
シドニー各所で行われているイベントを不定期リポート!
スマッシュ! 2018会場突撃リポート

2007年から始まった日本のアニメーションやマンガなどを集めたイベント、「SMASH!(スマッシュ!)」も今年で12回目を迎えた。アニメ、マンガにとどまらず、日本のサブカルチャーを体験しようと多くの来場者、また多くのコスプレイヤー(好きなアニメやマンガのキャラクターのコスチュームを着る人)で会場は溢れ返っていた。今回は、2日間にわたるスマッシュ!の現地の様子を余すところなくリポートすると共に、来豪したスペシャル・ゲストのインタビューも併せてお届けする。(取材・写真・文=高坂信也)
日本のアニメ・マンガを一気に堪能
「SMASH!(スマッシュ!)」が7月14日と15日に、シドニー市内中心部ICC Sydneyで開催された。メイン会場ではメイン・ステージ、ミニ・ステージ、パフォーマンス・ステージ、アート・ステージの他、アニメ・マンガに関するクイズが出題されるトリビア・ゾーン、暗幕を垂らして特設エリアを作り上げたシアター・エリアなどが設置された。

また、車のボディーにアニメやマンガのキャラクターのペイントなどを施した「痛車(いたしゃ)」の展示や、トレーディング・ガード・ゲームやコンピューター・ゲームが行えるよう、テーブルや何台ものパソコンが並んだ部屋も用意されていた。更に、企業ブースや一般の人たちによるファン・アート(原作のアニメやマンガのキャラクターなどを独自で描いた絵)や手製のグッズ販売展示ブースなどもあり、多くの人でにぎわっていた。
一趣味として楽しむ
会場の中で特に目を引いた物の1つが、「ガンプラ」の展示ブースだ。ガンプラは、ガンダムのプラモデルの略で、既にその言葉自体が世界に広く浸透している。今ではオリジナルのガンダムだけではなく、敵キャラクターであるザクやガンダムでも甲冑(かっちゅう)を着ているものなどバリエーションは豊富になっている。多くの来場者が食い入るように眺めたり、写真に収めようとしていた。また、同ブースではガンプラの販売も行われており、イベント初日には数量限定のガンプラが販売されるとあって、早朝から長蛇の列ができていた。

また、同ブース内ではワークショップや講演に加え、ガンプラの組み立ての速さを競う大会も開催されており、司会者のヒート・アップする声と共に多くの見物客の注目を集めていた。
ゲーム・ゾーンで体験できたのは、カード・ゲームやコンピューター・ゲーム、テレビ・ゲームに限らない。アーケード・ゲームとして「マリオカート」の座席筐体(きょうたい)や、日本でもブームを巻き起こした「ダンス・ダンス・レボリューション」の筐体も置かれており、たくさんの人が熱狂していた。「ダンス・ダンス・レボリューション」では、多くの参加者が「ダダダン、ダッダッ」と軽快に足を動かしたが、一際速いスピードでプレーする参加者の姿には「おお!」という歓声が周りから上がっていた。
他にも一般の人たちによるブースも展開されており、その多くはさまざまなタッチで描かれていたファン・アートで埋め尽くされていた。ファン1人ひとりの作品やキャラクターに対する深い愛、思い入れが強く伝わってくる光景だった。
盛り上がりを見せる日本のサブカルチャー
メインの会場とは別に設けられていたのが、JOYSOUND(ジョイサウンド)の「カラオケ・ルーム」や「MAID CAFE(メイド・カフェ)」、「プリクラ」だった。カラオケ・ルームでは、実際のカラオケ設備が整えられ、誰もが自由に歌を歌うことができるスペースとして開放されていた。また同ルームでは2日間かけてカラオケ・コンペティションも行われ、最終日にはメイン・ステージで決勝戦も行われた。歌われている歌も日本語のものが多く、何人かの観客が踊りながら合いの手を入れている姿は見ていて楽しい気分にさせられた。

メイド・カフェは窓からダーリング・ハーバーを見渡せる部屋にあり、メイドさんの衣装を着た人たちが接客・運営をしていた。朝一番の受付カウンターでもメイド・カフェの予約を先に済ませておこうとする人たちの列ができていたり、カフェの前では多くの来場者が待合席で自分の番を、今か今かと首を長くして待っている様子が見て取れた。
プリクラ機が設置されていたことにも驚かされた。並んでいる多くの人たちはコスプレをしており、グループで記念にプリクラを撮っていた。日本の物と同様に撮った後に落書きができるシステムで、皆ではしゃいでいる様子はほほ笑ましいものだった。
コスプレイヤーたちの闊歩

会場を歩いていると見慣れてしまったのがコスプレをした人たち、いわゆるコスプレイヤーだった。皆それぞれ思い思いのキャラクターの格好をしており、会場内、屋外のデッキなど至る所にいた。そんな中、自分の知っているキャラクターに会うとうれしくもなった。
コスプレイヤーたちは写真を撮り合ったり、会場内に置かれた専用のフォト・ブースなどで決めポーズを取っていた。
いろいろなアニメやマンガのキャラクターたちが、同じ空間にいることを面白く感じられることに加え、その豪華さに圧倒された。その色彩鮮やかな景色は一見の価値があるのではないだろうか。
スペシャル・ゲストにインタビュー!
スマッシュ! 2018のために来豪したスペシャル・ゲストにインタビューを敢行。今年、日本からは4人のゲストが来ていた。それぞれにオーストラリアや、スマッシュ! の印象などについて伺った。
ヨコオタロウさん

――スマッシュ!の会場内は歩かれましたか。
トーク・ステージの移動中にチラッと見ました。日本にはユーザーが作るタイプのイベントがあまりないので、スマッシュ!はユーザー主導で運営されていて楽しそうだな、という気がしますね。
――オーストラリアに来る前と後で、印象の違いはありましたか。
すごく違いましたね。僕はオーストラリアを、アメリカの西海岸のようにおおらかで明るくて派手なイメージを持っていたのですが、実際に来てみると、すごくイギリスやドイツ、ヨーロッパ圏に似ているなと。街も人もあまり騒がしくなく、先程サイン会をして来たのですが、皆すごく静かなんですよね、日本人みたいだなって思いました。
オーストラリアの街はすごく抑制が効いているというか、シックな感じがして、学生時代に1年間イギリスに留学していたころ、いろいろと見て回ったヨーロッパ圏の街の風景を思い出しました。今回のイベントで、オーストラリアのイメージはだいぶ変わりました。
――日本のファンとの違いなどは何かありましたか。
「日本のファンに似てる!」って思いました。静かであまり押しが強くない。おとなしい感じがすごく日本のオタク、アニメ・マニアっぽいなと思いました。スマッシュ!というイベント特有なのかもしれませんが、来てすごく思ったことは日本語を話される人が多いなということです。ファンの人たちも頑張って日本語を覚えてくれたり、アニメを見て話せるようになりました、と言ってくれたり。思っていたよりも日本のカルチャーがオーストラリアに浸透していることに驚きました。
よこおたろう◎ゲーム・クリエイター、ゲーム・ディレクター。テレビ・ゲーム『ドラッグオンドラグーン』『ニーアゲシュタルト/レプリカント』のディレクターを務め、『ニーアゲシュタルト/レプリカント』の続編『ニーアオートマタ』ではディレクター及びシナリオも担当。同作は世界累計出荷・ダウンロード販売本数が300万本を記録している
置鮎龍太郎さん

――オーストラリアのファンは日本と違いましたか。
日本で最近トーク・ショーをしていないので、はっきりとした違いは分かりませんね(笑)。お客さんの傾向が違うからかもしれませんが、日本は積極的な人もいますが、あまり前に前にという感じではありません。
――オーストラリアのファンの人たちはグイグイと積極的でしたか。
グイくらいですね(笑)。皆さん、楽しもうと思って来てくれている感じでした。
――担当するキャラクターのイメージに、自身の中でどのように近付けているのですか。
勘……(笑)。分かる時もありますが、分からないことも結構多いので、極端な時は分かんないから「とりあえずやってみよう」みたいな感じですね。手探りでやっていることもたくさんあります。
おきあゆりょうたろう◎声優、ナレーター。主な出演作に『SLAM DUNK』(三井寿)、『地獄先生ぬ~べ~』(鵺野鳴介)、『テニスの王子様』(手塚国光)、『BLEACH』(朽木白哉)、テレビ・ゲーム『戦国BASARA』シリーズ、豊臣秀吉など多数
大森貴弘さん

――オーストラリアのアニメ・マンガの熱量をどのように感じられましたか。
他の国と同様にすごく熱いものを感じます。もちろん日本もですが、海外ファンの人たちの方が純粋に楽しんで、素直に感動を伝えてくれる印象があります。
――原作が既にある作品を映像化する際、監督として気を付けていることを教えてください。
原作が持つ全体像のようなものが、しっかりと伝わるようになることを強く意識しています。また映像化の場合、アニメ、小説にかかわらず、読者や原作に触れた人たちは皆違うスピードで読んでいるので、それを決められたものに収めながらも受け手に想像が湧くような、判断の余地が生まれるような工夫をなるべくしたいと思っています。
――制作の段階から海外への視点は持たれていたのでしょうか。
考えたことがなかったですね。例えば、アニメ『海月姫』は日本国内のドメスティックな内容だと思うのですが、ファニメコン(FanimeCon=アメリカ・サンノゼで行われるアニメ・イベント)に訪れた時に『海月姫』のコスプレをしている人がたくさんいて驚きました。日本独特の文化から生まれた作品がすごく愛されていることが少し意外でした。
――どこが愛されるポイントになったと思いますか。
『海月姫』は、日本社会の中でも少し特殊な人たちを扱っている作品ですが、その根底には、「女の子の夢」「誰でも触れられる夢」がある。それらは海外の人たちにも思い描けるものなのではないかと思います。
おおもりたかひろ◎アニメーター、アニメ監督。主な監督作品に『バッカーノ!』『夏目友人帳』『デュラララ!!』、アニメ『海月姫』など多数。原画やデザイン、音響演出も行う
代永翼さん

――オーストラリアはどうですか。
初日にオペラ・ハウスに行きました。テレビでしか見たことがなかったので、自分の足で訪れ目で見ると全然違うなと。僕は建造物を見るのが好きで、ハーバー・ブリッジとオペラ・ハウスが一緒に見えた瞬間、「うわあ、すげえな」と、感動しました。また、街中も奇麗に保たれていて、すてきだなと感じました。
――『Free!』(フリー=男子水泳部の高校生たちの日々を描いたテレビ・アニメ作品。代永さんは主要キャラクターの1人、葉月渚の声を担当)の作中とエンディング・ソング内にシドニーの背景が出てきますが、そうした場所は意識されましたか。
2日目にフリーの聖地に連れて行ってもらいましたが、すぐにツイッターに投稿しました。本当にこの地で凛ちゃん(フリーの主要キャラクターの1人、松岡凛)が頑張っているんだなということを実感しました。主人公の信長くん(主人公、七瀬遙の声役、島崎信長さん)に「ごめんな」って思いながら、先に渚がオーストラリアに来ちゃったという感じでした。
実際にスタッフさんが、シドニーの街中の写真や動画を撮って、この場所を使いたいと言ってアニメが始まったことを思うと、すごく感慨深く、うれしくなりましたね。
――オーストラリアのファンと交流されていかがでしたか。
海外で放送されているアニメ番組で、どれが好きでどういった番組を皆が見ているのかということは、すごく気になっていました。アイチくん(『カードファイト!!ヴァンガード』の主人公、先導アイチの声を代永さんが担当)のカードを持って来ていたり、カードにサインしてくださいなどと言ってくれて、本当にうれしく思うのと同時に、声優という職業をしていて良かったと、実感することができました。
よながつばさ◎声優。主な作品に『Free!』(葉月渚)、『カードファイト!!ヴァンガード』(先導アイチ)、『弱虫ペダル』(真波山岳)など多数。3人の音楽グループ「Trignal」の1人として、歌も歌いCDデビューしている
――――アメリカ、台湾から来ていたスペシャル・ゲストにも話を伺った。――――
スパイク・スペンサーさん

――日本のアニメのキャラクターの声を担当する時、気を付けていることは何ですか。
アメリカのアニメ制作に関わっている人たちが皆絶対に守っていることは、オリジナルのストーリーに忠実にアニメを作ることです。時々、本当に悩まされる問題が音数(言葉の数や口の動かし方)です。それらをぴったりと合わせる必要があり、例えば日本語でのせりふが25音あったとして、英語だと2音で終わってしまう場合があり、余った部分を埋めなければならず、苦戦しています。
――アニメ・ファンの日本人にひと言メッセージをください。
心の底からありがとう。皆さんがいなければ今の私はありませんでした。さまざまなキャラクターを演じたり日本を含め世界中を行き来できているのは、全部日本のアニメのお陰です。そうしたすばらしい経験ができていることに本当に感謝しています。
スパイク・スペンサー◎アメリカの声優。主な出演作に、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの碇シンジ、『ドラゴンボール超』魔人ブウの他、テレビ・ゲームなど多数出演
MONさん

――他の国のイベントなどとスマッシュ!に違いはありますか。
一番大きな違いは、たくさんのサイド・イベントが同時並行で行われていることです。カラオケやプリクラなど、メイン・ステージとは別会場で行われていて、とても興味深いです。
――日本の好きなアニメやマンガを教えてください。
『僕のヒーローアカデミア』です。こんなにも面白いアニメがあるんだと驚きました。特に大好きなキャラクターが爆豪くん(同作の主要キャラクターの1人、爆豪勝己)です。日本で彼の商品が出た時は予約をして買いました!
モン◎コスプレイヤー。台湾出身。初音ミクや『魔法少女まどか☆マギカ』などの女性キャラクターのコスプレで知られる。各国のイベントやコンベンションの参加経験を持つ
コスプレ大使 Tomomint✖カラオケ大使 KIMIKA
ジョイサウンドと日本文化を広めようと今回は2人の大使が任命されていた。カラオケ大使のKIMIKA(キミカ)さんとコスプレ大使Tomomint(トモミント)さんに話を伺った。

――スマッシュ! の感想を教えてください。
トモミント:日本の文化がとても愛されているなと感じました。カラオケ・ルームでは、日本語のアニメ・ソングを歌詞を見ずに歌っていて、本当にすごいなと思いました。
キミカ:皆コスプレしたまま歩いていて、驚きました。
トモミント:日本のイベントは指定の場所以外でコスプレはできないのですが、オーストラリアでは外でもコスプレで歩き回っている人たちがいて、日本でも取り入れて欲しいなと思いました。
――キミカさんはこの後、デビューされると聞きました。
キミカ:ユニバーサル・ミュージックから10月にデビュー予定ですが、ヒップ・ホップやR&Bがメインです。ただ、アニメ・ソングとは相性が良く、お仕事をさせて頂く機会も多々あるので、今回はすごく良い機会になったと思っています。
――会場内のさまざまな場所にコスプレをした人たちがいますが、どんな印象ですか。
トモミント:いろいろな所にコスプレイヤーがいる方が新鮮ですし、違ったアニメのキャラクターが1つの場所で交差しているのを見てワクワクしました。知らないアニメのキャラクターを知るきっかけになったり、「えっ! このアニメがオーストラリアでは人気なんだ」と意外な発見もありました。