【今さら聞けない経済学】「GDP」はどうすれば増える?

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日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第15回:「GDP」はどうすれば増える?

ある国の経済規模が大きくなることを「その国の経済は成長した」と言い、それに伴い国民の生活が豊かになります。豊かで幸せな生活を望むのは当然のことですので、世界中の国が自国の経済規模の拡大を目指すわけです。

その経済規模とは国内総生産を意味し、これは英語で「GDP」と言います。「GDPとは何ですか?」と尋ねても、すぐに返事ができる人は多くないようですが、日々の生活の中でGDPという言葉はとても大きな存在感を示しています。そのGDPを大きくするために各国の政策当局は、それこそ死にもの狂いで活動しているのですから。

経済学という学問も、このGDPを増大させることを主たる目的として理論を構築しているのが実情です。そこで今回は、このGDPについてできるだけ分かりやすく解説していきましよう。

GDPとは何か

GDPとは「Gross Domestic Product」の略です。「Gross」は「全体の」という意味で、「Domestic」は「国内の」、「Product」は「生産」をそれぞれ意味しています。つまりGDPとは、その「国内」で新たに作り出された「もうけ」を「全て」足し合わせたもの。GDPが増大すると、その国の経済規模は大きくなった(発展した)と言われ、また、GDPが減少するとその国の経済状態は「だめ」になったと言われます。

日本のGDPはここ20年ほど大きな変化がなく、それ故に日本経済は「縮小した」とか「弱くなった」と言われています。日本のGDPは、2010年秋に中国に抜かれるまで長い間、世界でナンバー2の地位を占め「豊かな国」として世界中から羨望の眼差しを向けられていましたが、今ではもしかしたら「第2のギリシャ」になるのでは、などという言葉も聞かれるほどです。本当に悔しいことですね。

一体何が日本経済をこのような状態に陥れたのでしょうか。そこで、GDPについて詳しく見ていくとその原因が解明できるかもしれません。

どうすればGDPは増大する?

それでは、GDPを増大させるにはどのようにしたら良いのか、GDP増大政策について考えてみましよう。

① Y = C + I + G

これは経済学の教科書でよく見かける基本的な式で、マクロ基本方程式と呼ばれています。方程式などというと何だか難しく聞こえますが、日常生活にも方程式という言葉はよく登場します。例えば野球でも「勝利の方程式」などという言葉が出て来ますね。それを具体的に説明するとしたら、次のような意味となるでしょう。

勝利 = 投げる + 打つ + 守る

上の式の右辺の3つが全てうまくいくと野球での勝利につながるように、経済においても同じようなことが言えます。①の経済学のマクロ方程式は元々、ケインズが考えたアイデアを式に表したことから「ケインズの一般方程式」とも呼ばれ、経済理論を学ぶ上でもっとも基本的な公式です。

Y=GDP、C=消費、I=投資、G=政府支出。そこでC、I、Gがいっせいに増大すればY(=GDP)も増大するということになります。Yとは「Yield」の略で、「利益」や「もうけ」のこと。Cは「Consumption」(消費)、Iは「Investment」(投資)、Gは「Government Spending」(政府支出)を意味します。

つまり①の式が示す経済学的な意味は、例えば日本のGDP(Y)を上げるためには、人々がどんどん消費活動を拡大すること(C)、民間企業が一層投資を増大させること(I)、更に政府が財政支出をどんどん増大させること(G)が必要ということになります。これらの3つの要素が増大するとどんな国のGDPも増大するというわけです。

経済を分かりやすくする「関数」

そこでGDPを増大させるために、「C、I、Gをどのようにして増大させるのか」という点がとても重要な課題になります。そこで次に、少し専門的になりますが「関数」について考えてみましよう。

この「関数」という言葉は一見とても難しく感じられますが、経済学を学ぶ際には頻繁に用いられ、「C=f(y)」の消費関数、「I=f(i)」の投資関数、「G=f(g)」の財政支出関数などを使って考えることが一般的です。関数とは簡単に言うと「関わりのある数」のことで、例えばAの数値が変わるとBの数値も同時に変わる、というような場合を指します。つまり、何かによって別の何かが変わる、ということです。

C=f(y)という「消費関数」について説明しますと、人々の「可処分所得(y)」が増大すれば、「消費(C)」も増大する、というものです。これを先のケインズのマクロ方程式(Y=C+I+G)に当てはめると、可処分所得(y)が増える→消費(C)が増える→GDP(Y)も増大する、ということになります。

では、人びとの可処分所得を増大させるにはどうしたら良いか、が問題になってきます。可処分所得とは、給与などの個人の収入から、税金などを引いた残りの手取り収入のことで、以下の式で説明されるものです。

可処分所得 = 名目所得 - 税金

この式から分かるように、税金を上げれば可処分所得が減少し、つまり人びとの手元にあるお金が減るため消費水準が低下し、それがGDPの減少をもたらすのです。ここまで知ると「ははーん、どうりで安倍首相は消費税を上げないんだな」ということが何となく分かってきますね。

次に、G=f(g)の「財政支出関数」という式を見ると、政府支出(g)を増大させれば、GDPも増大します。これが「財政支出効果」や「財政刺激政策」と言われる政策です。つまり、日本政府はどんどん「借金=国債」を増大して、財政支出を増大してGDPを上げようとしているのです。これを「財政支出増大効果」と呼びますが、実際のところ、もうその政策手段にも限界が来ていますね。

安倍首相は5月26日、27日に開催された先進国首脳者会議「伊勢・志摩サミット(G7)」で先進国間で財政刺激政策を取るように主張しましたが、ドイツとイギリスはその意見に同調しませんでした。アメリカとカナダは「OK」と言いましたが、先進国がいっせいに財政出動政策を取らないと効果は薄れる、と考えるのが一般的です。その証拠に例の「リーマン・ショック」の時は世界でいっせいに同時政策の遂行を敢行したのでした。しかしあまり効果はなく、当時、中国政府だけが「4兆元」という巨大な財政出動政策を取り、それが世界経済の「奈落の底」への転落を助けたと言われ、中国政府は当時としては少し「英雄」でもありましたね。

I=f(i)は「投資関数」と呼ばれる難しい式ですが、利子(i)が減少すると投資(I)が増大するということを意味します。ここまで来て、「だから日銀はマイナス金利などという『禁じ手』政策を取るようになったのだなぁ」と分かった皆さんは、もう立派にマクロ分析の理解者です。

② Y = C + I + G + X - M

続いてこの式は、先のマクロ方程式に「X-M」を付け加えたもので、Xは「Export」(輸出)、Mは「Import」(輸入)を意味しています。これは輸出が増大すればGDPも増大するということで、つまり日本の経済がより拡大するためには「輸出の増大」が必要なのです。

かつて好景気の時代には、日本の輸出は拡大の一途をたどり、日本のGDPはどんどん拡大していたのですが、今では日本の輸出増大は考えられません。なぜでしょうか?輸出が増大するためには以下の「輸出関数」を用いて考えるとよく解ります。

③ X = f(y*、r)

上の式の「y*」は外国の所得のこと、「r」は為替相場のことです。日本の輸出が増大するためには外国から日本の製品を買ってもらわなければならないため、外国の所得の増大がカギになる、ということをこの式は表しています。しかし外国もなかなか景気が良くなく、日本の輸出は増大しないという現実があります。

もう1つは、「為替相場」、つまり「ドル高・円安」「ドル安・円高」の関係で、実はこれが何とも大切です。ドルに対して円が安くなると、日本の商品の価格は低くなるので輸出は増大しますが、逆にドルに対して円が「高く」なると、日本の商品の価格は上がってしまいます。すると日本財への需要は減少し、つまり輸出ができなくなるのです。近年、日本の円はドルに対してずっと「円高」だったのでたくさん輸出ができず、よって日本のGDPも拡大できないということになります。

このように、GDPが増大する=経済が成長する、という図式のためにはさまざまな「要因」があることをお分かり頂けたでしょうか。以上のことを十分理解しますと、皆さんもいよいよ「エコノミスト」と言われるようになりますね。

昔は「1ドル=360円」だったこともあり、とてつもない「ドル高=円安」でした。そんな時代が1970年代初頭まで続いたおかげで日本製品の価格がすこぶる安く、日本の輸出はどんどん拡大しGDPはどんどん増大しました。

しかし、73年の春に変動相場制が実行されるようになって一気に「ドル安・円高」基調が定着して以来、日本の輸出は減少の一途をたどり、今では「並の国」になってしましました。これらはすべてマクロ方程式によって分析されるということを、皆さんにぜひ学んで頂きたいと思います。


岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業析研究所主宰

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