近年、日本を離れ海外のビジネス・シーンで活躍する女性たちが増えてきている。本特集では、豪州を舞台にグローバルに働く女性9人に、仕事のやりがいや現在に至るまでの歩み、活動に捧げる情熱や今後の展望などについて話を伺った。
- 豪州で活躍する女性インタビュー①
佐藤久美子さん - 豪州で活躍する女性インタビュー②
石黒アンナさん - 豪州で活躍する女性インタビュー③
船越瑞恵さん - 豪州で活躍する女性インタビュー④
鶴美枝さん - 豪州で活躍する女性インタビュー⑤
八尋里伊奈さん - 豪州で活躍する女性インタビュー⑥
やのしおりさん - 豪州で活躍する女性インタビュー⑦
新開マキさん - 豪州で活躍する女性インタビュー⑧
濱口暢子さん - 豪州で活躍する女性インタビュー⑨
カズコ・ぺリューさん
PR
心地良い関係を大切に、デザインでビジネスをサポートする
Watermark Art & Designグラフィック・デザイナー
船越瑞恵さん
グラフィック・デザインやウェブ・デザインなどのサービスを提供する会社「Watermark Art & Design」を経営し、グラフィック・デザイナーとして数々のクライアントをサポートしている船越瑞恵さん。クリエーティブな能力を発揮し活躍を続けている船越さんだが、そのキャリアは少々意外なところから始まったという。キャリアの歩みから、自身のビジネスにおけるこだわり、ライフスタイルにおいて大切にしていることまで話を伺った。
プロフィル
服飾系の専門学校卒業後、ハンド・バッグのメーカーで企画部に勤務。約20年前にワーキング・ホリデーで来豪。来豪後はグラフィック・デザインの会社に入社し、グラフィック・デザイナーのキャリアをスタート。2003年に独立、会社経営などを経て12年にWatermark Art & Design設立。グラフィック・デザインの他、ブランディング、ウェブ・デザインなどを手掛ける
――グラフィック・デザインの仕事は来豪以前からされていたのですか。
実は違うんです。日本では高校卒業後、服飾の専門学校に進み、社会人になってからはハンド・バッグのメーカーの企画部で働きました。
ワーキング・ホリデーで約20年前に来豪しましたが、当初、グラフィック・デザインの仕事をする考えはありませんでした。来豪後、生活のためにすぐにでも仕事をしなければならない状況だったので、日本人ワーホリ・メーカーがよく利用していた事務所に求人広告を見に行きました。土産物店が多い中で「絵本の制作」に関する求人に心が惹かれ、面白そうだと思い応募したその先がグラフィック・デザインの会社だったんです。「グラフィック・デザインの仕事」と書かれていたら、応募しなかったかもしれません。
その会社に連絡してみましたが、採用担当者が不在で次の日に改めて連絡をするよう言われました。一方で、早く仕事を始めなければと焦っていたのでその日、土産物店の面接にも行ったところ、すぐに採用となり次の日から働くことが決まりました。
しかし、その面接からの帰宅途中、土産物店で働く予定を変えてしまうある出来事が起きました。ちょうど日没だったのですが、夕日があまりにも奇麗、そして壮大で「わざわざオーストラリアまで来て自分は小さくまとまっていて良いのか」と思わず心を動かされてしまったんです。
そして、土産物店の初出勤の日、店に辞退の連絡を入れ、絵本の制作の求人広告を出していた会社にもう一度電話をしました。面接で志望理由を聞かれたので、土産物店の仕事を辞退したこととその理由をありのままに話しました。すると、グラフィック・デザインの職歴がないにもかかわらず採用してもらえました。
――服飾の仕事から一転、現在のキャリアが始まったわけですが、新たな技術を身に付けることは大変だったのではないですか。
日本ではハンド・バッグのデザインをしていたのですが、そうしたデザインは3Dである分、消費者に対して訴えることが比較的簡単なんです。しかし、平面になると立体の物よりも表現の幅が狭まる感覚があり、グラフィック・デザインの仕事を始めたころはどうして良いか分かりませんでした。なので、1年が経ったころに学校に通い、勉強を重ねながら仕事を続けました。
――現在の会社「Watermark Art & Design」設立の経緯を教えてください。
2003年に独立し、そこから3年間フリーランスで仕事をして、その後は6年間ビジネス・パートナーとグラフィック・デザインの会社を経営していました。しかし、ビジネス・パートナーが大学への進学を希望したことを機にお互いがバランスを取って仕事をすることが難しくなったため解散し、12年に現在の会社を設立しました。
――貴社の強みはどのような点ですか。
弊社の経営については、フルタイムの雇用を避け、必要に応じてパートタイムの雇用やフリーランサーへ外注をしながら行っています。これは、可能な限り経費を抑え、お客様に良心的な価格でサービスを提供するためです。何よりお客様の利益を最大化することを念頭に置いています。
あとは、フレキシビリティーです。例えば急ぎの仕事を依頼されたとなっても、それが物理的に不可能ではない限り必ず対応します。たとえデザインに1日しか時間が残されていなかったとしても、間に合わせるようにしますし、できる限り「ノー」とは言いません。
――クライアントの業種は旅行業界を始め通信や法律事務所など多岐にわたっているそうですね。それに関してどのような工夫をされましたか。
とにかく依頼して頂いた仕事に対しできる限りのことをした結果、お客様の業種が広がっていきました。現在のお客様との仕事のほとんどは、知り合いからのご紹介によるものなんです。お客様がグラフィック・デザイナーを探している中で私の製作物を目にし連絡が来たこともあれば、他の同業者から評判を聞いて仕事の依頼が来たこともあります。
仕事の依頼に対して及第点のパフォーマンスを出せるデザイナーはちまたに多くいると思いますが、そうしたデザイナーの中にあっても重視されるのはきっと「仕事のしやすさ」だと思います。それには、締め切りを守ることは当然として、仕事を頼んだら何とかしてくれると感じてもらえる安心感、そして自分のこだわりを出し過ぎないことも大切です。お客様が面倒臭いと感じてしまう恐れがありますから。つまり、「あなたと仕事ができて良かった」と思ってもらえる心地良い関係作りが重要で、仕事をする上でいつも心掛けてきました。
――ご自身のデザインに関して、共通した世界観などありますか。
お客様からの依頼に応じて製作物の完成形をイメージするので、そういう意味ではないです。例えば、旅行パンフレットで元気なイメージを希望されれば華やかな仕上がりになりますし、会社のイメージに応じる形で高級感のある雰囲気になる場合もあります。お客様の希望に応じることを考えた時に、こだわらなければならないのは「自分の考えにこだわらない」ことです。
どのお客様からの仕事もそうですが、彼らが求めるのは私がデザインした製作物などを通してサービスの売り上げを伸ばすことです。なので、その業界の中でどうしたら売り上げが伸びるか、メリットを最大化できるかということを常に考えています。
――船越さんのようなクリエーティブな仕事を目指したいと考えている人に、ご自身の経験を踏まえたアドバイスなどありますか。
他人の意見など周りの目を気にしないことでしょうか。周囲の目を気にするあまり、心を惑わされる状況は多いですよね。私自身も惑わされることがありますが、最終的には自分の心で感じていることが正しいと思います。
自分の心が感じていることを大切にすることに加え、流れに身を任せることも大切です。流れに逆らうのではなく、身を任せると勢いを持って進んで行くわけですから。それはつまり、起業することが向いているのか、組織で働くのが向いているのかなど自身の適性を見極めるということであったりします。どちらにせよ、自分が得意なことに集中、好きなことを続けることが重要です。それが仕事につながらなかったとしても、心が満たされて人間として魅力が増し、結果として仕事に影響します。
また、個人として起業したい場合でも、必ずしも最初から大きなビジネスを考える必要はありません。例えば、成功したアーティストに関して言えば、彼らは小規模ビジネスの成功を続ける形で結果的に大きな成功を手にした人たちだと思います。なので、個人の得意なことを大切にしながらもフレキシブルなライフスタイルを選べる、そういう成功の形を目指せば良いのではないでしょうか。
――ご自身のライフスタイルにおいても自由な状態をいかに保つかということを大切にされていますか。
ライフスタイルでも一番大切にしていることは、自分をいかに心地良い状態に置くかです。それはまさに幸せと呼べるものかもしれません。ただ、これは誰にとっても大切なはずです。心地良い状況だと心に余裕が生まれますし、楽しくしていると周りも楽しくなります。
――今後の展望について教えてください。
グラフィック・デザインの仕事をする傍らブログを発信していますが、これは自分の哲学だと考えています。今後はそういう公私の部分をうまく組み合わせ、お客様のリクエストだけから制作するのではなく、何か自分から発信する形での製作活動、新しい展開を作れていけたらと思っています。そこで、手始めにセミナーの開催などを考えていますので楽しみにしていてください。
Watermark Art & Design・船越瑞恵(ふなこしみずえ)
■Tel: (02)9968-2205、0412-577-845
■Web: www.waad.com.au
■Email: mizue@waad.com.au
■Blog: ameblo.jp/mzfnks