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「オーストラリアの日本酒市場のポテンシャルは高い」─世界で頂点に立った酒蔵「ほまれ酒造」唐橋裕幸社長インタビュー

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 在シドニー日本国総領事公邸で飲食関係者やメディア、インフルエンサーを対象に3月に開催された「酒セミナー」。飲食関係者、メディア、インフルエンサーら40人以上が参加した同セミナーで登壇したのは「ほまれ酒造」(福島県喜多方市)の唐橋裕幸社長だ。

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 ほまれ酒造は、創業105年目を迎える蔵元で現在世界19カ国に日本酒を輸出。2015年にはロンドンで開催された「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」日本酒部門で最優秀賞を受賞、300の蔵元、876銘柄の頂点に立った。今回は日本の伝統や文化などを海外に発信する外務省のプログラムに選ばれる形で来豪した。

 世界的な評価を受けているのは日本酒だけではない。唐橋社長自身、米国留学の経験もあり、講演やインタビューも流暢な英語で行う国際人だ。世界の日本酒市場を見てきた唐橋社長にとって、オーストラリアの市場はどのように映っているのか。来豪中の唐橋社長にインタビューを行った。

(インタビュー・写真:馬場一哉)

国内ワイン・メーカーからサンフランシスコへ

──今や世界でも知られるようになったほまれ酒造ですが、海外に目を向け始めたのはいつ頃でしょうか。

 「私が会社(編注:ほまれ酒造)に入ったタイミングなので2004年くらいだと思います」

──今でこそ、多くの蔵元が海外に活路を見出そうとプロモーションに力を入れていますが約20年前となるとだいぶ早い動き出しです。ほまれ酒造は唐沢社長の曽祖父が始められたと聞いていますが、ご自身はそれまで商売には関わっておられなかったのですか。

 「ええ、実家が酒蔵とはいえ、世の中に出て広く酒の勉強をしたほうが良いと考え、大学卒業後、大手ワインメーカーに就職し、そこで営業職に付きました。3年半ほど学ばせてもらいましたが、その後アメリカに行くことにしたんです」

──アメリカに向かわれたきっかけは何だったのでしょう。

 「大学生の時に縁あって渡米する機会があったのですが、ロサンゼルスに到着した時に吹き抜ける風や青い空、そして大きさに魅力を感じたのです。それがきっかけで将来再びアメリカに行きたいと考えながら日々仕事に取り組んでいたのですが、社会人になって3年半、夢を叶えるにはちょうど良いタイミングだと思い、渡米を決意しました」

──サンフランシスコに4年ほど留学されていたと聞いています。将来的に、ほまれ酒造の経営者としての活動も想定されていたのですか。

 「ええ、もちろん頭の中にはありました。英語が話せなかったので語学学校からのスタートでしたが、その後MBAを取得し、日本に帰国後、ほまれ酒造に入社したという経歴になります」





──ほまれ酒造は創業後、福島県内ではなく他エリアに目を向けたことで大きくシェア拡大されたのですね。そしていち早く海外へ目を向けた。常に外を見ている印象があります。

 「会津地方はもともと酒蔵が多いんですね。そのため地元の方々との競争はしたくないということで、積極的に関東に市場を広げていきました。そして、そのアプローチが結果として福島県で1番大きい酒蔵への成長につながりました。その後、人口減少などもあり、国内市場の厳しさが増していくことは確実だったため、海外市場に目を向け、まずはアメリカを目指したというのが大きな流れです」

──入社から約7年後、2011年9月に社長になられています。そこから更に大きな舵切りを行った?

 「清酒業界がかなり落ち込んでるという当時の状況、そして酒造組合の会長とや商工会議所の会長となど他の重責も多かった父に代わって私が社長職を引き継ぎました。ただ、やはり大きかったのは2011年の東日本大震災でしたね。何かを大きく変える必要性を皆が感じていたのだと思います。原子力発電所の事故があってから風評被害が始まりました。韓国を始めとしたアジア圏は軒並み厳しくなったため、アメリカへの原点回帰を行い、そこから更なる世界展開を目指しました」

セミナーでは日本酒の製造過程を細かく説明

──2013年には、海外向けの輸出が震災前の水準に戻るなどスピード回復を果たされています。どのような施策を行われたのですか。

 「一般的な日本酒との差別化です。例えば、欧米だとにごり酒が人気なので、そこにフレーバーを付けるなど、個性的な商品をどんどん開発しました」

──現在、世界20カ国ほどに輸出されております。オーストラリア市場にはいつ頃から進出されたのですか。また、この市場のポテンシャルをどのように感じておられます?

 「初進出は7年ほど前になるかと思います。その後、少しずつ右肩上がりという状況が続いています。オセアニアはまだまだ発展途上ですが、売り手の方々の熱意は感じられるので、丁寧にマーケティングしていくことで確実に市場は広がっていくと思います」

──発展途上だと感じられるのは例えばどのような点からですか?

 「リカーショップの陳列棚などを見ると、焼酎や日本酒、梅酒が混ざって置かれてあったり、店員さんが焼酎と日本酒の違いを分かっていなかったりなど。ただ、熱心に勉強はしているとおっしゃっていました。そういった売り手の熱意も感じますし、人も増えている国で経済的な勢いもあります。ですからオーストラリアは今後非常に伸びていく市場だなと感じています」

スライドを撮影する熱心な参加者も多くいた

──唐橋社長は世界各国の市場を見てこられてきたわけですが、各エリアの特徴、違いなどをどのように捉えておりますか。

 「アメリカは何が売れるか売れないかなど、地域による違いが激しいです。同じ西海岸でもロサンゼルスは低価格帯のもの、サンフランシスコはプレミア商品が売れる傾向があります。また、フロリダではフルーツ系のお酒がよく出ます。アジア諸国は日本の市場をかなり注視してるので、日本で人気のあるものを好む傾向があります。とくに中国の人はそういった傾向が強いですね。また、ノルウェー、スウェーデンなど北欧エリアを中心にヨーロッパも見ていますが、ヨーロッパはそれぞれ一国のパイが小さいため、営業活動がしにくいという側面はあるかもしれません」

東日本大震災、復興支援活動

──ほまれ酒造では東日本大震災直後から福島県の支援活動に力を入れてきたと伺っています。

 「福島県内ではありますが、我々の酒蔵がある喜多方市はインフラへの影響など物理的被害はありませんでした。そこで、震災直後はいわき市まで水を配りに行くなど支援を行いました。子どもたちに夢を与えなければならないだろうと考え、絵画のコンクールを開催なども行いました。また、うちの蔵では毎年地元に潤ってもらいたいという思いから無料で参加できるお祭りを開催し、5,000人くらいの方に来て頂いております」

──すばらしい取り組みです。オーストラリアでもボランティア団体が福島の子どもたちを保養プロジェクトに誘う(いざなう)活動なども行われました。

 「やはり、子どもたちに明るい未来を見せて上げたいですよね。私もそのような思いで取り組みを行っております」

──今回は、シドニーとキャンベラで行われる日本酒セミナーの講師としての来豪ですが、どのような足跡を残されたいとお考えでしょうか。

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 「目的は日本酒の啓蒙です。日本酒のことを全然分からない方に、日本酒のことをしっかりと知って頂くことを目指しています。今回はレストラン関係者、メディア、フード・ブロガー、インフルエンサーなど多岐にわたるバックグラウンドの方が来られるので、ビギナーに焦点を合わせています。日本酒とは何なのか、作る際になぜ精米しなければならないのか、どのような食事に合わせると良いのか、ワインとのマッチングの違いは何なのかなど、ベースとなる知識を知ってもらいたいと考えています」

──まずは基礎知識をきちんと知ってもらいたいというわけですね。

 「ええ、ラベルを見た時にどういうお酒なのかと、ある程度アイデアが浮かぶような感じになってもらえると嬉しいですね。ただ、今回はこれまであまりやってこなかった日本酒の香りに関するレクチャーを実際に試飲してもらいながら行います。良い香り、悪い香りなどを知ってもらうきっかけになればと考えています」

──最後に、オーストラリアの在住、あるいはこれからオーストラリア入りを目指している日豪プレスの読者に向けてコメントを頂ければと。

 「個人的な話ですが、実は30年ほど前にブリズベンに1カ月ほどホームステイをしたんです。そしてその時にオーストラリアという国が大好きになりました。時がゆったりと流れる感じ、人々の優しさ。第二の故郷のような存在で、自然も豊かでここに住めたらなと思いました。我々は日本酒を生業にしておりますので、ぜひこの国でオーストラリアに住まれている皆さんにも協力いただきながら、日本酒を広めていけたらうれしく思います。日本酒は世界で一番、何にでも合わせられるお酒だと思います。パーティーで何か持持参する際にはぜひ日本が誇る産物、日本酒を持って盛り上げていただきたいと思います」

──ありがとうございました。

(2023年3月、在シドニー日本国総領事公邸で)

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