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第7回 「シドニー・ロイヤル・イースター・ショー」

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数々の迫力あるアトラクションもぜひトライしてほしい

編集部BBKの突撃レポート
不定期連載第7回

「シドニー・ロイヤル・イースター・ショー」

毎年イースター・ホリデーの時期に行われる「シドニー・ロイヤル・イースター・ショー」。日豪プレスでも毎年特集を組んでいるため、イベントの存在自体は読者の皆さまにもよく知られるところだろう。だが周りで実際に行ったことのあるという人はほとんど聞いたことがない。しかし、このイースター・ショー。僕にとってはかなり思い入れのあるイベントで、林間学校を控えた小学生のようにかなり前々から心待ちにしていたのだ。なぜか。今回はこのイースター・ショーにからめて、僕個人の移住にまつわるストーリーを少し書かせていただいてもよいだろうか。

シドニー五輪が行われる前年、当時大学生だった僕は親友と2人で夏休みを利用してバックパッカーになろうということになり、なけなしの金を手にオーストラリアを訪れた。数カ月間有効の長距離バス・チケットを購入し、シドニーからメルボルン、アデレード、アリス・スプリングス、エアーズロック・リゾート、テナント・クリーク、そしてタウンズビル、ケアンズというルートを陸路で回った。その間、たくさんの人々と出会い、別れた。この時の旅で得た体験はどれも貴重で忘れがたく(幸いにも当時の日記が残っているのでいつか旅日記を書いてみたいと思っている)、僕はオーストラリアという国の持つ懐の深さに取りつかれた。以来、「いつかオーストラリアに戻る」という思いとともに日常生活を送り、その思いは社会人になると「いつか移住する」という夢へと変わった。

社会人になってから12年、編集記者として順調にキャリアを積んできたが、それもある程度飽和点に近付きつつあることに気付いていた。

「もう十分ではないか。そろそろ次のステップに向かってもいい頃合いだ」

そう考え、妻の了承を得て会社に退職願いを提出。そして家の契約を解除、家具から家電、本・CD・DVDまであらゆる所有物を処分。自らの退路を断つ形で、ほとんど身1つ(正確には2つか)で来豪を果たす。年齢も30代半ばに差し掛かっており、WHビザは取れない。僕がオーストラリアでのキャリアを築くためには学生ビザを取り、パートタイムで仕事を続けるしかなかった。語学学校でひと回り以上も若い子たちに混じり、英語の歌を歌ったり、英語のゲームをしたりする毎日。夜は若いクラスメイトたちとバーやクラブ、カラオケに行き、恋愛相談や就職相談にのった。ビザの関係で働き始めるまでにそんな生活を僕は3カ月半も続けた。貯金は驚くほどの勢いで減り続けた。

僕も妻も東京ではそれなりの職に就き安定した生活を送っていた。そのためお互い無職で過ごしたその数カ月間は、辛さがはるかに勝った。時に日本に帰りたがる妻を「そんなことでどうする。先が見えるまでは絶対に後ろを振り返ってはダメだ」と自分の夢であったにもかかわらず身勝手にしかった。そのころ僕らには喧嘩が絶えなかった。

来豪から4カ月後、日豪プレスで働き始める。「社会人」としてビジネスの話をすることに飢えていた僕は、会社で仕事の話をするだけで嬉しかった。しかし、それは生活を再設計していくための最初のスタート地点に過ぎない。達成しなければならぬことは多く、またそれは遅々としか進まない。僕は疲弊していた。


動物との触れ合いもいたるところで楽しめる

そんな折、僕らは「シドニー・ロイヤル・イースター・ショー」を訪れたのだ。農業・酪農産業に携わる人々が、毎年手塩にかけて育てた牛・豚・鶏・羊の品評会から始まった同イベントは、190年という長い歴史を誇る農業・酪農大国オーストラリアの文化を深く満喫できる祭りとして知られ、1万5,000品目を超える農作物や食品の展示、ロデオや丸太切り競争、ドッグ・ショー、豚のレースなどさまざまなイベントやアトラクションが一堂に会す巨大テーマ・パークさながらのイベントだ。

会場に入ると疲れ切っていた僕の目に、馬、羊、ヤギ、豚をはじめとしたさまざまな動物たち、そしてそれを輝く目で見つめる子どもたちの姿が映った。フレッシュ・フード・ドームでは色とりどりの鮮やかな野菜や穀物を眺めながら、ラム・ステーキやチーズを試食。そしてワインを試飲しながらオーストラリア産のオイスターに舌鼓を打つ。「なんだこれは?」と思わず笑ってしまった丸太切り、動物たちのレース。僕はいつしか心の底からショーを楽しみリラックスしている自分に気付いた。この国の「豊かさ」の源流、僕がずっとこの国に惹かれてきた理由がこの時初めて形となって目に飛び込んできたような気がした。そして改めて思ったのだ。「ここでがんばっていこう」と。

物と刺激に満ち溢れる日本での生活に慣れている僕らにとって、イースター・ショーは一見、素朴で地味なイベントに映るかもしれない。しかし、その根底に流れているものを感じ取ることができればその色合いはとたんに鮮やかなものに姿を変える。

だから僕は今年もまた自分がこの地にいることの喜びをかみ締めるためにショーを訪れたのだ。もし、まだ訪れたことがなければ来年こそぜひ足を運んでみていただきたいと思う。

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