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「グリーン」水素を通じて次のゼロ・エミッション革命を作り出すには?(後編)

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BUSINESS REVIEW

会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。

「グリーン」水素を通じて次のゼロ・エミッション革命を作り出すには?(後編)

 地球上で最も豊富に存在する元素は水素ですが、クリーン・エネルギー源として活⽤することが実現可能かどうかについて数十年にわたって議論が重ねられた末、ようやく注目を集めつつあります。

「グリーン」水素の課題

 各国政府のインセンティブ政策がなければ、「グリーン」⽔素がその他の⽔素製造⽅法とコスト面で競争力を持つようになるには(用途・使われ方に関する技術・業務面での成熟度によるものの)少なくとも30年まで掛かるはずです。

 一方、既に⽔素をエネルギー製造の⼯程に投⼊する「原料」として使⽤する場合には、「グリーン」⽔素への移⾏に必要となる投資は少なく済み、コスト差も⼩さくなるため、より早くコスト競争⼒を獲得できるでしょう。

 裏腹に、天然ガスから⽔素への移⾏については、水素がコスト競争⼒を獲得するまでの時間を最も要する領域かもしれません。移行は温室効果ガスの排出量に最も⼤きな影響を与え、対象市場も⼤きいものの、「グリーン」⽔素がコスト⾯で天然ガスに並ぶのはまだ先の話です。

「グリーン」⽔素の導⼊を「今」検討すべき理由

 ⾼いコストにもかかわらず、「グリーン」⽔素の需要は拡⼤しています。EYパルテノンの調査によると、「グリーン」⽔素製造の市場規模は30年までに、設備容量にして140ギガワット(GW)近くに達すると予想されます。20年時点の設備容量が累積で1GW未満であることを踏まえると、⼤幅に増⼤することを⽰唆しています。

 ⽤途市場の側面から見ると、(P2G(powerto-grid)とP2P(power-to-power)を含む)エネルギー源としての重要性が最も増し、特に「グリーン」水素普及の第2段階においてその傾向が加速すると予想されます。産業用エネルギー(“On-Site”における備蓄設備拡大が中心と想定)や輸送機械向けの燃料電池の容量についても、費用対効果が加速度的に高まる可能性があります。

 欧州から中国・アジア、北アフリカから⽶国に⾄るまで、「グリーン」⽔素の導⼊を加速させる意欲に、地域による差異はほとんどありません。

 前提として、本資料での見解は極めて広い範囲のシナリオの平均的な見方に過ぎません。この市場を正確・確実に予測するのはまだ時期尚早です。各国・地域の目標は、各国政府のエネルギー・アジェンダと強く結びついており、事態は逐次・断続的に変化していくものと思われます。

 需要の増加をけん引する要因については、各国政府や企業における脱炭素化への取り組みが重要な役割を果たしており、各国政府や企業が燃料電池自動車の導入を目標としていることも挙げられます。

 15年12月に194カ国がパリ協定に署名し、今世紀の地球の気温上昇を2℃以下に抑え、1.5℃に抑えるための努力を追求することを約束しました。また、同協定では、全ての署名国が気候変動の影響に対処するために最善の努力をすることが求められています。

 この野心的な目標を達成するためには、世界中の国々が温室効果ガスの排出量を削減するためのステップを1つひとつ駆け上がって行かなければなりません。

 19年、欧州連合(EU)は、30年までにEUの温室効果ガス排出量を199 0 年比で5 0%から55%に削減することを目指す法律(欧州グリーン・ディール)を導入しました。

 一方、中国は、「2020年までに鉄鋼生産において排出される4億8,000万トンの二酸化炭素容量を『超低排出』基準に適合させることを義務付ける」という措置を取ることに迫られています。また、エネルギー製造における石炭への依存度を下げるため、電力網の整備も進めています。

 米国では、カリフォルニア州が06年に地球温暖化対策法を制定し、州全体で温室効果ガスの排出量を制限するなど、先進的な取り組みを行っています。16 年にはより高い目標を掲げ、温室効果ガスの排出量削減目標を30年までに1990年比で40%削減することになりました。

 10年後ではなく今、「グリーン」水素を検討すべきもう1つの理由は、「グリーン」水素の分野で先駆者となることで、競争優位を確立できるチャンスがあるからです。テクノロジー企業は、より優れた・より効率的な・よりコスト効率の高い電解槽や燃料電池をいち早く市場に投入しようと行動を起こしています。また、多額の資金を持つプライベート・エクイティーもM&Aを通じて「グリーン」水素に賭けており、関心の高さが垣間見えます。

「グリーン」水素のコストは、まだ「グレー」水素や「ブルー」水素と同等にはなっていませんが、多くの企業にとって、今すぐ「グリーン」水素の切符を買って列車に乗ることへの理由には十分な状況となっています。

 一部の企業では、既に「グリーン」水素を戦略的課題に組み込んでいます。これから始めようとしている企業において、リーダーは下記の「問い」への答えを探しているはずです。

  • 「 グリーン」水素の世界で、自社が提供する価値は何か?
  • 今からでも提供可能なソリューションはあるか? あるいは、新たに導入すべきソリューションはあるのか?
  • 自社として(新たな)サポートやインフラを必要とする新たな市場やビジネスの機会はあるか?新たに検討すべきビジネスそのものやビジネスモデルはあるのか?

「グリーン」水素の導入加速に必要な5つの要素

 「グリーン」水素の導入を検討する企業が、導入を加速させるために必要な要素は下記の5つです。

  1. 水素製造技術やスケール拡大によるコスト・ダウン加速
  2. インフラストラクチャー
  3. 法制度の整備及びインセンティブ政策
  4. 事業者のコミットメント
  5. 一般消費者を惹きつけるための強力なコミュニケーション・キャンペーン

「グリーン」水素の時代が到来

 何十年もの間、あまり知られず、顧みられてこなかった「グリーン」水素も、技術の進歩と再生可能エネルギーのコスト低下により、間もなく脱炭素化の新たな切り札になるでしょう。25年には、ほとんどの電気自動車が、化石燃料の自動車に対して競争力を持つようになると予測されています。

 ⽔素の導⼊に注⼒する企業が増えれば増えるほど、コスト競争⼒の獲得と消費者の需要拡⼤が速まります。適切な時期に業界を作り上げ、先導する事業者となるためには、今日から基礎固めを進めてゆく必要があるはずです。

サマリー

 脱炭素化の目標を達成するには再生可能エネルギーを飛躍的に増やす必要があるため、豊富に存在する水素は魅力的な選択肢となります。何十年もの間、再生可能エネルギーの中でも特に注目されてこなかったものの、技術の進歩の加速とコストの低下により、ようやく「グリーン」水素の時代になってきたかもしれません。

■参考Web: www.ey.com/ja_jp/strategy/how-hydrogen-can-spark-the-next-zero-emissions-revolution

解説者

篠崎純也

篠崎純也 EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター

オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている。
Tel: (02)9248-5739 / Email: junya.shinozaki@au.ey.com

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