検索
Close this search box.
検索
Close this search box.

第6回 「日本映画祭」

SHARE
『終の信託』の周防正行監督と、主演の草刈民代さん

編集部BBKの突撃レポート
不定期連載第6回

「日本映画祭」

 11月14〜25日、第16回日本映画祭がシドニーで開催された(メルボルンは11月29日〜12月25日)。かつて、日本でニュース・メディアの記者をやっていたころ「カルチャー・スポーツ・芸能」担当だったこともあり、映画がらみの現場取材はそれなりの場数を踏んでいる。そんなわけで、自ら「俺が書く」と息巻いた次第なのだが、「そのわりには、いちいち俳優や監督の名前を知らないな」と編集室でよく映画の話をするM嬢がいぶかしんでいることは想像に難くない。そう、僕は人の名前を覚えるのが苦手だ。「ほら、何だっけ? ベーコンじゃない方のケビンさん(=ケビン・スペイシー)」とか「ほら、あの、若き日のモーガン・フリーマン(=デンゼル・ワシントン)」というような会話は日常茶飯事だ。

だが、例えばトム・クルーズがディスレクシア(識学障害)であるにもかかわらず俳優として成功しているように、僕もまた名前を覚えられないにもかかわらず映画関連のライティングをこなしてきたということで、自らを優しい目で見守ることにしている。

さて、与太話はここまでにして映画祭の話に戻そう。僕が今回鑑賞したのは3作品だ。ゲスト・スピーカーが来る2作品『夢売るふたり(主演:松たかこ、阿部サダヲ)』『終の信託(主演:草刈民代、役所広司)』とクロージング作品『のぼうの城(主演:野村萬斎)』だ。阿部寛主演のタイム・スリップ銭湯スペクタクル『テルマエ・ロマエ』や、沢尻エリカ主演の美容整形で身を持ち崩す女を描いた『ヘルタースケルター』などの話題作も観たかったが、いかんせんすべてを観ていたら仕事が滞り、それこそ僕が身を持ち崩してしまう結果になるので諦めた。

『夢売るふたり』は妻が夫をコントロールし結婚詐欺を働いていくという話。『終の信託』は女医が強い絆で結ばれた男性患者を尊厳死させ、後に罪に問われた実話を映画化したもの。そして『のぼうの城』は豊臣秀吉軍の大軍勢を、城を任された一見無能な成田長親が歴史上類を見ない奇策で守り抜く史実をもとにした歴史もの。3作品どれもお世辞抜きに面白かった。が、中でも僕は『夢売るふたり』にやられた。

「この作品はこのような人になってはいけないと警鐘を鳴らすものではありません。人間誰しも嘘をつきますし、嘘をつくのが人間です。この嘘をモチーフに扱うことで人間の本質、本性があぶり出されてくる。そういう仕掛けとして嘘や成りすましを扱いました」

上映後、登壇した西川美和監督(2006年『ゆれる』、09年『ディア・ドクター』)はそう語ったが、まさにこれは『人間』の弱さや危うさをリアルに描いた作品で、さすが阿部サダヲのキャラクターもあり、コメディー色も随所に出るのだが、根底に流れているものは実にどろどろとした人間の本性だ。

ある映画評論家が「これは稀代の悪女映画です」などと書いているが、僕は大声で抗議活動を行いたいくらい、微塵もそう思わない。これは「普通の女」の話だ。身に降りかかる不幸に耐えようと自制心を働かせる中で、少しだけ歯車が狂い、結果大きな犯罪に手を染めてしまったに過ぎない。だから恐ろしいのだ。自ら夫に売春させ、その一方で嫉妬し、自慰行為にふける。このアンバランスさがいかにも人間らしい。そして、それを演じる松たかこのリアリティーがまたすごい。


『夢売るふたり』の西川美和監督

イベント終了後、監督は本紙の取材に対して「女性がどのような風習の中どのように生きているのか。これは国によって差がありますしそこを詳しく知りたい。今後もこういったイベントの機会に聞いていきたい」と語った。製作サイドにとって、こうした映画祭に招致されることは、それ自体新たな創作意欲を沸かせる刺激になるものかもしれない。

『終の信託』の上映後に登壇した周防正行監督も、観客席から出た質問に対し、「それは日本では1度も聞かれなかった鋭い質問ですね」と切り返すなど、海外ならではの視点に驚きを見せていたのが印象に残っている。

日本映画の魅力をローカルの人々に伝えることが第一義なのはもちろんだが、こういった製作者サイドへのフィードといった面からもこのイベントの持つ意義は大きいのではないか。

「日本映画祭」は年々その規模を拡大しており、オーストラリアの規模は世界2番目だという。ただ今回、実は上映中に映像が止まるなどといったトラブルや、映像の明度やコントラストが製作サイドが意図していたものと違ったなどといった話も聞かれた。そのあたり若干の反省点も含めて、今後のさらなる発展を願ってやまない。可能であればさらにゲストを増やし、イベント・シネマでのレッド・カーペットなども観てみたいものである。

いずれにせよ、オーストラリアにいながら、シネコンの巨大スクリーンで日本映画を楽しめる。こんな贅沢はなかなかない。大満足。

<プロフィル> 編集部BBK
スキー、サーフィン、牡蠣、筋子を愛すシドニー新参者。常にネタ探しに奔走する根っからの編集記者。
齢3 0 半ば♂ 妻あり。読書、散歩、晩酌好きのじじい気質。

SHARE
関連記事一覧
Google Adsense