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「自由」が投票しないことの言い訳になる時(豪州の法廷での間違いや誤解について) / 日豪プレス 法律相談室 第90回

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オーストラリア弁護士として30年以上の経験を持つMBA法律事務所共同経営者のミッチェル・クラーク氏が、オーストラリアの法律に関するさまざまな話題・情報を分かりやすく解説!


 NSW州の地方裁判所は、「自由」理念の信仰は、義務投票制度における宗教的義務免除を認めるのに十分であると判断しました。これは間違いなのでしょうか? また、このような決定を不服とする手続きはどのように進められるのでしょうか?

 この宗教的義務免除の問題は、公訴局長官(豪連邦)とアダム・イーストン氏の裁判([2018] NSWSC 1516)で議論されました。このケースは、イーストン氏が投票を拒否したことから始まりました。豪州は連邦法によって、選挙での投票が義務付けられていますが、一定の例外も認められています。つまり、連邦法は、特定の状況下での投票免除を定めています。

 例外となる状況の1つは、宗教上の義務です(1918年連邦選挙法第245条(14)で規定)。イーストン氏は投票をしなかった罪で起訴されました。彼は、自分の道徳的誠実さと「自由」に対する信念が、投票によって悪影響を受けるという理由で、起訴に異議を申し立てました。このケースの興味深い側面は、イーストン氏が宗教的義務の例外に頼ろうとしながらも、彼自身、実は不可知論者(神の存在を信じることを約束しない)であることを認めていたことです。イーストン氏は、自身が深く抱いている信念や道徳規範は、明らかに宗教的な信仰と密接に結びついていると主張しました。地方裁判所のハイルパーン判事はこれに同意し、連邦法が宗教的な例外を認めながら、築き上げられた不可知論者の道徳的で意識の高い信仰を認めないのは「単にナンセンス」であると判断しました。

 地方裁判所が下した衝撃的な判断により、豪州の義務投票制度の終わりが見え、法曹界を含め、社会に波紋が広がりました。しかし、控訴審でこの判決は覆されました。アダムス判事は、宗教的義務の範囲は、いくら信心深くても、自認の非宗教的信念には及ばないと判断したのです。またアダムス判事は、控訴が期限切れで行われたことは「異常な状況」であったと述べています。通常、控訴の期限は最初の裁判所での判決から28日以内です。この28日間を過ぎている場合は、高等裁判所に対して特別な申請を行い、期間延長の承認を得る必要があります。しかし、このケースは控訴審が行われました。

 上訴する権利は、どのようなタイプのケースかによって異なります。また上訴は、ケース全体を再検討する機会ではありません。原審で提出された証拠のみで争われます。つまり、例外的な状況を除けば、新しい証拠を提出する権利はないのです。多くの場合、控訴審の焦点は、原審が法律の適用に誤りを犯したかどうかの検討に限定されます。原審の裁判官が、ある証拠の方が信頼できると判断しただけでは、控訴の理由にはなりません。このように、ある判決に不満を持ったとしても、法律の適用に誤りがない限り、上訴に成功する見込みは薄いことが多いです。これは、問題解決する役割を担っているのは判事で、競合する証拠がある場合は判事が判断を下すという、我々の法制度の基礎があるからです。 





 証拠に関する規則は非常に厳格で、裁判の公平性を確保するために法律が制定されました。例えばQLD州では、証拠に関する規則は、1977年証拠法(Evidence Act 1977)に準拠し、1999年統一民事訴訟法(Uniform Civil Procedure Act 1999)では手続きに関する規則が定められています。

 証拠は、関連性がある場合にのみ、証拠能力として裁判所に認められます。その証拠は、裁判の争点に関連していなければなりません。しかし、関連性のある証拠であっても、裁判の一部として効果的に導入されるためには、さまざまな要件に従わなければなりません。

 法廷で証言する者は、まず真実を語るという誓いを立てなければなりません。伝統的に、この誓いは人が右手を挙げることによって行われました(今も米国の法廷では慣行として続いています)。この伝統は英国がもたらしたものですが、(案外)宗教的、儀式的な目的ではありません。

 実は英国の裁判官は、証人が以前に嘘をついたことがあるかどうかを知りたかっただけなのです。かつてロンドンで行われた裁判では、偽証罪(法廷の証人として故意に嘘をついたり、意図的に省略したり、虚偽の陳述をする犯罪)を含む特定の犯罪の有罪判決を受けた場合、右手の手のひらか親指に焼き印を押されました。その後、法廷で再び証言しようとする度に、右手を挙げるよう求められるので、焼印があると証言が許されなかったということです。

 以下は、裁判の証人が犯しがちな3つのミスです。①自発的に情報を提供する、②推測する、③効果的に聞いたり考えたりしない──。もしあなたが裁判に出廷する際は、敬意を払いましょう。裁判官には「Judge Judy」や「Mrs J」ではなく、「Your Honour(裁判官)」と呼びましょう。法廷の関係者や手続きに敬意を示すことは、裁判官の承認を得ることにつながります。

 最後は、雑学を幾つかご紹介します。

 陪審員が判決を下すまでに要した最短時間は何時間でしょう?答えは、1分! 2014年7月、ニュージーランドの地方裁判所での出来事です。

 最初に豪州の女性に陪審員になる権利が与えられたのはいつ、何州? 答えは1923年、QLD州です。

 陪審員の召喚状で大きな間違いがあったことと言えば? 答えは、米国マサチューセッツ州で、「Sal」と名付けられた猫の飼い主が米国の国勢調査にSalの名前を記載したため、飼い猫が陪審員として召喚されました。

 陪審員として召喚された有名人は? 答えは、2010年、バラク・オバマ大統領が陪審員として招集されましたが、ワシントンDCでの一般教書演説を控えていたため、免除されました。

 陪審員召喚が免除されている有名人は誰? 答えは最近戴冠した国王チャールズ3世です。

このコラムの著者

ミッチェル・クラーク

MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として30年の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート

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