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ガレージ? それともガラージ?─オーストラリア弁(新方言)を探せ 第5回

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 毎日英語ばかり使って暮らしていると、日本語のカタカナ語もつい日常的に使う英語の音に引きずられ、変化してきてしまうという現象が起きる。改まった場所ではない会話で、英語と日本語の単語をいちいち言葉を切り替えるのは面倒だし、とっさに口をついて出てくるのは日頃から使用する頻度が高い言葉になりがちだ。

 とは言え、日本人同志の日本語の会話で英語の単語をそのまま英語の発音で話すことには抵抗があるので、何とか簡易な方法で日本語のカタカナ語にしてみる、という試みが無意識のうちに行われているようだ。

 調査してみると、オーストラリアの家にはたいていある車庫、ガレージのことを「ガラージ」と呼ぶ人が多数いた。

 オーストラリア英語の「garage」には実は4種類の発音がある。IPAという国際発音記号で書くと、イギリス風に頭にアクセントが来る場合には「/’gæraʒ/」または「/’gæradʒ/」。アメリカ風に真ん中の「ラ」にアクセントが来る場合には「/gəˈraʒ/」または「/gəˈradʒ/」。いずれにしても、カタカナにすると「ガラージ」という音に近くなる(ちなみに、イギリス英語での発音は「/ˈɡær.ɑːʒ/」または「/ˈɡær.ɪdʒ/」、そしてアメリカ英語での発音は「/ɡəˈrɑːʒ/」となり、いずれもオーストラリア英語とは若干異なる)。

 自分で好きな料理を好きな量だけ盛り付けて食べるタイプの食事、日本語ではバイキングやビュッフェと呼ばれる食事形式のことを「バッフェ」と呼ぶ人もかなりいた。

 英語の「buffet」はイギリス英語では「/ˈbʊfeɪ/」、アメリカ英語では「/bəˈfeɪ/」となり、「ブフェイ」、または「バッフェイ」に近い音となるのだが、オーストラリア英語ではこれが「/ˈbʌfeɪ/」または「/ˈbʊfeɪ/」となる。

 カタカナにすると、こちらは「バフェイ」または「ブフェイ」に近いが、日本語で一般的な「ビュッフェ」が「バフェイ」に少し引きずられて組み合わさり「バッフェ」となったのだろう。

 また、オーストラリア第3の都市、クイーンズランド州の首都ブリスベンを「ブリスベン」ではなく「ス」に点々が付いた濁音の「ズ」を使い「ブリズベン」と呼ぶ人もいるようだ。こちらはイギリス、アメリカ、オーストラリア共に、英語では「/ˈbrɪzbən/」という発音になる。

 カタカナにするとブリズバン、といったところだが、やはりこちらも日本語で一般的な「ブリスベン」が英語の濁音に引きずられて組み合わさり、「ブリズベン」になっているようだ。

プロフィル

ランス陽子

フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「ゴールドコースト弁を探せ!プロジェクト」
(Web:www.facebook.com/ゴールドコースト弁を探せプロジェクト

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