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新・豪リークス/渋沢栄一の玄孫が語る、日本が世界で生き残る道とは?

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現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第31回 渋沢栄一の玄孫が語る、日本が世界で生き残る道とは?

11月7日、海外を拠点とする日本人企業家ネットワークであるWAOJEがゴールドコーストで開催したフォーラムで、渋沢栄一の玄孫(やしゃご)で実業家の渋澤健氏が基調講演を行った。“日本の資本主義の父”のDNAを受け継ぐ氏に「日本が世界で生き残る道」について聞いた。

◇WAOJEフォーラムに世界中から日本人起業家らが集結

WAOJEグローバル・ベンチャー・フォーラムで基調講演する渋澤健氏(ゴールドコースト11月7日、筆者撮影)
WAOJEグローバル・ベンチャー・フォーラムで基調講演する渋澤健氏(ゴールドコースト11月7日、筆者撮影)

海外を拠点とする日本人起業家のネットワークである「WAOJE(ワオージェ)、World Association of Overseas Japanese Entrepreneurs」が主催し、11月6日から3日間の日程で開かれたグローバル・ベンチャー・フォーラム。世界13カ国で活躍する日本人起業家ら約300人がゴールドコーストの会場に集結し、60人を超える講演者や講師が、海外での起業やビジネスを展開していく上で参考になる26のセッションを行い、筆者もモデレーターの1人として参加した。

このフォーラムの基調講演を行ったのは、新1万円札の顔となる“日本の資本主義の父”、渋沢栄一の5代目に当たる実業家の渋澤健氏。同氏は小学校2年の時に渡米し、その後、米国の大学と大学院を卒業。外資系の銀行や証券会社を経て、世代を超えた長期投資を行うコモンズ投信を創業。渋沢栄一の思想を現代に伝える経営塾なども主宰している。

「渋沢栄一の『論語と算盤』で未来を拓(ひら)く」と題して、世界における日本人への期待について基調講演で語った渋澤健氏に、講演後単独インタビューを行った。

◇渋沢栄一とサステナビリティー

インタビューで渋澤健氏は、「実は渋沢栄一は、“資本主義”という言葉は使わず、“合本主義”と言っていました。企業の存在意義は、株主の利益のためだけではなく、従業員や顧客はもちろん、競合企業や地域社会など利害関係者全てを含むステークホールダーのためとする考え方です」と述べた。

渋沢栄一は、経営者1人だけが大富豪になってもそのために社会が貧困に陥るようでは、幸福は維持されず、道徳や精神を説く「論語」と、ビジネスや金儲けの象徴である「算盤」は“甚(はなは)だ遠くして甚だ近いもの”と解いたという。

「たくさんお金を稼いで儲けることは悪いことではないが、それを正しく使わなければ、その富は完全に永続することはない。したがって、「論語」と「算盤」というかけ離れたものを一致させることが今極めて大切な務めであると渋沢栄一は強調したのです」――渋澤氏

2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を採択し、今や世界の企業が社会的正義を追求するよう迫られている。渋沢栄一は、100年以上前からサステナビリティー(持続可能性)の重要性を唱えていたのだ。

◇日本は30年周期で繁栄と破壊を繰り返す

「成功体験を持たない若者のスイッチを入れることが重要」と語る渋澤健氏
「成功体験を持たない若者のスイッチを入れることが重要」と語る渋澤健氏

「今は“破壊されている30年”の29年目だ」と、渋澤氏は言う。日本の近代社会は、明治維新から2度の大戦、戦後の高度成長から現在の不況の時代と、30年周期で繁栄と破壊を繰り返しているというのが、渋澤氏の見方だ。

未来には“見える未来”と“見えない未来”があり、“見える未来”は、少子高齢化で若者が少数派のマイノリティーとなる暗い未来。“見えない未来”というのは、若者に過去の成功体験がない、まさに破壊された現状から出発する“モノからコト”、“量から質”の社会。つまりこれから“繁栄を作っていく未来”だと渋澤氏は語る。

「人口が増えないと豊かになれません、というのは過去の成功体験だと思っていて、ある意味で日本はその課題の先進国であるからこそ、人口が減ったとしても幸せで豊かな生活を送ることができれば、それは世界のためにもなる。つまり日本が、“Me”のためではなくて“We”のためになれる可能性がある時代だと思っています。英語が話せない、読めない、書けない日本人でも、テクノロジーを使えばそれらのことは自動的にやってくれる。大事なことはスキルではなくて、心。自分の思いを表現したい、自己実現したい。そのような世の中を作りたいというスイッチが入れば、いろんな可能性があるのではないかと思っています」

◇海外在住の日本人には “斜めの視点”がある

また渋澤氏は、海外に住んでいる日本人だからこそ持つことができる“斜めの視点”があり、それが今後の日本の発展にとても重要だと強調する。

「私は海外育ちの日本人です。海外で暮らしている日本人は、日本を逆に意識する。なぜかと言うと、ずっと日本の組織などにいると自分が日本人であることは当たり前ですが、海外では、毎日のように自分が日本人であることを相手に伝えなければなりません。また、日本のことを意識せざるを得なくなる。日本にはノウハウや技など資源があるのに、日本にいる日本人はそれが資源として見えていない。しかし海外の日本人には、それがとても“もったいない”と見えてくる。なぜ見えるかと言うと完璧に内側でもないし、外側でもない両方の側面を持っているから、斜めに物事を見ることができる。そうすると、今まで見えなかったことが見えてくると思うのです」

◇“スイッチ”を入れれば、日本は世界で生き残れる

筆者の単独インタビューに答えた渋澤健氏
筆者の単独インタビューに答えた渋澤健氏

「日本では、若者は少数派です。インターネットを共通点とする彼らは、デジタル・ネイティブです。考えてみるとインターネットには国境がない。意識として“自分は日本にいながら世界とつながっている”という“スイッチ”が入れば、案外見えない未来の可能性があると思うのです。これから発展途上国が、日本が今当たり前だと思っているような社会を求め、目指してくる。日本の若者が、そのような国の人びととつながり、発展に積極的に関与することによって、その恩恵を日本に呼び込むことだってできる。私たちのような古い世代は、若い世代をもっと応援すべきだと思うのです」

破壊された30年の中で育ち、成功体験を持たない日本の若者が、自分の思いを表現し、自己実現できる社会を構築するための“スイッチを入れる”ことが重要だと話した渋澤氏。インタビューの最後にこう語ってくれた。「AI(人工知能)は、有から有を作って、そのまた次の有につなげることは得意です。でも人間は無から有を作り出すことができる。日本人は“ご縁”という言葉をよく使います。偶然なのか必然なのか、“ご縁”がつながりましたよねと言います。英語に訳すのは難しいけれども、非常にすてきな考え方。ご縁がつながってまた新しいことがそこから始まり、それを繰り返していけば、今日より良い明日が実現できるのではないかと感じます。これは、元々日本人が持っている精神かもしれないですね」


飯島浩樹(いいじま・ひろき)
TBSシドニー通信員、FCA-豪・南太平洋外国記者協会会長、豪州かりゆし会会長、やまなし大使など。2019年5月、小説『奇跡の島~木曜島物語』を出版

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