【新連載】しごとば拝見!日豪をつなぐ私の経営流儀 JTB取締役社長 阿部晃士さん

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しごとば拝見!日豪をつなぐ私の経営流儀

JTBオーストラリア
取締役社長 阿部晃士さん

 日本とオーストラリアの架け橋として、各方面で重要な仕事に取り組んでいる日系企業の社長をはじめとした日豪をつなぐキーパーソンの「しごとば」を編集長が直撃、その人となり、仕事の流儀を聞いていく新連載。第1回はコロナ禍で最も苦しい業界の1つである旅行産業の未来を担うJTBオーストラリア社の阿部晃士社長を訪問。この苦境をどう乗り越えようと考えているのか、またこれまでどのような思いでキャリアを築き、何を目指しているのか、話を伺った。(聞き手・写真:馬場一哉)

逆風吹き荒れる中、
新たなチャレンジに活路を見出す

──連載初回へのご登場、快諾頂きありがとうございます。

「このような機会を提供頂き、こちらこそ感謝です」

──阿部さんのイメージとしてしっくりくるのは、旅行業とは全く異なる事業へのシフトを推し進める「改革者」ですが、ご自身ではいかがですか。

「20年以上前から旅行代理店不要論を口にしてきました。ましてコロナ禍で旅行ビジネスがない中、売り上げをどのように作るか考えねばなりません。既存の旅行業からの業態変革は最重要課題です」

──変革の際には、反発する方もいるでしょう。

「僕の意見がいつも正しいわけではないですし、『えっ』って思う人もいるでしょう。そこで大事なのは対話です。双方が理解し合える状態まで時間を費やすことが重要ですが、これはオンライン・ミーティングではなかなか難しい。対面しないと空気感は分かりませんから」

対面のコミュニケーションこそが大切と話す
対面のコミュニケーションこそが大切と話す

──反発される方は、一方で会社のことを思っているからこそという側面もあります。

「ええ、その通りですね。考えているからぶつかるわけであって、とても大事なプロセスだと思います」

──阿部さんが社員への教育で特に重視されているのは整理整頓と聞きました。

「それと、あいさつです。人としての基本です。仕事のテクニカル的な部分やスキルは教えれば誰でもできますが、ベースとなる人の考え方を変えるのは難しい。ですから、自身で考えさせるコーチングの手法も取り入れながら、繰り返し指導し理解を促しています。整理整頓ができない人は頭の中も整理されていない状態だと言えます。物を探す時間も無駄ですし、ミスも発生しやすくなります。私たちの仕事は確認の連続。お客様から言われたことを完璧に手配する必要があります。できなければ信頼を失いますし、一方で期待値より少しでも良い結果が伴えばお客様は喜びます」

得意ではないことをやらせては駄目

──シドニー北郊の日本食レストランで「ジンギスカン・ナイト」という催しを昨年末に企画し、自ら店頭に立ち、日本のジンギスカン・ソースの販売なども行っておられました。

「旅行がない中、日本食文化のカルチャー・サロンなど、社員からいろいろなアイディアを吸い上げています。そして大事なのは実行すること。それによって社員のモチベーションが飛躍的に高まるからです。新規ビジネスでの成功は極少です。そのため、多くの人は失敗を恐れ過ぎ、途中で諦めてしまいます。しかし、成功したいのなら多くの失敗もまた必要なのです。もちろん、同じ失敗を繰り返すのは論外ですが。僕自身、新規事業で会社に居場所がなくなるほど多額の赤字を出したり、会社から評価されない冷遇時代もありましたが、その後マイナスを帳消しにする大きな仕事を獲得し、信用を取り戻しました」

ジンギスカン・ナイトでは北海道のプロモーション活動も
ジンギスカン・ナイトでは北海道のプロモーション活動も

──なるほど。そのような経験からチーム・マネジメントで気を付けてらっしゃることはありますか。

「部下のできること、できないことの見極めですね。マルチタスクが得意な社員もいればそうでない社員もいます。得意ではないことは無理にやらせず、得意な所を伸ばしてあげる方が会社はうまくまわりますし、それができないと失敗します。『部下が使えない』と嘆いている役職者の多くはそこの見極めができていないのだと思います。そうならないためには、社員1人ひとりと対話し、特性を見極めることが肝要です。プロ野球でもサッカーでも監督の采配が重要ですが、会社も同じだと思います」

オーストラリアとの接点を少しでも多く持つ

取材中もデスクに向かいメールをさばいていた
取材中もデスクに向かいメールをさばいていた

──昨年末、シドニーで行われた「JAPAN EXPO」でも、シャワー・ヘッドのプロモーションを行うなど、やはり現場の先頭におられました。

「成功している会社は、トップ自らよく動きます。昔のように会社で椅子に座っているだけでは駄目です」

──シャワー・ヘッド販売、北海道ジンギスカンの啓蒙など、コロナ禍で新たなアイディアを形にしておりますが、未来像をどのようにお考えですか。

「JTBオーストラリアは今年で60年を迎えます。これまでは日本から来るお客様にフォーカスし、また近年はオーストラリア人の訪日旅行も増加傾向にありました。しかしながら、コロナ禍で状況は一変、旅行業というミクロ的な考え方から裾野が広い観光業に視野を広げる必要性が生じてきました。私たちがすべきことは、旅だけではなく、日本の食文化やJapanブランドをオーストラリアで広げ、人びとをハッピーにすると同時に、日本に興味を持って頂く人を増やすことだと考えています。日本文化の面白いところをしっかりと深く、丁寧に伝え、日本を更に好きになってもらう。まさしく感動プロデューサーを目指さねばなりません。日本ではJTBの知名度は高いですが、60年たってもオーストラリアでは浸透していません。今後は、JTBオーストラリアとして社会貢献やボランティアの場などにも積極的に出向き、この国の方々、そして来豪する旅行者との接点を多く持ち、知名度を上げ、ビジネス・パートナーのご支援、協力を得ながら真のグローバル・カンパニーに進化しなければなりません」

──来豪以来、短期間でさまざまなアイディアを実現してきていますが、残念ながら3月末で帰任されることになったと伺っています。

「ええ、実現したいことがまだ山ほどあり道半ばでの帰国にショックを受けています。一緒に働いてきた社員、パートナーに対して本当に申しわけない気持ちで一杯ですが、先行きが不安定な観光業、まずは日本から立て直しをするため、50年間暮らしていた北海道へ戻ることになりました。現在、札幌は2030年冬季オリンピック・パラリンピックの誘致を行っています。決定した際には、2032年夏季ブリスベン・オリンピックと連携した国際共同プロモーションを仕掛けるなど、オーストラリアと北海道を結ぶ新たなビジネスの創造を考えています」

──阿部さんのように、動けるトップが日本国内でも求められているということですね。ご活躍、楽しみにしております。

「ありがとうございます。北半球×南半球で大きなムーブメントを起こしていきますので、これからもお付き合い頂きたいと思います。ヒューマン・ネットワークは私の宝物です」

2度目の成人を目指して

──阿部さん個人として、達成されたい夢というのはございますか。

「実はオーストラリアに来た際、自分が人生で一番輝いている年を72歳と決めたんです」

──どのような理由から。

「現在52歳なのですが、20年後に経済的にも精神的にも全てがピークであるようにしたいと考えました。現在を生まれたばかりと仮定し、20年間いろいろな挑戦をして2度目の成人式を迎えたい。そんな思いでいます。心身の鍛錬、資格取得や新しいビジネスへのチャレンジ、そして趣味の継続、今からできることはいくらでもあります」

──最後に、さまざまなチャレンジをされている日豪プレス読者にメッセージをお願いします。

「チャレンジに遅い事はありません。しかし途中でやめるとゼロになってしまうので、少しずつでも継続することが大事です。また、自ら新しい場所を訪れ、新しい人に出会うことも重要です。情報過多時代、スマホがあれば大抵の情報が得られますし、コミュニケーションは可能です。しかし、私たちはロボットではありませんし、五感を研ぎ澄ませて人と会うことがとても大事だと思います。匂いや熱量は画面越しでは感じられません。積極的に前に出ていく姿勢を特に若い人には持ってもらいたいです。そのためにも我々大人が手本になれなければなりません。人生に定年はありません。最後まで夢を持ち、希望を持ち、健康で楽しく生きていきましょう。本気で生きれば、必ず良い事が起きます」

──本日はありがとうございました。

<会社概要>

JTB Australia Pty Ltd
オーストラリア国内にシドニー、メルボルン、ゴールドコースト、ケアンズの4つの拠点を持つ総合旅行会社。日本からのパッケージ・ツアー、教育旅行、団体旅行、日本以外の国からのオーストラリア旅行のアレンジなどオーストラリアへのインバウンド事業、オーストラリアから日本へのアウトバウンド事業、オプショナル・ツアーなど旅行商品の他、日本の美容シャワー・ヘッド、日本食品の輸入・販売なども開始予定

<プロフィール>

アベ・コウジ
1992年JTB入社。法人旅行や教育旅行など10年間の旅行営業を経た後、北海道営業本部で総務・人事担当。その後、大阪の総合企画会社での半年間のインターンを経て2004年10月、再度札幌に戻りMICE業務に従事。FISノルディック・スキー世界選手権札幌大会、G8北海道・洞爺湖サミット、APEC貿易担当大臣会合等行政系大型会議の責任者などを歴任。地域創生や企業の販促、新規事業開発に多数携わり、観光関連の講演や執筆多数。2年間の香港駐在を経て2021年よりシドニー。北海道生まれ

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