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弁護士費用について / 日豪プレス 法律相談室

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第84回 弁護士費用について

 法律の専門家に相談・依頼すべきなのに、一般的な弁護士費用(GST込みで440豪ドルかそれ以上)を恐れて弁護士に相談するのを躊躇していませんか? 今回は、弁護士費用を含めた法的費用を抑えることが実際に可能かどうか、お話していきましょう。

 法律に関わる問題が起きたら(弁護士への相談が必要になったら)、まず次の3つのポイントを確認・検討しましょう。


【見積額】
 最初に、問題解決までに必要な法的費用の見積りを取りましょう。業務が幾つかの段階に分かれる場合、それぞれの段階(ステージ)で生じる弁護士費用と所要経費を確認します。

【タイム・マネジメント】
 いかに効率良く業務を遂行する弁護士かどうか、見極めましょう。問題解決に向けてより効率的に仕事を行う弁護士であれば、あなたが支払う弁護士費用の有効性もアップします。

【経験・実績】
 相談事が裁判に発展する可能性も考え、類似ケースや裁判経験など、これまでの実績について聞いてみましょう。裁判経験豊富な弁護士に依頼することで、より良い結果( 賠償請求であれば賠償額アップ)につながる場合があります。




「裁判で勝訴した場合、私が負った法的費用は最終的に相手に支払ってもらえるのでしょうか?」という質問をよく受けます。 答えは「イエス!」ですが、全額ではなく、その一部と考えて頂くのが良いでしょう。基本的には法が定めた基準を参考に算出され、賠償額が大きければ、相手による法的費用の負担額も大きくなりますが、その額は控えめに設定されています。

 訴訟相手による法的費用の負担額は訴訟内容によって変わります。例えば、労災に関する賠償請求では、州の法律が限度額を定めています。また、民事の場合、交渉による和解解決ということも多いですが、そうした場合も相手に法的費用全額を請求できるわけではありません。

 さて、賠償請求案件における弁護士費用の“成功報酬制”とは一体どのようなものなのでしょうか? 依頼案件の結果次第で費用の請求が発生するという方式で、手付金などの支払いは不要なため依頼者に優しいシステムです。しかしその弁護士を選ぶ際も、上記3つのポイントをよく検討することが重要です

賠償請求額の重要性

 私は賠償請求のスペシャリストとして弁護士歴30年以上の経験がありますが、相談者(事故被害者)に成功報酬制を提示しても、費用への懸念を含め、弁護士に依頼する(賠償請求を進める)ことに強い抵抗を感じている人に数多く会いました。賠償金をもらうべき理由がしっかりとある人たちなのに、大変残念なことです。

 賠償請求の結果、受取額を増額する戦略の1つとして、少しでも多く相手に法的費用を負担してもらうことが挙げられます。豪州の民法は原則、敗訴した側が勝訴した側の法的費用を負担するよう定めているのですが、正式な賠償請求額・提示額と判事による決定額の比較で、法的費用の負担額が上下することがあります。

 その賠償請求額・提示額のメカニズムによって、裁判に勝ったものの、経済的には劣位に終わった実例をお話しましょう。

 少し前に、高等裁判所で自動車事故の賠償請求案件が争われ、審理の結果、被害者には賠償金21万7,490豪ドルが支払われることになりました。しかしその案件は裁判前の交渉で、被害者側が、訴訟相手である保険会社が出した賠償額30万豪ドルの提示を突っぱねたという経緯がありました。

 通常のプロセスとして、審理でその金額は明かされず、判事は審理中に確認した証拠・証言を基に、その他の要因に影響されることなく独自の判断を行います。

 判事が下した判断は結果的に30万豪ドルを大きく下回る額だったため、裁判前に30万豪ドルを承諾して和解解決しなかった被害者側にそのペナルティーとして、保険会社側の法的費用の負担が命じられました。

 つまり被害者は、賠償金として受け取った額のほとんどを保険会社に戻さなければなりませんでした。賠償提示額に関する賢い戦略がうまくいった保険会社、一方で被害者はとても悲惨な
結果に終わりました。

 もちろん、その反対の例もあります。裁判前に被害者が出した賠償請求額を保険会社が承諾せず、審理を通して判事が下した判断は、被害者による賠償請求額を超える金額になりました。保険会社にはペナルティーとして、被害者が負った法的費用の負担に関して、通常よりもかなり高い負担率での支払いが命じられました。

 その裁判は実は私が担当したケースで、被害者は観光で豪州を訪れていた日本人でした。高等裁判所で5日間にわたり行われた審理に出廷するため、私のクライアントは家族の付き添いの下、豪州の裁判所で証言するために来豪する必要がありました。そうした裁判費用だけでもかなりの額に達しましたが、もし審理が始まる前に保険会社が私のクライアントによる賠償請求額を受け入れていたなら、裁判のための時間もコストも費やさずに済んだという考えから、判事は保険会社に対して賠償金本体とは別に60万豪ドルを超える支払いを命じました。

 私が担当した案件( Yamaguchiv QBE[2016] QSC 151 and [2016] QSC 170)は、この種の裁判における、正式賠償請求額・提示額の戦略的使い方のベンチマークになっています。

ミッチェル・クラーク

MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として30年の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート

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