第15回:マーティン・プレイスで働く
大阪で働いていたころ、同じ会社の人が出張でシドニーに行ったことがあった。時期は12月。写真を見せてもらったらマーティン・プレイスの大きなクリスマス・ツリーが写っていた。何ともまぶしく見えた。「オーストラリアに帰りたい」高校生の時に留学して以来何年たっても消えない、日本に住んでいたころの私の口癖だった。
マーティン・プレイスは、シドニーCBDの真ん中にあり、シドニー中央郵便局をはじめ、銀行や金融機関が並んでいて、イベント広場や噴水もあるシドニーのビジネス中心街である。中央郵便局の古い建物は、1990年代に改築され、今は郵便局の他に5スター・ホテルやレストランと商業施設が入っている。
連邦政府金融庁は、2016年にジョージ・ストリートから、マーティン・プレイスの中央郵便局のビルに移転した。窓から見える時計台、ランチ・タイムにはコンサートの音も聞こえる。そして、その12月、仕事帰りにオフィスを出た私の目に、いつか写真で見たクリスマス・ツリーが飛び込んできた。夢に見ていた光景がそこにあった。その時また、ひとつ夢が叶ったのだと実感した。
毎朝、バスの窓からオペラ・ハウスを見ながらハーバー・ブリッジを渡っての出勤。マーティン・プレイスのオフィスでの1日が始まる。あれだけ帰ってきたかったオーストラリアに住んで、オーストラリアで仕事をしている。どれもみんな今は現実である。だけど、どんなに時が経っても、これが本当なのだと信じられない時がある。だから絶対に、これが当たり前だと思ってはいけないと、いつも自分に言い聞かせている。
その昔、自分がずっと夢にみていたこと、それが今目の前にある。どんなに仕事が忙しくて大変であっても,辛いことがあろうと、いつも感謝の気持ちで1日を始めると決めている。
ミッチェル三枝子
高校時代に交換留学生として来豪。関西経済連合会、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に勤務。1992年よりシドニーに移住。KDDIオーストラリア及びJTBオーストラリアで社長秘書として15年間従事。2010年からオーストラリア連邦政府金融庁(APRA)で役員秘書として勤務し、現在に至る