詐欺は決してあらかじめ予想できるものではない。「裏切られた」というショックから、冷静な判断ができなくなってしまったり、慌ててしまうこともあるだろう。また、海外だからこそ日本にいる時のように自分の力では解決の糸口を見つけにくいことも多い。今、オーストラリアでどのような詐欺が起きているのかを事前に知ることが防犯の第一歩。ここでは読者が実際に体験した詐欺被害の実態をそれに対する専門家のアドバイスを共に細かく紹介していく。
こんな時どうする!? 読者の身近な詐欺被害体験談
(アドバイス=クイーンズランド州警察ゴールドコースト地区異文化担当ユニット)
体験談①【カード詐欺】 被害者/10代男性
ワーキング・ホリデーでシドニーに来てすぐ、銀行口座を開設しました。通常のクレジット・カードとは別に後日サブのカードが家に届くことになっていたので、毎日郵便受けを確認していたのですが、なかなか届かず、銀行に確認しに行ったところ、既に自宅に届いていることになっていると言われました。後日、携帯電話のアプリからカードが不正利用されていることが分かり、夜中だったのでカード会社に電話をしてとりあえずカードの機能を停止しました。カードが使われていた場所が家の近所だったため、そこの監視カメラを見せてもらおうとしたところ、「警察と一緒でないと見せることはできない」と言われてしまいました。警察でその旨を説明したのですが被害届を書いてそれで終わりました。銀行で手続きをし、お金は返ってきたものの、ポストをシェアしているシェアハウスのメンバーに対し疑心暗鬼になってしまったので、監視カメラを確認できていたらこんな気持ちにはならなかったのに・・・・・・と言う気持ちと日本の警察ならもっと親身に対応してくれたのではないかという気持ちがいつまでも胸に残っています。良い教訓にはなりましたが、どう対応していたら監視カメラを確認させてもらえていたのかが気になります。
アドバイス
自宅に届いているはずなのにクレジット・カードを受け取っていない場合には直ぐにカード会社に報告して止めてもらいましょう。その後、「131-444(PoliceLink)」という緊急時以外の24時間対応の警察用電話番号に連絡してください。その後、受付番号がメールに送られてきます。警察官は各自常時6個から10個程度の事件を抱えています。更にプライオリティー(優先順位の高い事案)が発生した場合は、そちらが優先になります。命に関わらないもの、保険でカバーできるものは、残念ながら優先順位が低くなってしまいます。 監視カメラに関してですが、市が設置している物か、道路管理会社、個人や商店、アパートの管理団体かによっても対応が違ってきます。どの場合も、原則一般の個人には監視カメラの内容を見せることはありません。警察は被害届を受け付けたその場で見に行くことはありません。捜査を指示された警察官が後からチェックに行くことになります。その内容が必要不可欠でない限り、捜査官の判断で確認する場合もあるかもしれませんが、被害者に開示することは原則ありません。
体験談②【ロマンス詐欺】 被害者/20代女性
1人でカフェで英語の勉強をしていたら、オーストラリア人と思われる男性に「私はチャイルドケアのボランティアや留学生のサポートをしている。仕事や学校を紹介できる」と英語で優しく声を掛けられました。ちょうど英語を話す友人が欲しかったので、何度かお茶をし、親しくなりました。2カ月ほど経ったころ、「ひったくり被害にあって手持ちのお金がなくなった。1週間で返すから200ドルほど生活費を貸して欲しい」と言われ、彼を助けたいと言う気持ちがあったので、お金を貸しました。その後、数日間は連絡が取れていたので安心していましたが、突然連絡が取れなくなりました。連絡が取れなくなってからもう1週間が経ちます。警察に届けるべきでしょうか?
アドバイス
この件は民事とのグレーなラインになります。警察に届けても民事として扱われ、捜査対象にならない場合も考えられます。これを詐欺と認定するには、同様の事案が同じ人物像で発生しているかどうかが重要になります。もしも、同じ名前や同様の手口の届け出があった場合は、警察のシステムからチェックされる場合もあります。 従って、民事と認定される可能性もあると理解した上で、とりあえず警察の窓口に行ってレポートしてください。 更に、重要なことは、オーストラリアは契約社会ということです。200ドルを貸した時点で、「いつ、どのように返すか」をメモのようなものでも良いので契約を交わしているかどうかが重要なカギになります。相手の名前、連絡先、条件、いくら貸したか、いつ返すか、どのように返すか、そしてサインと日付を書いてもらうようにしましょう。
体験談③【住宅詐欺】 被害者/20代女性
日系のクラシファイド・サイトで、入居したい部屋があったので、オーナーに連絡をしたところ、「あなたはラッキーだ」と言われました。話を聞くと、オーナーは今仕事で海外に出張中で、その間自分の代わりに家全体を管理するオーナーになって欲しい、ということでした。ボンドの他に、ひと部屋分のレントを支払えば、他の空室を人に貸してお金を稼いだり、家族で住んだり自由にして良いと聞き、ボンドの1,000ドルを指定された銀行口座に振り込みました。明細を送ったところ、鍵の郵送費まで請求されたため、怪しいと思い、先に鍵を送るよう要求したら送ってくれず、ボンドの1,000ドルも返金されないまま連絡が取れなくなってしまいました。精巧に作られた契約書などを見て信じてしまったことに後悔しております。どうしていたら事前に防げていたのか、事後にできた最善の策とは何だったのか、いまだに思い出して悲しい気持ちになります。
アドバイス
こちらも詐欺になります。警察にレポートしてください。その上で、各州のレント物件を管理する団体、NSW州では「Fair Trading NSW」、QLD州では「Residental Tenancies Authority」、VIC州では「Consumer Affairs Victoria」にご相談ください。 この手のオーナーが直接管理をするという物件は危険が伴います。できるだけ大手の不動産会社を使用されることをお勧めします。うまい話は転がっていないというのが現実です。「すごくラッキーだな」と感じたら辞めておくと無難です。皆さんの中には当地の法律や慣習というものに疎い人もいらっしゃると思います。オーストラリアは全てが契約だと考えておくと良いでしょう。従って法律や慣習に疎いと損をする場合もあります。言われたことは契約書の中に全て書かれていることが肝要です。契約書はお互いに保管していなければいけません。契約書がない場合、契約書を入金後に送ると言われても決して入金などしないようにしてください。契約書をもらって内容を確認してから入金しましょう。 この場合も、入居に当たっては部屋の中の傷や壊れている物を写真に撮って保存し、契約書にどこに傷があり、何が壊れているかをきちんと記入しておくことが重要です。
体験談④【日本語を教えてください詐欺】 被害者/20代女性
アルバイト先でオーストラリア人の常連のお客さんに「日本語を教えてください」と頼まれました。時給を支払うのできちんとレッスンして欲しいと言われ、当日はテキストやノートを準備して待ち合わせ場所に向かいました。会ってあいさつをしてから雑談ばかりだったので、授業を始めようと言ったら、今日は初回だから授業はしなくて良いと言われてしまい、ご飯をご馳走になっただけで、授業をしてないので時給は発生せずに終わりました。次は必ず授業をすると言うので、準備万全で向かったら、先にお金を支払われ、授業を始めようとテキストを取り出したら、性的な話をされ、ホテルへ連れ込まれそうになりました。逃げられたから良かったものの、もし最悪の事態になっていた場合、どのように対応したら良かったのでしょうか。
アドバイス
残念ながら、日本の女性をターゲットにした事案はよく聞きます。このような場合は、公共の場所(図書館やカフェなど)を利用しましょう。個室などは避けるようにするのが良いです。万が一、周りがうるさいなどと理由を付けて2人きりになりそうな場合は、やめておきましょう。 もし、ホテルや自室などに強制的に連れ込まれそうになった場合は、直ぐに「000」に電話してください。その際、住所などがとっさに分からない場合のために、携帯電話に「Emergency+」というアプリをダウンロードしておくことをお勧めします。また、携帯電話の録音やビデオなどの機能を活用して証拠を残すような努力をしてみてください。 残念ながら、最悪の事態になった場合には、直ぐに病院に行って医者に相談し、診断書をもらってください。その上で、警察にレイプとして届け出てください。警察署には必ず女性の警察官がいます。また通訳もTIS(Translation and Interpreter service)というものを無料で手配してくれます。
体験談⑤【住宅詐欺】 被害者/30代女性
部屋を探していたので、空室を持つオーナーと連絡を取りインスペクションの約束をしました。インスペクションを済ませ、入居日が決まったのでオーナーが「当日いつでも自由に入居できるように」と家の鍵を渡してくれました。鍵をもらったことで安心してボンドを振り込んでしまったら、後日連絡が取れなくなり、実際に家に行き鍵を開けようとしても、渡されていた鍵は使えず、ボンドとして支払ったお金は返ってこないままです。
アドバイス
これは完全に詐欺です。警察にまずレポートをしてください。その上で、各州のレント物件を管理する団体、NSW州では「Fair Trading NSW」、QLD州では「Residental Tenancies Authority」、VIC州では「Consumer Affairs Victoria」にご相談ください。 防ぐ方法は、契約書をしっかりと確認する、鍵をもらったら1つ1つどこの鍵かをその場でチェックする。ボンドはオーナーの口座ではなく、それぞれのオーソリティーの口座に供託されるものですので、ちゃんとレシートをもらうこと。後で不当な料金を請求されないよう、入居に当たっては部屋の中の傷や壊れているものを写真に撮って保存しておくこと。また、契約書にどこに傷があり、何が壊れているかをきちんと記入しておくことも忘れずに。
体験談⑥【仕事詐欺】 被害者/20代男性
先日、日系クラシファイド・サイトの「求人」に掲載されていた連絡先に連絡したところ、紹介料として100ドルを請求されたのでお金を支払いました。その後、雇用先のマネージャーの連絡先を教えてもらいましたが、そこに連絡すると、更に「仕事を紹介するので、紹介料の前金として240ドルを支払え」と言われました。さすがにおかしいと思い、最初に連絡した担当者に連絡したところ、「紹介先でもお金を取るとは聞いていない」と言われました。そこで紹介料を返金するよう迫りましたが、「90ドルは連絡先を教えたことに対する紹介料なので返せない」として10ドルだけ返金を受けました。クラシファイドには、「紹介料は取るが、仕事が見つからなかった場合は紹介料は全額返金する」とあるので、全額紹介料を支払って、様子を見たほうがよかったのでしょうか。
アドバイス
日系クラシファイドに掲載の企業であっても優良企業とは限りません。もしも個人の口座にお金を払ったり入金するなどの指示があった場合は詐欺を疑ってください。入金する前に相手の名前、会社名、住所、連絡先、条件などできる限りの情報を入手して「Department of Employment Skills Small and Family Business」(1800-805-260)に電話をして確認しましょう。 通常、「Employment Agency」というのは連邦政府の各種プログラムの補助金を得て運営しています。その場合、紹介料という形での個人への請求はない場合が多く見られます。