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「nab」 を「国民」と呼ぶ在豪日本人─オーストラリア弁(新方言)を探せ 第7回

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 あまり多くはないが、ごくまれにたいへん面白いオーストラリア在住者の新語に出合うことがある。ゴールドコーストで行った調査では、「国民」という言葉が登場した。

 何のことか分かるだろうか。

 答えは「ナショナル・オーストラリア銀行」のこと。

 「national」という英語を「国民」と日本語に直訳し、更に省略して使用しているのである。英語の知識が広まっている現代では、英語を日本語に取り入れる時には、発音だけを日本語に変換してカタカナ語として取り入れることが多い。「ナショナル」も、「オーストラリア」も、どちらも日本語でもかなり浸透している言葉なので、そのままカタカナ語として取り入れれば良いようなものだが、やはりそのままだと言葉として長い。そこで短縮する方法として、「国民」という新語が生まれたのだろう。

 言葉の短縮に翻訳と言うひとひねりを入れることで意外性があり、若者ウケしそうなユーモラスさがにじみ出ているのも面白い。

 こういった直訳のような、元の言葉をなぞった翻訳から新語になった言葉は、翻訳借用またはカルク(calque)と呼ばれる。「airport」から生まれた「空港」や、フランス語の「marché aux puces」から生まれた英語の「flea market」と日本語の「蚤の市」も、こういったカルクの例だ。最近では、フェイスブックを「顔本」と表現するネット・スラングを見掛けることも多い。

 生活で頻繁に使用される言葉、特に固有名詞には、略語やニックネームが生まれやすい。銀行名という、オーストラリアの生活で頻繁に使用される固有名詞から新語が生まれるのも自然の成り行きだろう。

 ただ、面白いのは、オーストラリア人には「National Australia Bank」の頭文字を略して「nab(ナブ)」という言葉が普及しているのに、それをただ右から左へ借用していないところ。「ナブ」の方が短く簡単な言葉なのに、日本語でわざわざ「国民」という言葉を生み出し、使用しているのだ。フェイスブックという言葉を略す時、ただ単に英語圏を真似て短く便利な「FB」という言葉を使うのではなく、「顔本」という言葉を利用している人びとが存在するのとよく似ている。

 こういった面白い新語に出合う瞬間が、たまらない。他にも、豪州在住者に使用されている何か面白い言葉をご存知の方は、ぜひ教えてくださいませ。

プロフィル

ランス陽子

フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「ゴールドコースト弁を探せ!プロジェクト」
(Web:www.facebook.com/ゴールドコースト弁を探せプロジェクト

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