出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~
其の伍拾参
新たなチャレンジの始まり
コロナ禍をきっかけに、シドニー・フィッシュ・マーケットで開催されていたクッキング・スクール「シドニー・シーフード・スクール」でのクラスも縮小されました。30年以上続けてきた私のクラスも再開の目処が未だ立たず、長く付き合ってきたマネージャー、Roberta Muirさんも退職され、現在はご自身のプロジェクトを始めるなど新たな道へと進み始めました。
彼女は、現在新しいコンセプトの旅の紹介やワインのプロモーション、そして、インターネットでのインタラクティブな料理のクラスをスタートされ、私も参加することになりました。
彼女のクラスは、気軽にいろいろなジャンルの料理を家庭で楽しめるようにシンプルにデザインさており、大変興味深い内容となっています。彼女が進行役となり、シェフと一緒に料理していくプロセスを前もって撮影、編集しており、申し込まれた方のお宅には食材が配達されます。
そしてオンラインで経験豊かなゲスト・シェフのクラスを自宅で受けられます。個人はもちろん、家族、グループなどで受けることも可能で、非常に便利なものになっています。
料理を学ぶという形態が、インターネットの発達と共に、急速に多様化しました。ブログやYouTube
などのツールを使い、自由に料理を発信することも可能で、世界中でその情報がシェアされます。写真や映像も非常に綺麗で、優れた料理のプログラムもあります。私の妻はロックダウン中、料理のブログやYouTubeに夢中になっていて、その熱は今でも続いているようです。
シドニー・シーフード・スクールで教え始めた1980年代の頃には、この状況は想像もできませんでし
た。ただ、対面でインタラクティブに料理を教えることにより、参加者の方々の熱量も伝わりますし、人との出会いや会話の楽しさがあります。私はそれが好きで今も料理を教えることを続けています。それが、オンライン上で行うとなるとどのように変化するのか。また違った面白さが見つかりそうで、これからどのように料理を教え、学ぶスタイルが変わっていくのか、考えるとわくわくします。
日本とオーストラリアは時差が少ないという利点もあるので、食材さえ揃えば、日本から日本料理を発信し、オーストラリアの各家庭で学ぶこともできます。また、オーストラリアには、いろいろなバックグラウンドを持つシェフがいるので、オーストラリアから世界の料理を学べると言っても過言ではないかもしれません。しかしながら、料理の対面レッスンでの熱量をどう表現するか。この熱量を、受ける側も、送る側も感じられるよう、レッスンの醍醐味と面白さをどう伝えられるかを、熟考する必要は大いにあるでしょう。
コロナ禍により、今まで以上に加速度的にインターネットが生活の中で必要なものとなり、コンピューター・ネット世代ではない、私たち高齢者にとっては、日々、進化するネット活用に追い付くのはかなか容易ではありません。しかしながら、その可能性は広く、創意工夫により、生活をより多彩で便利なものへと変えられます。私たちもそれを取り入れないわけにはいきません。
私のクラスでも、ネットを通してどのような魅力的なコンテンツを発信できるか。そして、心が豊かになるような食事とは何かを、これからも追求し続けていければと思っています。Roberta Muirさんが始めたプロジェクト「Be Inspired」は下記からご覧いただけます。よろしければ覗いてみていただければと思います。
■Be Inspired, Food-Wine-Travel by Roberta Muir
Web: be-inspired-food-wine-travel.com
このコラムの著者
出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章。