2カ国語を流暢に操ることによって、言語のみならず、2つの異なる伝統、価値観、行動、作法、宗教、考え方、道徳、世界を見る視野などが広がります。
言語は文化の一部であるだけではなく、文化に直接繋がりそれを明瞭に反映しているため、言語を通して異文化に含まれる上記のことをある程度知ることができます。しかし、親には少数言語に関連する文化を紹介する役割があり、それを教える大きな責任があります。
言語発達に繋がる祖国の文化を紹介するいくつかの具体的な例には、食事の際に和食を(お箸で)食べるといった割と単純なことから、日本のアニメやテレビ番組を見せたり、音楽を聞かせたり、(昔話などの)絵本を読ませたりすることまでいろいろあると思います。家の外でも、友人同士やママ友会などの集まりを通して日本語を聞く機会を多く与えることも不可欠です。スカイプのビデオ通話を使って日本にいる親戚と通話するという手もあります。
次に家庭の違いについてですが、子どもが2カ国語を簡単かつ自然に話すようになる場合があるのに対し、どのようにしてわが子をバイリンガルの能力が発達するように育てるかを真剣に考え、策略を練って実行する必要のある場合の家庭もあります。
例えば、どういう条件でそれぞれの家庭が異なるかというと、親の仕事、住む場所、少数言語(日本語)に対する社会的な態度、国の移民を巡る傾向、家庭内の少数言語に関わる優先順位、子ども自身の言語習得に対する動機づけ、兄弟姉妹の影響など多くあります。
ですから、出産前、あるいはなるべく子どもが小さいうちに、家庭における心構えやバイリンガル育児についての対策を整えるのがよいのではないかと思います。
両親2人それぞれが与えるインプットの重要性に違いはありません。母親はともあれ、父親の励ましやバイリンガリズム(2言語併用)に対する態度が、子どもに大きな影響を与えます。
また、親同士で何語を話すかを考え、同意しておくことも大切です。親同士が普段使う言語を子どもの前でも話すケースがある一方で、子どもをバイリンガルとして育てることを中心に考慮し、特に子どもに少数言語のインプットをなるべく多めに与えるために親同士が使う言語を変えるケースもあります。
ともかく、両親が2人とも豪州在住の日本人の場合にできることは、それぞれ生まれ育ってきた母国語を話し、言葉を通して日本の文化を伝えていくことをお勧めします。母国語を通せば、わが子との親密度がいっそう高まり、密接なつながりが自然に生まれてきます。
もっとも、バイリンガルの定義もさまざまです。むしろ定義すること自体が単純なことではありません。
理論的には稀である均衡(2重)バイリンガル(2カ国語の能力が同じであること)もいますし、平衡バイリンガル(両言語の能力に差はないが、いずれも母国語者には及ばない)、さらには偏重バイリンガル(言語環境の変化によって2つの言語能力の間に差が生じる人、また母国語に比較すると2つ目の言語が多少劣る人)もいます。ただ、読み書きまで含めれば、2カ国語に全く同じ力を有する均衡バイリンガルは少ないでしょう。
また、相手、話題、状況などに応じて言葉を上手に使い分けることも必要です。そして日常会話能力はバイリンガルであっても、学習のための言語能力はそうでもなく、抽象思考を第2国語で表現できないために支障をきたす場合もありますので、バイリンガルの定義は結構複雑な問題です。
では、次回からは言語の発達および軸となる言語についてお話していきたいと思います。
ブレット・カミング プロフィル
◎愛知県立大学外国語学部英米学科准教授。QLD州グリフィス大学卒(日本語・日本史専攻)、サザン・クイーンズランド大学大学院応用言語学修士課程修了。ケンブリッジ大学連合で大人向けの英語教育講師免許を取得。「バイリンガリズム」の研究以外に、「日本人英語学習者の対照修辞学」「自己確立と言語教授」「言語・文化と言語方策における関係性」などがある。現在いくつかの「バイリンガリズム」に関連した執筆を行っている。バイリンガル教育に対する興味、関心のある人は、以下より直接の連絡が可能
Email: bcsensei@protonmail.com
Web: brettcumming.weebly.com