日本にいる友人と会話する時、なかなか気が抜けない。文字だけでのやりとりならまだ良いのだが、音声でのチャットやミーティング、電話となるとかなり危ない。とっさにぱっと日本語が思い浮かばないことが多いからだ。先日も「背骨」と言いたかったのだが、ついうっかり「スパイン」と言ってしまって友人たちに笑われた。
豪州に住む日本人同士の会話では、やはり無意識のうちに英語と日本語が混ざった状態になることが多い。
この時、日本語の通じる相手であっても、その相手が日本語を母国語としていない人の場合は、日本語と英語の文章をまるごとそのまま混ぜて使うことも多い。例えば「昨日ラーメンを食べようと思ったんだけど。The restaurant in Southport is closed on Monday! だから食べられなかった」というような感じである。
こういった行動は「コードスイッチング」と呼ばれる。コードスイッチングを利用する理由については、ドラマティックな効果、ユーモア感を出す効果、強調する効果を狙うなど、さまざまな例が研究されている。
ところがこれが日本人同志の場合だと、英語を文章として取り入れることは少なく、日本語の文章を土台にして、英語の単語、つまり「借用語」を織り交ぜて会話することが多くなる。そして、その英語の取り入れ方も、ただ取り入れれば良いというものでもなく、さまざまな傾向や、ある程度のルールがあるのが面白い。
日本語は古来より、漢語を始めとして多くの借用語を取り入れてきた。ビジネスや政治の世界では、カタカナ語を多用することで、難しい言葉を使う頭の良い人というイメージ効果を狙っているケースも多い。だが一方で、何でもかんでも英語をカタカナにして日本語に織り交ぜることは、外国かぶれの恥ずかしいことだともされている。そんな日本社会を見事に揶揄したのが、ルー大柴だ。
ゴールドコーストで調査してみると、「オーストラリアに在住している日本人同士の会話に英語が混ざってしまうのは、好ましい、好ましくないにかかわらず、仕方ないと思いますか?」という質問には90%以上の在豪日本人が「仕方ないと思う」と答えた。
その理由で最も多かったのは「無意識に日本語よりも英語の単語の方が先に口をついてしまうから」が80.6%。次は「日本語よりも英語の方が日常的に使う場面が多いから」で71%。「どうしても英語の単語を使わないと表現できない言葉があるから」は58.1%だった。
「海外経験のない日本にいる日本人とも同じように英語を混ぜて会話しますか?」という質問には、なんと87.14%の在豪日本人が「しないようにしているが、無意識にしてしまうこともある」と答えた。
恥ずかしいことだとは理解しつつも、英語圏で暮らす在豪日本人がついルー大柴が揶揄するような会話をしてしまうのは、ぜひ何とか、大目に見て頂きたいものである。
プロフィル
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「オーストラリア弁を探せ!プロジェクト」
(Web:www.facebook.com/JapaneseVariationInAUS)