
今、日本で人気復活の様相を見せ「江戸時代以来」という活況に沸く落語界。1月7日にはテレビ・タレントしての知名度も高い上方落語の月亭方正氏のシドニー公演が大盛況で終わるなど、ここオーストラリアにも日本の落語ブームの影響が及んできている。そんな絶好のタイミングで、2月に海を渡ってやってくるのが落語界の「異端児」として知られる落語立川流真打・立川こしら氏。ブリスベン、シドニー、メルボルンの3都市で「豪州ツアー」単独公演を予定している同氏に、これまでの活動や豪州ツアーに至った経緯など話を伺った。 (インタビュー:植松久隆)
独自のスタイルを貫く「異端」の落語家

立川こしら、異色の経歴を持った落語家である。「落語界の異端児」として有名な立川流家元・立川談志(故人)の初めての孫弟子にあたる落語立川流の真打。「こしら」というその高座名からも伺えるように、師匠は談志の愛弟子・立川志らく。その志らくは、劇団主宰や映画監督など落語だけに収まらないマルチなタレントぶりでとみに知られる。その一番弟子のこしらも、その多芸ぶりでは師匠に負けない。
落語家になる前にはバンド活動や劇団員として活動していた21歳の青年が、知人の紹介で何の経験もなじみもない落語界に飛び込んだのは1997年のことだった。
「落語なんて、この世界に入るまではほとんど聞いたことがありませんでしたし、知識もありませんでした。同期の弟子は3人いましたが、それぞれ落語研究会の出身だったり、師匠の追っかけをしていました。そこで、楽屋でのお茶の出し方や着物の畳み方など何も知らないところからのスタートでした」
それでも、志らく門下で着実に落語家としての腕を上げ、2001年に二つ目に昇進を果たすと高座名を「こしら」と改める。そして、11年に「談志の孫弟子初」の立川流真打昇進が決まり、翌12年に正式に昇進を果たした。その時、こしら以上に落語を知っていたという前述の3人の同期がいずれも既に落語界を去っていたというから興味深い。
「落語って古いものという印象があると思うんです。でも入門以来、芝居の経験を生かして劇団を立ち上げたり、金髪や腰まである長髪で高座に出たり、他の落語家がやらないようなことばかりやってイメージを変えようと挑戦してきました」と、こしら氏は自らのユニークな活動について語る。多くのラジオ出演の他、全く畑違いのフジ・ロック・フェスティバルのステージにも上がり“フェス・デビュー”を果たしているのも彼らしい。
更に、15年に自身の初弟子の高座名の命名権をオークションに懸け、落札者のアイドル・グループに因んで立川仮面女子(現在は命名権が切れ、立川かしめと改名)と名乗らせたことでも、世間の耳目を集めた。
髪を金髪に染め高座に上がり先輩落語家から苦言を呈されても気にせず、「あんなの噺家じゃない」との古い落語ファンからの批判も意に介さずに築いてきた自らのスタイル。しかし、いくら目立っても実力が無ければ生き残れないのが落語の世界。そんな厳しい世界で生き抜いてきた実力は折り紙付きだ。“談志の初めての孫弟子”という枕言葉がついて回ることも「談志師匠は私が真打昇進の頃は体をかなり壊していて、師匠の御前での審査を受けたわけではないんです。二つ目に上がる時も、志らく師匠からの報告に談志師匠は『好きにしろ』と(笑)。だから、もう幸運だけで今ここにいるようなものです」と謙遜(けんそん)する。とはいえ、志の輔、談春ら実力派ぞろいの談志一門の中でも談志イズムを色濃く受け継ぐと言われる師匠・志らくに認められた実力はだてではない。
その「実力」、真打トライアルでぶっちぎりの1位となった今までの落語好きとは異なる層の厚い支持による「人気」、自身が強調する「運」、これらの要素が相まって活躍してきたのが、立川こしらという落語家なのだ。
ゲームがつないだ豪州ツアーのチャンス
そんな彼は、アニメやゲームにも非常に造詣(ぞうけい)が深いことでも知られている。東京国際アニメフェアの審査員を務めたり、ブームになったゲーム「艦これ」こと「艦隊これくしょん」ではマニアが驚くほどの腕前を誇るなど、その世界でのこしら氏の知名度は高い。更には、Googleの位置情報サービスを使い世界的規模で争われるゲーム「イングレス」も玄人はだし。日本でイングレスの世界大会が開かれた際には、「イングレス寄席」で大会の盛り上げに一役を買った。
その位置情報サービスを使ってのゲームといえば、昨年から話題の「ポケモンGO」。実は、この「ポケモンGO」こそ今回の豪州公演開催実現の遠因なのだ。
「ゲーマーを自負している以上、当然一般の方よりもポケモンGOの実力は上を行っていると思います。日本でコンプリートしたら、やっぱり北米や豪州の地域限定ポケモンが欲しくなるんです。それで、『そういう場所で落語会をやれないかな、そうすればポケモン捕まえに行ける』なんて考えたのが、海外に目が向いた元々のきっかけなんです」と冗談めかす。ただ、当然ながらポケモンだけが今回の豪州公演の目的ではない。
「ポケモンは、あくまでもきっかけです(笑)。地域限定のポケモンもわざわざ現地に出向かなくても捕まえられるようになってきました。でも、そのポケモンがきっかけでつながった豪州在住の方々から『落語会をやろう』というお話を頂きました。海外の邦人社会には落語を聞いたことがないという人も多いだろうと思いましたし、ある意味で落語を多くの人に知ってもらう絶好の機会と考えたんです」
「ポケモン」がきっかけで芽生えた海外公演のチャンスを、今は純粋に「落語に縁のなかった人に落語を知ってもらう好機」と捉えている。「このご時世、YouTubeで落語なんて人もいるでしょう。でも、やっぱり落語は生が一番。落語は、ただ映像で観るだけだと演者の独り言なんです。それを、演者のせりふや仕草をきっかけにして、その場面をお客さんに想像してもらうことが大事なんです。落語は半分以上はお客様の想像力で成り立っている。だから、落語の舞台には何もなく、演者を見るしかない。そうすると、おのずと集中して落語を観られるんです」と、落語ビギナーにこそ寄席に足を運んで、生の落語に触れて欲しいとこしら氏は語る。
話を聞いて驚いたのが「豪州公演ではどんなネタで臨むのか」との問いを投げかけた時の答えだ。
「ネタを決めてから高座に上がることはないので、冒頭のフリー・トークでのその日のお客さんのリアクションを見て、どのネタにするか決めます」
つまり、豪州公演の全ての高座で、当日にならないとどんなネタが飛び出るか分からないということ。そのネタの全てを観たい気もするが、なかなか難しいだろう。豪州在住の日本人にとっては、一線の落語家の熱演によって「落語を知る」という機会はそうはない。このチャンスを逃さず、「一期一会」のそれぞれの高座でしか聞けない噺を楽しみに出かけてみてはいかがだろうか。
豪州ツアー特設HP Web: kosira-australia.jimdo.com
ブリスベン3公演共通フェイスブック・ページ Web: www.facebook.com/events/735814236584692
立川こしら豪州ツアー2017(ブリスベン)
立川こしら独演会
▼会場:Mizu Japanese Restaurant West End(63 Hardgrave Rd., West End)
▼日時:2月17日(金)6:30PM開演
▼料金:前売$60(公演1週間前より$65)
▼定員:30人
親子で楽しむ! こども落語と実践講座
▼会場:Holland Park State School Rブロック(59 Abbotsleigh St., Holland Park)
▼日時:2月18日(土)13:30PM開演
▼料金:大人$25、子ども$15
浴衣で鑑賞する大人の落語会 with Kimonoya Brisbane
▼会場:Rochedale(申込者を対象に詳しい住所を連絡)
▼日程:2月18日(土)
▼時間:3PM~5PM(着付け先着10人)、5:30PM~7PM(落語)
▼料金:$45
立川こしら豪州ツアー2017(シドニー/メルボルン)
シドニー会場
【立川こしら 落語会 in Sydney】
▼会場:St. Augustine’s Anglican Church(75 Shellcove Rd., Neutral Bay NSW)
▼日時:2月19日(日)2PM開演
▼料金:前売$20
▼問い合わせ・申し込みEmail: ydevent111@gmail.com(担当:Yuriya Diancin)
メルボルン会場
【落語夕涼み会】
▼会場:47 Miller Cres, Mount Waverley VIC
▼日時:2月21日(火)6PM開演
▼料金:大人$25、高校生・大学生・ワーホリ・一般事前予約$22
▼予約・問い合わせ:0432-332-360、hmhpmel@hotmail.com(ハピマハピパ会)
【シティde落語】
▼会場:Ross House, 247-251 Flinders Ln., Melbourne VIC
▼日時:2月22日(水)10:15AM開演
▼料金:大人$28、高校生・大学生・ワーホリ・シニア・一般事前予約$25
▼予約・問い合わせ:0432-332-360、hmhpmel@hotmail.com(ハピマハピパ会)