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帰国子女は大学受験有利!? 日本帰国後の進学はどうなる─オーストラリア子育て中 “保護者座談会”

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 近年、9月入学の大学が増えるなど、帰国子女や留学生が増加傾向にある日本。「帰国子女」という枠組みでの進学において、日本に“行く”家庭と、日本に“戻る”家庭では話が異なるという。海外生指導実績35年の学習塾「京進」がオーストラリアで授業提供を始めることを機に、日豪プレスとタッグを組み、シドニーで子育てをする4人の保護者と座談会を開催。海外にいながら、どのように子どもたちの日本語力を伸ばしていけば良いのか、帰国子女として日本に戻る際の受験などについて、ざっくばらんに語って頂いた。

古川泰史さん

京進・第一運営本部・海外ブロック長。小学1年から高校3年までの帰国子女・在外子女を18年にわたり指導。京進は、アメリカ・ハリソンと中国・広州、ドイツ・デュッセルドルフ、ミュンヘンに教室を展開し、1988年から海外在住の子どもたちのクラス指導・個別指導を行っている。2022年にオーストラリアに進出、オンラインでの授業をスタートさせる

Rさん

約16年シドニーに在住。小学生のころに両親が南米に駐在していたため、自身が帰国子女。中学・高校は日本で過ごし、帰国子女枠で大学受験をして進学。就職後、仕事の都合で来豪しオーストラリア人と結婚して子どもは2人。長女・小学4年(Year 4)、次女・小学2年(Year 2)。自身が日本人学校に通っていた経験もあり、子どもたちはシドニーの日本人学校に通学中。家庭内の言語は日本語と英語

Fさん

日本人のパートナーの仕事の都合で、2019年からシドニーに駐在。長女・中学2年(Year 8)はシドニーのローカル校に通学中。小学校5年のタイミングでシドニーに移り、小学校はシドニーの日本人学校に通っていたが、もう少し英語力を伸ばしたいという本人の希望により、中学に上がるタイミングでローカル校に進学。インテシティブ・イングリッシュ・センター(IEC:英語が第二言語の子どもたちがローカル校に通う前の準備校)に3ターム通い、そこからローカル校に転入。高校受験のタイミングで日本に帰国予定のため、現地校での勉強に加え、日本での受験に備え帰国者向けの進学塾に通っている

Tさん

1年前に駐在員として、日本人のパートナーと長女・小学4年(Year 4)、長男・小学2年(Year 2)と共に来豪。任期が3年の予定のため、長女が小学6年になるタイミングで帰国することを考慮し、子どもたちをシドニー日本人国際学校に通わせている。限られた期間での海外生活で、子どもたちに英語に触れる時間をできるだけ多く取らせたいという思いがあり、日本のテレビ番組などではなく、ローカル番組などを見せるように心掛けている

Mさん

約18年シドニーに在住。子ども3人をオーストラリアで出産。長男・中学2年(Year 8)、長女・小学5年(Year 5)、次男・小学3年(Year 3)、パートナーは日本人。子どもたちはローカル校に通い、家庭内においても英語が主流。親は日本語で話すが、英語での返答が多い。日本での大学進学など、将来的に日本語を活用する可能性も考慮して、週1で日本語土曜校に通わせて、読み書きを学習中

日本の習慣・文化、常識を知らずに育つ不安、日本語力向上について

古川さん:Tさんは子どもたちが日本の常識を知らずに育ってしまうことで帰国後に困らないか心配されているそうですね。

Tさん:ええ、限られた貴重な海外生活ということもあり、できるだけ英語に触れさせたいという思いから、普段の生活の中ではあまり日本のニュースやテレビを見せないようにしているのですが、一方でそのような不安もついて回ります。日本にいればニュースなどで自然と耳にする社会や政治などについても、子どもたちは学校でしか情報を得られません。また、地理や天体などの科目において、日本と海外での生活環境の違いから生じる「答えの違い」も気になります。教科書に載っている情報を元にする勉強と現実をリンクさせられない単元もありますよね。なるべく分かりやすく説明するなど、親なりにフォローはしますが、海外にいることで生まれる日本の常識とのギャップなど、子どもたちにとっての学びの難しさを感じることがあります。

古川さん:生活環境が違うため、特に天体・植物・生物・政治・日本地理においては、海外にいる子どもたちにとって日本の常識を自然に頭に入れるのは難しいことです。しかし、日本にいる子どもたちが、単語として聞いている世界地理や人名を、海外在住経験のある子どもはリアルに感じられるというメリットがあり、海外在住の良さも理解してください。もし可能であれば、漢字検定などに加えて子どもたちが興味を持ちやすい世界遺産検定を受験させて欲しいです。世界を感じさせて、日本に戻してあげるという意識を持つと良いかと思います(※世界遺産検定が海外で受験できるという意味ではありません)。

政治や地理といった社会に関しては、小学5年で帰国し4教科受験(算数・国語・理科・社会)をするのであれば、学習量が多く、子どもに負担が掛かります。解決方法は大きく2つ。日本に帰国するまでは社会の学習に負担を掛けないということ。例えば算数・国語(+英語)といった、帰国子女に配慮のある学校を受験する、または帰任時期を先に延ばす。中学1年の夏に日本に戻るように調整し、英語・数学・国語で編入試験を行う学校を探す帰国生もいらっしゃいます。編入試験をする学校は限られますが、いずれも帰国してから学習するという選択です。2つ目は、日本での理科・社会の入試用学習を早めに取り入れるかです。しかし、1年間で理科・社会の学習を網羅するのはなかなか難しく、2年以上が必要だというのが正直なところです。

Tさん:受験勉強にパワーを割くと、オーストラリアの自然あふれる環境で過ごす時間が減ってしまうことが悩ましいと感じています。先程の古川さんの「世界を感じさせてあげる」というアドバイスに、なるほどと思いました。海外生活を送ることでしか得られない価値観などを将来に生かせるよう、子どもたちを導いてあげるのが正しいのではないかという考えが頭の中をめぐっています。

帰国子女にとって海外経験を生かせる大学受験

古川さん:日本の大学の帰国子女受験についてお話ししますと、中学・高校・大学受験の中で帰国子女の受験負担が少ないと言えるのは、大学受験です。お子様が小学生の今、将来を決めるのではなく、もう少し先送りできるのであれば、海外での生活を充実させてあげた方が良いかと思います。

日本の大学の帰国子女受験(私学)は、学校の成績・各種資格試験結果・提出書類の内容に加えて英語、小論文と面接が多くなります。きちんと現地での学習をすることが最優先で、現地での充実した生活が大学入試につながります。それに日本語が書けて、面接でしっかり結果を出せれば合格の可能性が高まると言えるでしょう。加えて日本語の小論文の練習には2年ほど掛けてください。

私は、国際バカロレア(International Baccalaureate/IB:スイスのジュネーブに本部を置く国際バカロレア機構が提供する国際的基準の教育プログラム)のジャパニーズの指導を8年半してきました。小論文についての指導や助言をたくさん行ってきましたが、同じ家庭環境で育った兄弟姉妹での日本語能力の違いを感じることが多くあります。子どもたちそれぞれが日本語にどのように関わっていきたいのか、きちんと聞いてあげることが大切です。子どもたちの日本語力と、将来どこに拠点を置くか、また就職先などの方向性は在外子女それぞれです。

皆さんのご家庭では、日本語とどう関わっていくでしょうか。小学5年くらいから大きく日本語の力が変化します。一般的に女の子の方が精神的な成長が早いこともあり、日本語の表現力が英語と変わらない場合もあります。しかし男の子の中には、日本語が苦手なのか精神的に成長していないから日本語ができない(ように見える)のか親からは区別がしづらいです。日本語をどこまで理解し表現できることを求めるのかしっかり考慮して、日本語の成長プランは長期的にお考えください。ただ母語が第二言語を上回ることはないので、バイリンガルに育てたいのであれば、とにかく現地では英語を伸ばして日本語をどこまで頑張れるかがポイントとなります。

なぜ、海外にいて日本語ができなくなるかというと、日本特有のノンバーバル・コミュニケーションと言われる、人の表情や声の調子、その場の雰囲気などが読めず、日本語の言語自体は理解できているけれど、非言語のコミュニケーションに慣れていないことで戸惑いが生じることも原因の1つです。読み書きに加え、いろいろな日本語を聞いて話す機会を増やすようにしましょう。

Rさん:京進のような海外在住の子どもたちの日本語をサポートする塾では、日本特有のノンバーバル・コミュニケーションについて指導してもらうことは可能ですか。

古川さん:指導者が帰国生を理解しているかどうかが重要で、子どもが納得できる説明ができるかという点がポイントになります。親はもちろん、子どもが信頼できる帰国子女の専門家をそばに付けてあげると可能だと思いますが、そういった出会いやご縁がなければ、難しいかもしれません。我々は授業講師だけでなく、帰国子女指導経験の豊富なスタッフがフォローすることで、日本語力養成の手助けはできると思います。

日本では、それぞれの子どもたちの在外歴、学習歴、未来展望が違うため、帰国子女の学びは一般化できていないのが現状です。ですから、親がどうしたいかという子どもへの希望や自身の経験などを含め、日本語への取り組み方など、子どもの未来展望を一緒に考え、話し合うことが重要です。そして、子どもたちが日本に戻って、言語における進捗状況などを相談できる人、帰国子女の立場を理解できる人がそばにいることが必須となります。

Fさん:現在、長女が中学2年でローカル校に通っているのですが、日本での高校受験を考えています。日本の中学で学習する理科・社会の知識がないまま日本の高校に進学した場合、他の学生との学力の差が出てきてしまうと思うのですが、高校に入ってから取り戻せるものなのでしょうか。

古川さん:学校によりますね。帰国子女を主体に受け入れている学校では、理科・社会の科目を教える際、高校でも振り仮名が打たれた板書やプリントなど、理科・社会の授業が初めてだという前提で配慮している学校や補習を考えてくれる学校もあります。しかし、付属の小学校・中学校から持ち上がりのある学校の場合、授業についていくのがしんどいケースもあります。お子様の性格にもよりますが、学校選びが重要なポイントになりますね。

子どもが興味を持っていることを継続させて日本語に取り組む

Mさん:海外で子育てをする中で、子どもたちの日本語力を伸ばすためにはどうしたら良いでしょうか。

古川さん:続けるしかありませんね。小学生が月の20日程度読書を続ければ多くの新出単語に触れることができます。読書をしない同級生とは、1年では目に見えるほどの語彙力の差が出ます。読書を例に出しましたが、本人が「続けられること」を探してください。漢字練習といった反復練習中心の学習では、単なる作業となり身につかない可能性もあります。日本語保持・伸長に苦労しているご家庭は、能動的な学びも取り入れましょう。

帰国子女の学生を受け入れる学校側としては、子どもたちの海外生活での「経験」に注目しています。近年、日本の学校は探究学習を取り入れることに注力しており、子どもたち自身が問いを決め、その答えを調べることが求められています。子どもたちが興味を持って実践しやすいことに日本語を取り入れていくと良いでしょう。

例えば、日本語の学びをレゴ制作と結びつけた家庭がありました。「YouTube投稿を日本語で」という目的と大好きなレゴを結びつけることで、継続した日本語学習につながりました。一般的な国語学習以外にも、その子にあった学びを見つけてください。もし継続した読書が難しいのであれば、子どもが興味を持っている音楽や技術などを組み合わせ、好きなこととして日本語で何が続けられるかを考えるのも考えるのも1つの方法です。

また、たくさんの大人と話す機会を与えてあげるのも良いでしょう。子ども同士の会話においては話題が限られてしまいます。子どもは新しいことに興味を持つため、さまざまな場所でいろいろな大人と話をすることで話題が広がります。多くの種類の日本語に触れることができるはずです。

親御さんがお子様の現状をよく見て、

・日本人に限らず、いろいろな大人と会話する機会を与える
・できればICTと言われる近年の技術やテクノロジーを取り入れながら、好きなことを継続させて、それに日本語を付け加える
・相談できる帰国子女の専門家を見つける

以上、3つのことを意識すると良いと思います。

――本日は、ありがとうございました。

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