ワールド・カップ(W杯)が終わった。多くの人びとがフットボールに魅了された女子W杯史上最高の盛り上がりを見せた大会は成功裏に終わった──。と断言できないのは、締切の都合で大会が序盤から中盤へと差し掛かろうかというタイミングでこの原稿を書いていて、大会の行方を最後まで見守っていないからだ。現時点で未来の読者と共有できるのは、大会の序盤からさまざまな番狂わせが続発して、「もはや何が起きても驚かない」大会になっているということ。
開幕戦では共催国のニュージーランドが格上のノルウェーに金星を挙げた後、そのニュージーランドを格下のフィリピンが破った。そんな波乱続きの中で、オーストラリアのマチルダスまでがナイジェリアに屈した。ここまで波乱続きの大会も珍しい。
現地観戦したイングランド対ハイチ戦も興味深い試合となった。誰もが優勝候補のイングランドが楽勝すると予想していたが、蓋を開けてみると、どうだ。予想外のハイチの大善戦。不運なPKとその蹴り直し、試合終了間際のイングランドGKのスーパー・セーブがなければ引き分け、いや、女子フットボール史上最大のアップセットが起きてもおかしくなかった。
試合内容に負けず、スタジアムの雰囲気も良かった。フットボールの母国イングランド系の人びとはフットボールのツボを良く押さえているからか、敵味方区別なく良いプレーには拍手が起こる。根っからのアンダー・ドッグ贔屓のオージーはというとハイチ・コールでスタジアムを盛り上げた。
結果は、イングランドが1−0で薄氷の勝利。内容はともかく勝ちは勝ちだと定番の“スイート・カロライン”を大合唱して喜ぶイングランド・サポーター。試合後の観衆が惜しみなく拍手を送ったのは、グッド・ルーザーのハイチだった。スタンドの観衆にサインやセルフィーで応え、応援への感謝の気持ちを伝えたハイチの選手たちは、敗北直後にも嫌な顔1つせず、さわやかなスマイルを振りまいた。そんな微笑ましい光景もこの大会の“記憶遺産(レガシー)”となるのだろう。
植松久隆(タカ植松)
ライター。タカの呟き「今回のW杯で取材活動に励む予定だったが、父の危篤で急な帰国を余儀なくされ、先の予定が立たず、メディアパスの申請を断念。帰国後、いち観客として大会に臨んだ。取材できなかったことに後悔はない。客席でビールを片手に声を上げながらのフットボール観戦は楽しい(笑)」