ゴールドコーストでの調査で面白いなと感じたのは、「ロビタン」という単語だった。これは「ロビーナ・タウン・センター」、ロビーナという地域にあるショッピング・センターの略称だ。
この「ロビタン」も、前回の「ハンジャ」のように各単語を省略し、くっ付けたケースなのだが、「タン」という省略の仕方が何とも面白い。普通は単語の最初の1~2拍を残すことが多いが、このショッピング・センター名では「ロビタウ」でも「ロビタセ」でも「ロビセン」なく、「ロビ+タ+ン」になっているのだ。
日本語では、ニックネームやキャラクター名の最後に「ん」が来る名前が多い。「ポケモン」「ドラえもん」「ウルトラマン」などが挙げられる。それは、「~さん」「~くん」「~ちゃん」「~どん」といった敬称の多くが「ん」で終わっていることに関係がありそうだ。「きょうこちゃん」は省略され、小泉今日子さんが「キョンキョン」になり、深田恭子さんが「深キョン」になる。日本人は最後に「ん」が付くニックネームになじみやすいのかもしれない。
また日本人は、可愛いものが好きだ。近年では日本発の「Kawaii」文化が、英語圏でも徐々に浸透してきている。そして「~ちゃん」の幼児語から派生した「~たん」という敬称を名前に付けると、その人の印象が一気に可愛くなる。最近の某テレビドラマでは、社会人の男性にこの「~たん」を使用した「はるたん」という名称を使用していた。
更に日本では、「パンシロン」「バファリン」など薬の名称に「ン」で終わる製品が多い。「ン」で終わるカタカナ語には、信頼感と共に親しみやすさもありそうだ。
音韻論的な説明もできる。「グラウンド」は「グランド」になり、「サウンドトラック」は「サントラ」になる。「あう」という母音のつながりは不安定で、「ん」とつながると省略されやすい。
とはいえ、日本では「タウン」が「タン」と省略されることなどないのにな……と思っていたら、タウン誌では「タウンみやざき」が「タンみや」になり、「むろらんタウン情報誌」が「むろタン」になっている例があった。
「ロビタン」という言葉に秘められた日本語の面白さ、他にもまだ何かあるだろうか?
プロフィル
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「ゴールドコースト弁を探せ!プロジェクト」
(Web:www.facebook.com/ゴールドコースト弁を探せプロジェクト)