子どもを「日本と世界をつなぐ架け橋」に──シドニー日本人国際学校に聞く
外務省が公表した海外在留邦人調査統計(2022年版)によると、2021年10月1日時点で海外に住む日本人(在留期間3カ月以上の長期滞在者と永住者)の数は134万4900人で、コロナ禍下にあった直近2年は減少しているものの2019年には過去最多の141万356人を記録している。グローバル化が進む現代において、海外駐在などを理由に家族で海外に引っ越すことになるケースも増えていることだろう。そんな家庭にとって移住先での子育ての在り方は大きな問題だ。もし海外で子どもを育てることになったらどのような教育機関を選ぶべきだろうか。その問いに答える選択肢の1つとして、オーストラリアにあるシドニー日本人国際学校の角田真一郎(すみだしんいちろう)校長、およびサイモン・バン・ディンター・国際学級ヘッドに、日豪プレスでインターンシップを行っている大学生2人が話を伺った。
取材・文:藤村郁巳、小山希(東京経済大学2年)
シドニー日本人国際学校とは
シドニー日本人国際学校(Sydney Japanese International School) は、同校が位置するニュー・サウス・ウェールズ州が定める教育カリキュラムに則って授業を行う「国際学級」と 日本の文部科学省が定めるカリキュラムに則って授業を行う「日本人学級」を併設した世界でも珍しいインターナショナル・スクールだ(同校のように国際学級が併設されている日本人学校は他にメキシコ、香港と2校)。
「学校の中を見ていただくと分かるように、国際学級と日本人学級は隣り合わせになっています。そのため、子どものうちから自然に異文化に触れる環境ができ上がっているというのがこの学校の大きな特徴です」
そう語る角田校長は、鹿児島県での教員経験と、ベネズエラのカラカス日本人学校での3年間の教員経験などを経た後、シドニー日本人国際学校に昨年、赴任してきた。日本語と英語の飛び交う国際的な環境の中で学ぶ子どもたちの姿には「自由な環境の中で、子どもたちがその場の判断で臨機応変に対応できる柔軟性を持っているように感じる」という。
シドニー日本人国際学校によると、たとえ英語が全く話せない状況であっても日本人学級で英語を学びながらオーストラリアでの生活ができるように育っていくことが可能だという。親の転勤などの事情で一時的にオーストラリアでの生活をしている子どもも、日本人学級で学ぶことで帰国後の学業にも支障が出ない仕組みになっている。
同校がなければ現地校への入学という選択肢しかなくなり、算数や理科などのすべての授業を英語で受けることを余儀なくされる。そんな現地校との間のクッションのような役割も担っているのである。「日本国内でも小学校5、6年生で週2時間、年間約70時間英語の学習を行っていますが、本校では日本人学級でも1年生から毎日1時間、年間約150時間、英語の授業があります。まったく話せない生徒でも1年でかなり上達が見られます」と校長は語る。また、国際学級のサイモン氏によると、「英語を全く話せない状態から12カ月でクラストップの成績をたたき出した」生徒もいるそうだ。
人種の違いを意識するのはむしろ大人
子どもは思ったことを正直に話す。そのため、言語や文化、目の色、肌の色の違いなどから発生する問題もあるのではなかろうか。校長に意見を求めると「人種や年齢などを意識し、問題に発展させるのは子どもよりむしろ大人」だという。日本のように単一民族に近い環境下で育ち、大人になってから初めて異文化、あるいは異なる人種の人々と関わると差異を意識しやすくなる傾向がある。しかし、同校の子どもたちは小さい頃から多国籍な環境で暮らしているため「違うことが当たり前」「見かけ、言語、習慣が違う。だからどうしたの?」という感覚を持って育つのだ。事実、多文化・多国籍国家のオーストラリアで育っている同校の子どもたちの間には人種の違いによる衝突や問題はないそうだ。我々が取材で訪れた際も生徒たちは英語と日本語で元気あふれる挨拶をしてくれた。授業中、休み時間も楽しそうに英語でコミュニケーションをとりながら一緒に縄跳び、鬼ごっこ、ボール遊びを楽しんでいる様子が印象的であった。
世界をつなぐ架け橋に
現在の校長の目標は「子ども達自身が、自分の力を発揮できる学校にすること。先生の立場からは、自身の得意な分野を生徒たちにぶつけることのできる学校づくり」だという。日本人学級と国際学級、2つの違う教育課程で行われている教育環境下、「教員、子どもたちを1つにし、子どもたちが将来ここで学んだことを生かして他の国との架け橋になる人材に育てることが夢であり、責任」と校長は続けた。
若い世代へのメッセージ
「若い人たちにはとにかく挑戦してほしいですね。失敗したらどうしようとか、できるわけないと言われるかもなどは考える必要はありません。何だってできるし、何にだってなれると思います。やってみてダメだったらもう一度やり直せば良いだけで、とにかく挑戦してほしいと思います。私自身、かつては夢を言ったら笑われるかなとか、できもしないと思って自分からなかなか一歩を踏み出せなかったのでよく分かります。若い人には踏み出していってほしいですね」(角田校長)
「時には集中して学ぶことも必要だが、リラックスした状態で様々なことに取り組むことも大切である。」(サイモン・国際学級ヘッド)
取材を終えて
今回の取材ではグローバル化が進む社会における国際学校の在り方や、将来日本と世界をつなぐ架け橋となる人材を目の当たりにすることができた。「グローバル化」とひと言で言ってもそれに付随するさまざまな問題にも取り組む必要性を感じた。今回は「教育」というテーマでシドニー日本人国際学校を取材したが、ほかのテーマでもグローバル化に伴う問題はまだ残っている。この記事がそのような問題を考えるきっかけになれば幸いだ。
■シドニー日本人国際学校
Web: https://sjis.nsw.edu.au/ja/