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生後2週間、一路ハンターバレーへ─ 帰ってきたBBKコラム 、子育てパパ奮闘編(?)

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ありがとうチカバー、そして珠玉のファーム・ステイ

 初のブルー・マウンテンズ訪問(2012年6月)から、永住権を獲得するまでの自らのヒストリーなど(17年12月)、5年半にわたりお届けしてきたBBKコラムを、このたび装い新たに復活させる運びとなった(15年7月~17年5月までは「BBKダイエット」と称した体当たりダイエット企画に鞍替え、約20キロのダイエットに成功、そして絶賛リバウンド中)。

 時にナイトクラブへと潜入、時に来豪中の元AKBアイドルの追っかけ、また時に「カウラ大脱走」など歴史が生んだ日豪間の歴史の因縁へ思いをはせたりなどしてきたが、振り返ると結局はラーメンのことばかり書いていた気がする。だがそんな自由な姿勢は忘れないようにしつつ、新シリーズは「子育てパパ奮闘編(?)」と題し、子育てを軸に書いていこうと思う。

一応、「今」に至るまでのあらすじ

 2020年11月、日豪プレス再創刊号発行以降、多くの方に「Bさん、もう記事書かないの?」と問われ続けてきた。

 オッケー、クリアにしておこう。書かないのではない。書けないのだ。

 僕はそもそも若いころから文章を書いたり読んだりがほぼ趣味だったこともあって、東京・表参道にあるちょっとふんわりした大学の文学部・日本文学科に在籍し、近現代日本文学を学んだのだが、在学中は「何とも実社会の役にも立たない学問を選んでしまったものだ」と若干後悔にも近い気持ちを抱きながら日々を過ごしていた。それでも「これが文学者の定めか」などと独りごちながら悦に入り、暇さえあればカフェで「あいうえおかきくけこ」から適当にタイトルを決め徒然に文章を書くという、時に孤独で、まあでも思い返せばのんびりとした日々を過ごしていた。

 そんなこんなで、大学卒業後は「文章を生業に食べていける仕事」ということで出版社へ入社。晴れて編集者となった。そして10年ちょっとの期間に、トータル100 冊以上の雑誌やムックを世に送り出した。その中には少なからず話題となったものもある。

 そして2011年。悲喜こもごも、思うところもあって妻(MEG)と共に移住を目的に来豪した。

 来豪後、日豪プレス編集部で働き始めた僕は、それこそ心血を注ぎ数々の記事を執筆。小野伸二選手(元サッカー日本代表、現・北海道コンサドーレ札幌)がサッカーAリーグ・ウエスタン・シドニー・ワンダラーズにいた2年間は全てのホーム・ゲームを取材、ウェブサイトで特集ページを立ち上げ、毎試合レポートをアップした。

 連載「食の安全」シリーズでは、豪州の牛肉事情、魚事情、米事情、野菜事情、鶏・卵事情などを、現場で働く業界の方々へのインタビューを通して書き上げた。そしてライフワークとしていた「原発問題を考える」では、グルメ漫画『おいしんぼ』作者・雁屋哲さんへのインタビューが話題となり、日本のテレビ局から電話取材を受けたこともあった。同連載では東日本大震災発生時に陣頭指揮を執った菅直人・元首相へのインタビューもキャンベラで行った。

 と、ここまでの自分を、とりあえず村上春樹風に表現するとすれば「僕はわりとうまくやれていた」。

金の足しにもならぬ文章なんて!

 そして2020年9月、いろいろあって(端折ってばかりで申し訳ない)現在、「社長」をやっているわけだが、コロナ禍渦中の事業スタート、加えて初めての「経営業」に右往左往する日々を送ってきた。結果、何が起きたかというと「とても執筆などしていられない」という精神状態に陥ったのだ。何か自分でもアウトプットを、と思えば思うほど「自分などが文章を書いたって金の足しにもならん」などとやさぐれた気持ちになり、僕の中からクリエイティビティが失われ続けていった。

 それでも何とかがんばって誌面発行を続け、やっとビジネスも上向いてきたさなか、シドニーは二度目のロックダウン。ディストリビューションの確保が困難になり、同時に資金繰りに奔走し続ける毎日を送り、更に疲弊。しかし、同時に少しずつ強くなってもいった。困難な状況下、図らずも僕のメンタルは鍛えられもしたのだ。

 話を急転させるが、今現在、僕は抱っこひもで生後1カ月の娘をお腹に抱え、足元にご機嫌な2歳の息子がまとわりついている状況の中、この原稿を書いている。今まさに、僕はこう自問自答している。

「さて、これは果たしてクリエイティブな仕事ができる現場なのでしょうか」

 冒頭「書けない」と書いた理由に関する状況説明はざっとこんな感じだ。本コラム再開はある種、僕にとってチャレンジでもある。しかし、10年前日豪プレス社の門をたたき、今や経営者としてメディアの命運を握る立場となった以上、本誌を生かすも殺すも僕次第。「取材・執筆」という本来僕が持っているストロング・ポイントを有効活用しない手はない。そう考え、筆を執った。やるからには、とにかく皆さんに楽しく読んでもらい、かつ、かなうならば有益な情報も織り交ぜてお届けしていきたいと思っている。前段が長くなったが、コラム再開初回ということでご容赦を!





ありがとう、チカバー

ありがとうチカバー。ぐずるアリサを抱っこ

 コラム再開と共にまずは偉大なるチカバー(チカ婆)に謝意をお伝えしたい。ありがとうチカバー。

 さて、なんのこっちゃ、読者諸氏にはさっぱり分からないだろうが、誰あろう、チカバーとは妻のお母さん、つまりは僕の義母である。名をチカコさん。息子のカイト、娘のアリサのお婆ちゃんということで我々は彼女のことをチカバーと呼んでいる。

 2022年4月26日、娘のアリサ生誕。長男のカイト1人でさえ「魔の2歳」で、かなり手を焼くようになっていたが、そこに新生児が加わるのだからとんでもない状況になるのは想像に難くない。カイト誕生の時と違い、幸いオーストラリアのボーダーが開いたこともあり、チカバーは1カ月間はるばる日本からオーストラリアまでヘルプに来てくださったのだ。アリサが「おっぱい欲しい」と泣けば、カイトが「僕もかまって」と泣き始め、大合唱。「あぁ、もうこりゃ仕事にならん」と困っているとすかさずチカバーが「魔法の手」で2人をあやしてくれる。いやいや期のカイトがぐずり出すと「散歩してくるね~」と外に連れ出し、遊ばせてくれる。神ですか?

なぜか困り顔のカイト。鼻の下が赤いのは転んだ時のケガ

 チカバーのおかげもあり、最初の1カ月は何とか乗り越えることができたが、試練はチカバーの帰国後に待っていた。そりゃそうだ。大人の手、それもベテランの手が1つ減るわけだから当然と言えば当然なのだが、状況は想像以上に困難の様相を呈し、僕たち夫婦はかわいい子どもたちに囲まれながら、天国と地獄を同時に味わうような状況に陥った。そして僕は直面したのだ。いわゆる「家庭と仕事の両立」という陥りがちだけど難解な問題に。

 2人の大合唱、うんちトラブル、熱、嘔吐、ご飯、お風呂、寝かしつけ、夜中のギャン泣きと、次々と現れる課題に何とか対処し、1日の終りを迎えると僕らの前にはいつも1つの影が現れる。もう1人の愛娘(猫)・アビーだ。疲れ切った僕たちをまっすぐ見上げながら彼女は言う。

「ニャー(ご飯ちょうだい)」

「お前も手伝ってくれよ……」

 僕は「ああ、猫の手も借りたいという偉大なことわざはこうして生まれたのだな」と嘆息する。そして、現実的には猫の手は借りられないという事実を直視するのだ。

「家庭と仕事の両立」。このテーマはいくらでも掘り下げられそうなのと、妻側、夫側の視点では見える景色も全く異なるだろう。次回以降、改めて掘り下げていきたいと思う。

 いずれにせよ今一度、この場を借りてお伝えしたい。本当にありがとう、チカバー。





生後2週間のワイナリー巡り、そしてトラブル

朝食は「料理男子(料理おじさん?)」の僕が担当

 さて、せっかくチカバーが来ているのだから少しでもシドニーの魅力を味わってもらいたいというMEGの強い希望もあり、アリサ生誕2週間後、僕たちはハンター・バレーへの2泊3日のワイナリー・ツアーを断行した。宿泊はAir bnbで探したが、その中にユニークなアコモデーションを発見。牧場の中に滞在するというもので、多少チャレンジングだとは思いながらも思い切って予約。

 当日は朝早めにシドニーを発ち、午後はいくつか王道のワイナリーを巡る。ひとしきりワイナリーを回り終え、最後に「ワインだけではなく、今夜のビールも調達しよう」と夕方、ハンター・バレーを代表する醸造所の1つ「FOGHORN BREWERY」を訪れた。そして事件が起きる。

 ビールを買い終え、車に乗り込もうとすると異臭。どうやらアリサがうんちをしたようだ。宿までまたしばらく車を走らせることになるため、ここでおむつを替えておこうと、おむつやらウェッティーやらが一式入ったバッグを探すも見つからない。

「MEG、バッグがないよ」

「そんなわけないでしょ」

 おかしいなと思いながら車の中の荷物を全てひっくり返すがバッグはない。

「ワイナリーに置いてきちゃったんじゃないの?」とチカバー。

「でも、一度もバギーから下ろしてないよ。Bちゃんがバギー乗せる時に積み忘れたんじゃない?」とMEG。

 ちなみに妻は僕の名字「BABA」の頭文字を取って僕のことをBちゃんと呼ぶ。自分もBちゃんじゃないか、というツッコミはもうかれこれ10年以上前から封印している。「いや、間違いなくあったものは全部積んだよ」

 3人であれこれ協議するも、とにかくまずはワイナリーに戻ろうという話になり、一路ひたすら車を飛ばす。グズる子どもたちを交互に見ながら、訪れたワイン・セラー、レストランなどを回るも見つからない。そして僕らが出した結論、それは「盗まれた」というものだった。実はバッグの中にはMEGの財布など貴重品も入っていた。バッグはバギーのフックに引っ掛けられていたが、なにせ他の荷物も多いため、そのバッグ1つなくなったところですぐには気付けない。

 お婆ちゃんと一緒に草原を走るカイト、赤ん坊を抱っこしながらその姿を見守る日本人夫婦。その後ろには放置されたバギー。シドニーの有名な観光地に日本から遊びに来た無防備な観光客に見えたのかもしれない。

「狙われたのよ」とチカバー。

「お金だけじゃなくて免許もクレジットカードも何もかも入ってるんだよ……どうしよう」

 これは困ったことになった。するとチカバーがピシャリ。

「MEG、財布だけで済んで良かったじゃない。カードは止めれば良し、免許は再発行すれば良し、お金は諦めなさい。命取られたわけじゃないんだから。というわけで、宿に行っておいしいワインでも楽しみましょうよ!」

 チカバーは本当にポジティブで、僕は彼女の弱気な姿を一度も見たことがない。MEGも「そうだね!」とパッと笑顔になる。カイトは何があったの? という顔で僕を見上げる。何はともあれ子どもたちが元気ならばそれで良いではないか。

テンション激上がり「大人の隠れ家」

車庫の中は心躍るプレイ・ルームとなっていた

 既に陽が落ちたハンターバレーの夕闇の中、車を飛ばす。20分ほど車を走らせるとナビが「ここを右に曲がれ」と指示。暗闇の中、すっと奥まで伸びる泥道を車のヘッドライトが照らす。ここ? 走って大丈夫か? そう思いながら泥道に車を乗り入れる。そこから2分ほど走ると牧場のオーナーの家を通り過ぎ、道は行き止まりに。家らしきものは見えず、あるのは車庫のようなバラックだけだ。少々不安な気持ちになりながら、車を降り、バラックの扉に手を掛ける。鍵は掛かっていない。

 扉を開け電気を付けると車庫の中とは思えない、キッチン付きの清潔でおしゃれなベッド・ルームが現れた。奥には大きなバスタブを備えたバスルーム、クロークもあり清潔感も申し分ない。玄関を入ると右手に隣の車庫への扉らしきものがあったので、開いてみる。するとそこには予想していなかった光景が。車庫の中が、卓球台やダーツなどが設置されたプレイ・ルームになっていたのである。まさに「大人の隠れ家」といった様相。僕のテンションは一瞬でマックスまで上がった。これにはカイトも大喜び。室内にあるさまざまなおもちゃを手にとって走り回る。そして僕はそれを見ながらワインを片手にダーツに興じたのであった(プロフィールに書いてないがダーツも趣味の1つ)。

「育児もビジネスも、いろいろ大変で今は自覚はないけど、多分あとから振り返ると、幸せってこういう時間のことを指すのだろうな……」

アコモデーションを出ると目の前にはさまざまな動物たち


 翌朝、玄関の扉を開けると目の前には広大な牧草地。伸びをしていると近くでたまたま洗濯物を干していたオーナーが話し掛けてくる。

「今から馬やアルパカに餌を上げるけど一緒に来るかい?」

 もちろんだ。初めて見る大きな馬やアルパカにカイトは興味津々。最高じゃないか、ファーム・ステイ。そして今回のハンター・バレー行で僕はすてきなワイナリーとの出合いを果たすのだが、その話はまた次回。

馬場一哉(BBK)

雑誌編集、ウェブ編集などの経歴を経て2011年来豪。14年1月から「Nichigo Press」編集長に。21年9月、同メディア・新運営会社「Nichigo Press Media Group」代表取締役社長に就任。バスケ、スキー、サーフィン、筋子を愛し、常にネタ探しに奔走する根っからの編集記者(だったが、現在は会社経営に追われている)。趣味ダイエット、特技リバウンド。料理、読書、晩酌好きのじじい気質。二児の父

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