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甘くなかった蜂蜜論争/法律相談室

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第82回 日豪プレス法律相談室
甘くなかった蜂蜜論争

 ニュージーランド(NZ)のマヌカ・ハニー生産者団体が「マヌカ・ハニーはNZ先住民マオリ族の言語を起源とし、本物はNZでしか調達できない」と主張し、英国知的財産庁に商標登録申請を行ったため、マヌカ・ハニー販売権に関して豪州・NZ間でもめていた件は、昨年末、この商標登録申請が却下される形で、5年にわたり続いた法的バトルに決着がつきました。

 「マヌカ(Leptospermum)は豪州・NZどちらにも生息する常緑低木のため、マヌカ・ハニーをNZ限定商品とするのは合理的でない」とし、豪州のマヌカ・ハニー業界はNZ 生産者団体の商標登録申請に異議を唱えていました。実際、世界87の「Leptospermum」種の内、85が豪州に生息。歴史的にも1800年代からTAS州のその種の木は“マヌカ”と呼ばれていました。

 NZのマヌカ・ハニー業界は、米国、英国、欧州、中国など世界の主要輸入国で商標登録申請を行っており、それに大きな危機を感じた豪州のマヌカ・ハニー業界は5000ページ以上に及ぶ情報を収集し、NZの商標登録申請に異議を唱えました。もしこの争いにNZが勝っていたなら、2027年までに12億豪ドル規模まで拡大すると言われる世界のマヌカ・ハニー市場において、豪州の生産者は “マヌカ”というワードを使用できなくなってしまったことでしょう。

 21年12月15日、英国知的財産庁は「“マヌカ”・ハニーは確かにマオリ語を語源とするが、だからと言って、何かを説明するための英語“マヌカ”であることを妨げることはなく、また世間一般の人に対して、マヌカ・ハニーがNZでしか作られないことの証明が十分にできない」ことを理由にNZの商標登録申請を却下。また、NZ生産者団体に対し、豪州側がこの件に要した法的費用の全額負担も命じました。

 興味深いことに、米国でも上記とは別に蜂蜜に関する大規模な法廷闘争が起きています。何千という米国の養蜂家たちが、国内随一の蜂蜜輸入業者に対し、アジアから大量の偽蜂蜜を輸入し、市場に流している疑いで訴えているのです。07年から19年に掛けて蜜蜂の数は少し増えただけ、また農薬や寄生ダニ、栄養不足などの影響で蜂蜜生産量は落ちているにもかかわらず、アジアの蜂蜜輸出は128%増でした。蜂蜜は牛乳、オリーブ・オイルに次いで偽装が多い食品だそうで、世界で輸入されている1/3の蜂蜜が偽物とも言われています。

 そう考えると、今朝、トーストに塗った蜂蜜が本物の蜂蜜なのかどうか一瞬考えてしまいますね。

このコラムの著者

ミッチェル・クラーク

ミッチェル・クラーク

MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として30年の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート。

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