教育特集 2022

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オーストラリアの教育システムとバイリンガル育成

 多民族国家・オーストラリアでは、異なる文化や言語を持つ人びとが多く暮らし、幼いころから個性や自主性を尊重する教育が主流だ。そのため、教育制度の面でも多くの選択肢があるが、子どもの成長に合わせた最適な「学び」を選ぶためにも、保護者が事前に選択肢や注意すべき点について知っておくことが重要だ。本特集では、日本の学校制度との比較を交え、オーストラリアの教育制度やバイリンガル育成のポイント、バイリンガル教育を受けた子どもたちの進路について解説する。
(監修・文:内野尚子)

オーストラリアと日本の学校制度の違い

 連邦国家のオーストラリアでは、教育制度は州ごとに違います。NSW州の大学入学までの教育制度は、就学前教育、準備教育(キンダーガーテン:通称キンディー)、初等教育(プライマリー・スクール)、中高等教育(ハイ・スクール)に分かれています。就学前教育は日本の幼稚園や保育園、子ども園に、プライマリー・スクールは日本の小学校に、ハイ・スクールは日本の中学校及び高等学校に相当します。オーストラリアでは日本のように学年が小、中、高等学校で区切られていません。初等教育のイヤー(Year)1から中等教育のイヤー12までの12年間を通して「イヤー○」と呼び、義務教育期間はイヤー1~10までとなります。

 法律的には6歳になるまでに小学校に入学しなければならないので、キンディーは義務教育ではありません。オーストラリアは日本と異なり、1月末または2月初めから12月までの4学期制です。各学期9~10週で学期間に2週間、学年末に約6週間のスクール・ホリデーがあります。

 オーストラリアでは、保護者が小学校の入学時期を選ぶことができるので、同じ学年でも2歳近く年齢の違う生徒がいます。また、日本のような入学式、始業式、終業式はありませんが、学年末にがんばった生徒を表彰する日(プレゼンテーション・ナイト)があります。更に、アカデミックに秀でている生徒のために小学校にOCクラス(Opportunity Class)及びセレクティブ・ハイスクールがあり、芸術やスポーツ、サイエンスなどに特化したハイスクールもあります。

 大学に行くためには、NSW州ではイヤー11、12の2 年かけて高校卒業資格にあたるHSC(Higher School Certificate:州ごとに名称が異なる)という試験を受けます。私立のハイスクールではIB(インターナショナル・バカロレア)制度を取り入れている学校もあります。

オーストラリアの教育の長所と短所

 オーストラリアでは、課題学習が多く、調べてまとめ、アウトプットするアクティブ・ラーニングを
行うことで、自分の考えを構築し発言する力や深く思考する力を養える点が長所と言えます。就学前教育のころから人前で話す機会を持ち、ディベートの授業も取り入れられているので、子どもたちが自信を持って発言しています。更に実践的な学びが多いため、社会ですぐに役立てることができます。小学生のうちからパワーポイントを使って発表したり、公立校でもコンピューター・ルームやスマート・ボードなどが標準装備されていたり、ハイスクール生にはノートパソコンが配られるなど、日本よりテクノロジーを活用する機会が多いです。教師たちもテクノロジーに慣れていて、コロナ禍でもオンライン授業への移行が日本よりスムーズでした。

 一方、短所として挙げられる点は、先生の得意、不得意、アプローチの仕方によって、学びの内容や質などにばらつきが出てきやすいところです。小学校には教科書がなく、クラスによってその時学ぶことや進度が異なるため、子どもたちが今何を学習しているのか、日本で教育を受けた保護者には分かりづらいと言えるでしょう。特に算数に関しては、さまざまな要素を混ぜながら(例えば、イヤー1、2で掛け算や割り算の要素が出てくるなど)教えていくので、理解度に差がでやすいようです。

 日本では、教科書を使って勉強することにより、学童期で必要な基礎知識を広く満遍なく学べます。特に算数は、基礎をしっかり学ぶことができます。また、記憶力が必要な学びが多いので、覚える分野の勉強が得意になる傾向があります。しかし、教科書を網羅しなければならないため、生徒の個性や得意分野を伸ばしたり深く追及したりという学び方をすることが難しいです。2020年からアクティブ・ラーニングが導入されましたが、まだ自分の考えを構築する、深く思考するクリティカル・シンキングを育てるという面は弱いでしょう。また、テクノロジーの環境不備や教師のトレーニング不足など、インターネットやコンピューターを使った授業は改善の必要性が大きいようです。

バイリンガルに育てるためには

 オーストラリアで日本語教育を取り入れ、国際社会で通用するバイリンガルに育てるためには、まず、保護者が「バイリンガルに育てる」という意識を持ち続けることが大切です。そうすることで、お子さんとの接し方や環境づくりなど、毎日の行動に変化が現れます。

 そして、年齢相応の国語の力を付け、深く思考すること、1つの言語で1本の柱をしっかり作ることが大切です。それができないと、社会で通用するバイリンガルになることは難しいでしょう。なぜなら、どの言語でも深い思考ができない、セミリンガルとなってしまうからです。家庭内での使用言語(生活言語)には限界があるので、本(活字)を読むことをお勧めします。本はお子さんの興味のあるものを選びましょう。それがマンガだとしても学ぶきっかけとなるかもしれないので安易に否定しないことです。

 次に、2言語またはそれ以上の言語がある生活を子どもが生まれた時から「当たり前」の習慣にすることです。例えば、お母さんとは必ず日本語、土曜日は補習校、毎日日本語と英語の絵本を読むなど、人や場面、時間などで言語を使い分けていくと良いでしょう。多言語の環境を当たり前にすることで、それらを使うのが日常となり、親子とも大変さや苦痛を伴うことが少なくなります。バイリンガルに育ったお子さんたちの家庭の多くが、多言語の生活を当たり前にしてきたように思います。

 また、補習校や塾は多言語学習の機会を増やすということでとても意味があります。しかし、家庭内でも多言語の環境を維持しなければその効果は薄れます。宿題に取り組む必要もあるため、イヤー3くらいから補習校などをやめてしまうお子さんが多いですが、宿題は親子のコミュニケーション・ツールと考え、家族みんなで日本語学習に取り組みましょう。そして、絶対にあきらめないこと。順調にいかない時もありますが、そんな時は種まきの時期と思い、様子を見ながら継続しましょう。

海外で子育てをする際に注意すべきポイント

 海外で子育てをするに当たり、保護者が注意すべき点を3つ挙げます。

 まずは、「夫婦・家族で価値観やルールを共有すること」です。海外に住むと、文化やマナーはもちろん自分と価値観の大きく違う人が多くいるので家族としての共通の価値観を持つことが重要です。ご両親の出身地が違う方も多いので、まずは夫婦で家族としての大切なことやルールを共有しておきましょう。日本人同士でも育った環境で価値観や子育ての方針が異なります。時間、SNS、お金などについての方針やルールをご両親が共有しておくとお子さんが混乱しなくて済みます。

 次に、「暗黙の了解に注意すること」。どこで育っても各国、地域での「暗黙の了解」というものがあります。子どもは同じ家の中で一緒に育っているのだから、当然理解しているとは思わないでください。オーストラリアや他の国に移住した際には皆様も驚かれたことがあったと思いますがお子さんたちにとって、世の中は知らないことだらけです。ご両親が当たり前と思っていることが、お子さんには初耳ということも多いはずです。ですから「こんなことも分からないの?」と思わず、全てが未知という前提で接しましょう。 

 そして最後は、「家族ミーティングを定期的に行うこと」です。家族を取り巻く状況は日々変わり、子どもたちも日々成長し変化します。また、お子さんは学校や幼稚園から、たくさんの異文化を吸収してきます。定期的に家族で話し合う時間を持つことで、何を考えているのかを知ることができます。お子さんが小さいうちから家族ミーティングを習慣化しておくと、難しい年齢になった時でもとても役に立ちます。時にはけんかになるかもしれませんが、話をしないよりは良いと思います。気軽に、ご飯を食べながらでも良いので家族で話をする時間を定期的に持ちましょう。

日豪で育った子どもたちの進路

 オーストラリアに定住、または日本に帰国するとしても、世界中どこでも、まず将来自分のお子さんにどうなっていて欲しいのか考えてみましょう。バイリンガルという言語面だけではなく、お子さんの将来の可能性や興味、家族の方向性なども想像してみると良いです。「どのような経験をさせてあげたいのか」「大学は行かせたいのか、どこで行くのか、どんなことを学んで欲しいか」「どのような分野の仕事に興味がありそうか」「バイリンガルのレベルはどの程度か(仕事ができるくらい、日常生活が不自由なくできるくらいなど)」。そして、そこから現在のお子さんの年齢を逆算してみると、今どのような準備をしたら良いのか見えてきます。未来像は何度でも修正可能です。家族やお子さんの変化に伴って変更していけば良いのです。

 よく、日本人学校が良いのか、ローカルの学校が良いのかといった趣旨の質問を頂きますが、一概に答えることはできません。帰国後の学校についても同じです。いつ移動になるのか、帰国後どこに住み、経済的にどの程度予算を組めるのかなどご家族によって違うからです。学校や幼稚園を選ぶ時は、必ず見学に行きましょう。できれば、お子さんも一緒に行くことをお勧めします。校長先生とも話ができるとその学校の方針や雰囲気が分かり、お子さんに合っているかどうかを感じ取れると思います。学園祭やその他の行事、通常日の休み時間などをのぞいてみても良いですね。お子さんが気に入れば、勉強へのモチベーションも上がると思います。

 また、日系のご家庭の多くは、大学進学を視野に入れて、または少なくともイヤー12まで終えることを目標に教育されているようです。そして子どもたち自身も大学進学を考えている方が増えているように感じます。ただ、日本で育った子どもたちに比べ、良い会社に入るためというより、自分の興味がある専門知識を学び、将来へつなげるために大学を含む高等教育への進学を考えているお子さんが多いと思います。ですから、大学へ行く必要がないと思えばTAFEやカレッジなどの専門学校や、就職を選びますし、成人した日系の子どもたちに話を聞くと、大学へ行かないことへの劣等感はないと言います。以前、美容師になりたい、親の店を継ぐ、軍隊に入りたいという生徒たちがいましたが、彼らは大学へは行かず専門学校に行ったり、そのままお店を手伝ったり、軍に入隊したりしました。

 駐在の家庭や日本語レベルの高いお子さんの中には、日本の大学進学を目指す人もいますが、駐在で帰国が決まっている人を除くと、ごくわずかです。その中には、日本に的を絞るお子さん、受験時期が違うのでオーストラリアと日本と両方を受験するお子さん、国際バカロレア(IB)で日本の大学も視野に入れるお子さんがいます。IBで受験するお子さん以外は、オーストラリアに住む他の生徒たちと違う時期に自分だけ異なる傾向の勉強をしなければならないため、高いモチベーションが必要です。以前、私の所に来ていた駐在の生徒でHSCと日本での受験の両方に臨み、日豪両国で志望大学に合格しましたが、彼女は人一倍努力していました。いずれにしても、将来自分がどうしたいかを考えた結果の選択です。どちらが良いか、何が良いかではなく自分の、またはお子さんの未来像を見据えた上で決めましょう。

内野 尚子

6年半の香港駐在を経て、1996年よりシドニーに在住。現地デイケア及びプリスクールで12年間教師、うち4年間はAuthorised Supervisorを兼務。2003年より8年間日本語補習校で代表兼教師を務める。2007年、日本語教室「Universal KIDS」を設立し、継承日本語教育、教育コンサルティング、教育セミナーに従事。2019~21年オンライン・スクール「JWA」を設立、海外在住保護者向け家庭教育講座や教育コンサルティングを行う。

Universal KIDS

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