストラータ物件などもありますが、そうした物件ではそれぞれの物件の所有者の利害は同じと言えるでしょうか。同じ建物の中であっても、そこでビジネスを営んでいる人と住居として住んでいる人とでは、引っ越しに対する抵抗度がかなり異なるのではないでしょうか。

つまり、この法律は今後修正されていく可能性が高く、現段階では皆の動きが注視されています。従って、「強制的に売らされる」という懸念を持った場合には、早い段階で弁護士に相談し自身の権利が守られるためにも早めに行動を起こすことをお勧めします。なお、本記事は、法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。

*オーストラリアで生活していて、不思議に思ったこと、日本と勝手が違って分からないこと、困っていることなどがありましたら、当コーナーで専門家に相談してみましょう。質問は、相談者の性別・年齢・職業を明記した上で、Eメール(npeditor@nichigo.com.au)、ファクス(02-9211-1722)、または郵送で「日豪プレス編集部・何でも相談係」までお送りください。お寄せ頂いたご相談は、紙面に掲載させて頂く場合があります。個別にご返答はいたしませんので、ご了承ください。


山本 智子(やまもと ともこ)
Yamamoto Attorneys

1998年NSW大学卒業(法学士・教養学士)。同年弁護士資格取得。1998年より数々の法律事務所での経験を重ねた後、「Yamamoto Attorneys」を設立、現在に至る

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