検索
Close this search box.
検索
Close this search box.

古都・奈良の名産「柿の葉寿司」/出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

SHARE
出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の伍拾壱
古都・奈良の名産「柿の葉寿司」

 奈良の名産の1つに「柿」があります。奈良の柿は、標高100メートルから400メートルの山間で育てられ、年間平均気温が14~15度。水はけの良い傾斜、柿の生育に最適の条件の風土の下、大事に栽培されています。

 実は、奈良県五條市に妻の叔父が営む柿樹園があり、幾度か訪れる機会がありました。旧街道を抜け、田畑が美しく続く中、細い道を進むと小高い丘に、柿山が続く光景が見られました。冬は閑散とした柿の木が、夏には青々と葉が茂げり、夏の終わりには実が付き始め、秋になるとオレンジ色の立派な柿へと成長し、収穫の季節を迎えます。

 1年を通して仕事は尽きないそうですが、季節と共に変化する柿山を愛し、収穫できた柿を喜んで食べてもらえた時の達成感、また柿山を継承する責任など、さまざまな話を妻の叔父から聞きました。真心を込めて作られた作品には素晴らしい結果が生まれ、皆さんに愛される。その喜びは、料理ともよく似ていると思ったものです。

 実は数年前、日本の和歌山県から柿の経済視察団がオーストラリアを訪れました。そして、視察団が持ってきた、奈良で見たような、それはそれは素晴らしくふっくらした形の柿を手にしたときには、強い郷愁を感じました。同時に、ここオーストラリアでも日本の新鮮な果物が食べられる日が来るのも、そう遠くはないと思えました。

 その柿を、私の友人でイタリア系オーストラリア人の大手食品業界の方にお届けしたところ、イタリアでも子どもの頃から食べていたそうで、「柿」はイタリアにおいて国民的な果物の1つだと教えてくれました。そして、日本の柿には繊細な味があるというコメントを頂き、とても誇らしく思いました。

 また、奈良の「柿の葉寿司」も、郷土料理としてよく知られています。海のない奈良の村で魚の寿司が生まれた理由について、「柿の葉寿司」の老舗「たなか」さんのご説明から引用したいと思います。

 奈良県は和歌山県との交流が盛んでしたが、かつては、今とは違い流通に時間が掛かりました。そのため、サバなどの魚は濃い塩味を付けられて旅をすることになるのですが、何とかこのサバを薄塩にした寿司を出来ないものかと考え、なれ寿司の料理法を駆使し誕生したのが、今日の柿の葉寿司だそうです。

 柿の葉はタンニン、ビタミンが豊富で、ヘタの部分は漢方薬にも使われ妙薬です。サバを寿司飯と共に柿の葉で包む事によって発酵させる工程が完成しました。創業50年の老舗店では塩は赤穂産、サバは焼津産とのことですが、現在では、サーモンはノルウェー産を使うなど新たな挑戦も行っています。発酵段階で生まれる旨味と魚が交差する味わいは誰もが賞賛するおいしさです。

 以前、紹介した私の著書『Essentially Japanese』より更にさかのぼり、2001年に発行した著書『Japanese Flavour, Modern Classic 』では、奈良県五條市にある大正13年創業の五条酒造を訪れ、社長の中元さんに取材させて頂いたことがあります。

 旧家が並ぶ一角にある醸造所には金剛山からの清流が引かれています。そして、昔ながらの佇まいのままのお酒のプランテーションの姿を見ることができました。お米には地元の五條米を使用。奈良のうるはし酵母を使用し、少量生産の限定された出荷量に拘ったお酒作りをされています。

 同酒造を代表する「五神」を試飲をした際には、漂う爽やかな香りの中にもしっかりした味わいを感じました。五神、即ち5つの神によって守られ誕生したというロマンあるお酒です。

 2019年には、五条酒造の現在の社長らがシドニーに視察団一行として来られ、偶然にもお会いすることができました。社長からは、取材時にお会いした先代社長であるお父様が他界されたことを聞き、寂しさも感じましたが、継承された息子さんとシドニーで会えたのは感無量でした。日本酒は、今や海外でも知名度が上がり豪州人の中でも人気のある飲み物となって来ています。そんな中、今後、昔ながらの地元で愛されている酒造所の日本酒が海外へ向けて紹介される機会が増えてきていることは、大いなる楽しみでもあります。

 長く日本食を紹介する仕事に関わらせて頂いていることもあり、ご子息があとを継ぎ伝統を守っていらっしゃるという話を耳にする機会も多く、うれしく思います。世代をつなげるということは、今後ますます重要になってくるでしょう。

このコラムの著者

出倉秀男(憲秀)

出倉秀男(憲秀)

料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章。





SHARE
文化の最新記事
関連記事一覧
Google Adsense