オーストラリアに住んでいると「現地の日本人同士が使っている言葉って、独特だなぁ」と感じることが多い。
言葉というものは、時代や地域、その言葉を使う人びとの特性によって常に変化し続けるものだ。そんな言葉が、特にもう1つの言語(オーストラリアであれば日本語が英語)に出合う時、更に大きな変化を見せ始める。
「ハンジャ」という単語もその1つだ。日本に住む日本人に「ハンジャ」と言っても、ほとんどの人が何のことだか分からないだろう。実はこの単語、私自身は使っていなかったのだが、調査を始めてみると、思ったより多くの在豪日本人が使っていることが分かった。
「ハンジャ」とは、オーストラリアならではのハンバーガーのチェーン店、「ハングリージャックス」の略称である。本家のアメリカでも、日本でも、このチェーン店は「バーガーキング」と呼ばれているのだが、オーストラリアには同名のバーガー店が既に存在していたため、「ハングリージャックス」という名称でチェーン展開することになったそうだ。
日本人は、単語を省略するのが大好きだ。特に日常生活に身近なもの、よく行く店の名前は、格好のえじきとなる。日本でもハンバーガー店はもちろん、多くのコンビニの名称も省略され、愛称のように親しまれている。
長い単語を省略する時に一番多いのは、「各駅停車」が「かくてい」となるように、各単語の始めの2拍の音を残して省略し、くっ付けてしまうケースだ。「ハンジャ」も「ハングリー」の「ハン」、そして「ジャックス」の「ジャ」がくっ付いている。ただしこのケースでは、「ジャックス」という言葉の2拍目には小さい「ッ」が使われているため、言葉の終わりに持ってくるにはすわりが悪い。そこで「ジャックス」からは「ジャ」という1拍だけを残し、合計3拍にしているようだ。
「ハンジャ」という言葉は、日本にいる日本人にはもちろん、地元オーストラリア人にも通じない。オーストラリアに住む日本人だけが使っている、特有の言葉なのだ。
言葉って本当に面白い。
プロフィル
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「ゴールドコースト弁を探せ!プロジェクト」
(Web:www.facebook.com/ゴールドコースト弁を探せプロジェクト)