第15回 災害時、なぜ電話はつながらないのにインターネットはつながるのか

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パソコン・トラブル・シューティング

岩戸あつしの
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パソコンにおける、身近なトラブルの解決方法ををコンピュータ・エンジニアの岩戸あつしさんが分かりやすく解説してくれる。

第15回 災害時、なぜ電話はつながらないのにインターネットはつながるのか

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最近の統計では、iPoneやアンドロイド搭載のスマートフォンの販売台数が通常の携帯電話機を上回り、スマートフォン1人1台時代を迎えようとしています。スマートフォンはポケットに入るサイズながら、携帯電話機能とインターネットの両方の通信手段を兼ね備えていることから、災害時にはとても頼もしい味方。これを1台持っているだけでかなり安心できます。

今回の東日本大震災でもスマートフォンは大活躍しましたが、電話がぜんぜんつながらないということが問題になりました。そう言えばニュージーランドの地震の時も、QLD州の洪水の時も一時電話がつながらなくなりました。こうしてみると、災害が大きくなればなるほど電話はつながらなくなるように思えます。

ところが、同じスマートフォンを使っていても、インターネットを使ったものは比較的つながりやすく、例えばスカイプを通じて電話ができたとか、ツイッターで連絡したということがありました。そこで今回は、携帯電話がどうして災害に弱いのか、またどうしてインターネットは強いのか、スマートフォンの場合に絞って解説します。

携帯電話の仕組み

携帯電話をかけると、まず最寄の無線基地(局)のアンテナが受けます。そしてそこからケーブルを通して近くの交換機に行き、さらに数台の交換機を経由して相手の電話につながります。

交換機から先は固定電話と同じ仕組みで、相手が携帯電話の場合は、相手の携帯がある最寄の基地局のアンテナが最終的に相手を呼び出します(図参照)。

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そして通信相手とつながったということは、1つの回線を通話中ずっと独占することになります。各交換機には使用できる限られた回線数があり、普段の通信では十分余裕を持っているのですが、緊急時には普段の10倍以上のアクセスがあり、ほとんどつながらなくなります。また通信業者は、緊急時に警察や消防の通信を優先的に確保するために、ほかの通信を制限する通信規制を行い、そうなるとますますつながらない状態が続くことになります。

今回の震災で携帯電話より固定電話の方がよく通じたという報告がありますが、図を見ていただければ携帯電話と固定電話の差は、無線基地からその無線基地が所属している交換機のまでの間であることが分かります。実際、長い停電のために無線基地の予備電源がなくなり、携帯電話の電波を全く処理できなくなったという報告がありました。

スマートフォンによるブロードバンド・インターネットの仕組み

インターネットも最寄りの交換機までは、携帯電話と同じルートで進みますが(Wi-Fiの場合は別ルート)、いくつか異なる点があります。

インターネットは携帯電話のようにいったんつながったらずっとその回線を独占している訳ではなく、パケット通信といって、小さい小包に分割して相手に送り、それもそれぞれの小包が必ずしも同じルートを通るとは限りません。スカイプの音声なども分割した単位で送って最終的に元の順番にならべて相手に届けられます。

また、インターネットはウェブと例えられるように、クモの巣のように張り巡らされたネットワークです。あるルートが混んでいれば自動的に別のルートを探してそこを経由して通信するので、回線を使い切ることが少なくなります。

またスカイプでは、インターネットが混みあってくるとスループットを計算し、音声の品質を落としたりして会話が途切れないようにしています。

今後の取り組み

震災を経験した日本では、災害に強い携帯電話の研究が進んでいます。当面は、通信制限、例えば緊急度の優先順位を決めたり、緊急時の1通話を1分に制限するなどを考えているようです。また、無線基地が停電で使用できなくなれば、スマートフォンでインターネットも利用できなくなることから、停電に強い設備対策も考えられています。

ただし、これらの対策は日本で始まっていますが、私の知る限りオーストラリアでは(いつもそうですが)、かなりのん気なように思えます。


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岩戸あつし <著者プロフィル>
 

大学院卒業後、貿易会社を経て、コンピュータ・エンジニアとして活躍。日経CGなどへの執筆、PCショーの講師を勤める。1992年、オーストラリアに移住。1994年シドニーにジャパン・コンピュータ・ネットを設立、主にシドニー在住の日本人、日本企業にコンピュータ・サービスを開始する。現在同代表取締役社長。

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