笑う努力
以前、「和わがんせ顔施」という言葉についてお話ししたことがあります。「無財の七施」の1つで、手元に何1つ役立たせる財貨などがなくても、ただニッコリと微笑むだけで、周囲の人びとを明るく、楽しくさせることができるということです。
先日、アメリカのドラマを見ている時に改めてそのことを思い出しました。それまで少し暗い内容の笑えない作品を見ていたのですが、何だかとても疲れてしまい、たまたま見つけたコメディー作品を見ることにしたのです。するとたちまち、まだ大してストーリーが展開しない内にすっかり楽しい気分に変わっていました。どちらかというとまだ不幸な出来事しか起きていないような出だしです。では一体何が見ている私を楽しい気分にさせることができたのか。それは紛れもない主人公の笑顔でした。
場面ごとにくるくると変わるその俳優の表情はすばらしく、中でも笑顔が飛び抜けてチャーミングだったのです。笑顔にもいろいろあってその時どきで全く違う演技をするのですが、どれも視聴者が思わずつられて微笑んでしまうような幸せを運ぶ笑顔です。またその友人も朗らかで、いつも満面の笑みで主人公を支えます。「和顔施」とはこういうことなのですね。
目の前の人の笑顔はもちろん、舞台や映画、ドラマ、動画や写真であっても、笑顔にはすばらしい効力があるのです。離れている相手でも、電話の向こうで笑って話してくれたなら、その声の明るさに笑顔を連想し、こちらも笑顔になることもよくあるのではないでしょうか。
ただニッコリと微笑むだけで少しでもその場が和むなら、誰かの気持ちが楽になるなら、それが何より大切なことです。内なるものが整ってくると、自然と姿・形も整ってくるものですが、内が整わないような時でも姿・形を良くする努力をしていると、内側も自ずと整ってきます。絶えず微笑む努力をすることによって、心も自然と温かくなってくるのです。
楽しい時は簡単ですが、苦しい時、辛い時に微笑むことはなかなか容易なことではありません。しかし、楽しいこともなく、うれしいこともないという時でも、目尻を下げ口角を上げて笑う努力をすると、なぜか楽になってくるから不思議です。目尻や口角にはきっと楽しくなるキーのようなものがあるのでしょう。
楽しいから笑うのも良いですが、笑うから楽しくなるというのも良いですね。笑いたくなくても笑う努力をすることが誰かの役に立つ、このような考え方や感じ方は、多くの救いをもたらすことでしょう。
このコラムの著者
教育専門家 福島 摂子
教育相談及び、海外帰国子女指導を主に手掛ける。1992年に来豪。社会に奉仕する創造的な人間を育てることを使命とした私塾『福島塾』を開き、シドニーを中心に指導を行う。2005年より拠点を日本へ移し、広く国内外の教育指導を行い、オーストラリア在住者への情報提供やカウンセリング指導も継続中