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ブルー・マウンテンズでの邂逅、珠玉のハンター・ワイン─帰ってきたBBKコラム

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ブルー・マウンテンズでの邂逅、珠玉のハンター・ワイン

 7月中旬、友達のエリーが日本から遊びに来てくれたため、泊まり掛けで一緒にブルー・マウンテンズへと出掛けた。彼女とはシドニーで趣味を通じて知り合った仲だが、私よりひと回り以上若いにも関わらず気が合い、よく飲みにも行った。私の日本帰国の際には箱根へ旅行、一緒に冬の温泉街をそぞろ歩いたことを思い出す。

 ブルー・マウンテンズを訪れるのは久々だった。青、緑、茶色を基調とした色が織りなす美しくダイナミックな景観に息を呑み、澄んだ空気を体の隅々にまで行き渡らせ、やがて日暮れの時間を迎えた。

 宿泊は森の中にひっそりと佇む隠れ家風アコモデーション。リビングのソファでくつろぎながら、まずはビールで乾杯。私もお酒は飲める方だが、いつもながら彼女の1杯目のビールを飲み干すスピードにはかなわない。

 ほどほどに酔いが回ってきた頃合い、この夜のために選び抜いたワインの1本に手を伸ばす。魅
惑的な真紅の液体をグラスにゆっくりと注ぎ、2人でカチンとグラスを合わせる
「改めて乾杯」
「一緒にいると、とっても落ち着きます……」
 彼女の頬の火照りはきっとお酒から来ているものだ。冷静にそう分析するが、若さのわりに大
人びた雰囲気を持つエリーと過ごしていると、私はいっとき年齢差を忘れてしまう。


 気付けば時計の針は午前1時を回っていた。

 同時に何気なくベッド・ルームの方を見やる。そして、視線は再び交錯する。どちらからともなく、2人はゆっくりソファから腰を上げた──。

 閑話休題。

 冒頭から、主語を「私」にしてミスリードを狙って小説風に書いてみたら、思いの外気持ち悪い感じになってきたので、そろそろ通常のテンションに戻そう。周辺情報をあえて端折ってはいるものの、訪れた場所、行動、会話など書かれていることは事実、間違いはない。ただ、周辺人物が誰も描かれていないことで、ある種、背徳感が醸された印象の文章になった。僕らファミリーは7月中旬、来豪したエリー、そして共通の友人家族らと共に9人(うち子ども4人)でブルー・マウンテンズを訪れ、一軒家を借り切った(ちなみに箱根旅行も仲間と一緒)。

 深夜の2人のくだりは、他のメンバーが寝室へ引き上げたあとも、共有スペースに残って飲み
続けていたに過ぎず、それまでは大勢でワイワイやっていた。エリーはいつも僕に「親戚のおじさ
んみたいな感じで一緒にいると落ち着くんです~」と言って笑い、僕は「年下と話している感じ
がしないからせめて親戚のお兄さんで」と答えている。午前1時過ぎ、ソファから立ち上がったあ
と、「じゃ、おやすみ」とさっさとそれぞれの部屋に引き上げたことは言うまでもない。

 導入から何かちょっと変化球的な書き方をできないかなと考え、事実は提示しながらも読者
に間違った認識をさせる「叙述トリック」的な感じで書いてみたが、ちょっと悪趣味だと感じたの
であればご容赦を(もうやりません!)。

左からエリー、カイト、ミキ(友人)、ナッティ(友人息子)、僕、アリサ(シーニック・ワールドで)

バギーでも回れる「森林ウォーク」

 広大なブルー・マウンテンズには、数多くの絶景スポットがあるが、山の中に巡らされたトラック・コースを、長時間歩かねばたどり着けない所も多く、小さな子らを引き連れてそれらを訪れるのは至難の技だ。そこで今回、10年ぶりに「シーニック・ワールド」を訪れることにした。ブルー・マウンテンズ・ツアー定番スポットである同施設は、世界一の急勾配を誇るトロッコやロープウェーでの空中散歩などが売りだが、ポイントは果たして子連れでど
こまで楽しめるのかだ。


 結論から言えば、仮にバギーで訪れたとしても全ての施設を十分に楽しめることが分かった。施設の麓(ふもと)に広がる深緑のブッシュ・ウォーク・コースを、僕たちは「カイト→歩き、アリサ→抱っこひも」という布陣で臨んだが、道は板敷きの遊歩道、道中はずっと柵があるので大人も子どももストレスなく楽しく散策できた。また、ロープウェーを使って谷底まで向かえば、バギーを押しながら遊歩道を楽しむことも可能であることも分かった。


 目玉のトロッコも、子どもを抱いて乗り込むことができ、復路もトロッコで戻れるので、バギー
による移動制限の心配はいらない。小さな子連れでも十分に楽しめることが分かった一方で、「シーニック・ワールド」には、ロープウェイの屋根の上に乗って空中散歩するというとんでもないアトラクション「BEYOND SKYWAY(リンク先はYou Tube)」なるものがあることも判明。高所が苦手な僕としてはその絵面を見ただけでぞっとしたが、興味のある人はトライしてみてはいかがだろう。






 赤ん坊2人を含む、ちびっこだらけのブルー・マウンテンズ旅行を実現できたのはひとえにエリーの存在が大きかった。産婦人科医でナースとして勤務していた経歴を持つ彼女は、知識も豊富で赤ん坊の世話は手慣れたもの。オムツ替え、ミルク・タイム、あらゆるシーンで「私やりますよー」と手を差し伸べてくれた。エリー、ありがとう。

 なお、滞在中、僕自身が散々な思いをすることになる「カトゥーンバ・トイレ・トラブル」なる事件
も勃発したのだが、これは書き始めると長くなりそうなので次回に先送りしよう。

ハンターで出合った「Piggs Peake」

 最後に前回コラムの際に予告したハンター・バレーのすてきなワイナリーを紹介したい。出合いのきっかけは滞在したアコモデーションの冷蔵庫にウェルカム・ギフトとして入っていたセミヨン(ハンターを代表する品種の1つ)のボトル。ただ、ハンター・バレー産にも関わらず、名前を聞い
たことがなく、デザインも見た記憶がなく、非常に気になった。そこで翌朝、ファームのオーナー
に詳細を尋ねると、なんと彼ら自身が作ったワインだというのだ。


 セミヨンで高いポテンシャルを感じた僕は、早速彼らが経営する「Piggs Peake(Web :piggspeake.c om)」ワイナリーを訪問し、客足の少ない時間帯、ゆっくりと13 種のワインを試飲。どれもすばらしい品質だったが、中でも「2022 silk purse vedelho」(ヴェルデーリョもハンターでは密かに人気品種、$29)、「2021 rosed pork cabernet」(ロゼ、$29)の2本は、これまで同地で飲んできたどのワインよりも自分好み。品種ならではの特徴と、斬新な味わいの絶妙なバランス。「遂に見つけた」と思った。

 たまたま訪れたファーム・ステイ、そこのオーナーが作ったワイン。偶然の出合いがこのワイナリーに僕を導いてくれた。「Piggs Peake」、僕のいち推しのワイナリーだ。ぜひ次回、訪れてみて欲しい。

壁に掛けられた黒板に同ワイナリーのワインの産地が手書きで書かれていた

馬場一哉(BBK)

雑誌編集、ウェブ編集などの経歴を経て2011年来豪。14年1月から「Nichigo Press」編集長に。21年9月、同メディア・新運営会社「Nichigo Press Media Group」代表取締役社長に就任。バスケ、スキー、サーフィン、筋子を愛し、常にネタ探しに奔走する根っからの編集記者(だったが、現在は会社経営に追われている)。趣味ダイエット、特技リバウンド。料理、読書、晩酌好きのじじい気質。二児の父

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