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NSW州“大分水嶺山脈”2泊3日の石探し紀行 中編/トミヲが掘る、宝石大陸オーストラリア 第26回

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 2日目は朝5時に起床した。軽くストレッチをしてからコーヒーを飲んで、仲間に「G’day」とあいさつ。するとあるメンバーが「ちょっと手伝ってくれないか」と言うので、どうしたのかと聞くと、一緒に来ていた60歳後半の彼の父が、前日のサファイア探しの後に立ちくらみで倒れ、その衝撃で肩を脱臼してしまったとのこと。夜通し続いた痛みが引きそうになく、旅の継続を断念することにしたので、帰り支度を手伝って欲しいとのことだった。

 昨日は、川底の砂をシャベルですくってふるいに掛ける「ウェット・シービング」で常に水に浸かってはいたものの、石探しは重労働。しっかりとした水分補給の重要性を再認識させられた。

町と呼ぶのをためらうくらいに小さなStanniferが、2日目の水晶探しのポイント

 朝食を軽くすませてから、ランチの用意もすませ、本日のポイントであるグレン・イネスの西に位置するスタニファー(Stannifer)を目指す。そこでは、水晶、黄水晶、煙水晶や、川の流れで丸く角が取れ豆状になった“ジェリー・ビーン”と呼ばれる石英が採れる。こぢんまりした町の南には、その町唯一の店があり、その店も“石英屋”という一風変わった町なのだ。

 その石英屋で、水晶とこの一帯で採れた鉱物のコレクションを見学してから、町を抜けて更に南へと向かう。道脇の山道に入り、未舗装路を走ること2分ほどで、前方にこんもりとした小山が現れた。そこが今回のポイントだ。





可愛らしく丸みを帯びた煙水晶

 道の脇に駐車し、周りを歩いてみると、所々に掘られた跡があり、小粒で透明な石英があちこちに見える。仲間たちも各々で掘る場所を決めて、さっそく掘り始めている。遅れてはなるまいと、車からツルハシ、シャベル、バケツとふるいを持ち出して採掘開始。ねらいは、小山の頂上にあった、ある程度掘り進められた形跡のある穴だ。

 そのポイントは、水を使わない「ドライ・シービング(Dry Sieving)」で探す。さすがは、石英の産出地として有名な場所だけある。ふるいを振ると、キラリと光る水晶の形を留めた石英が顔を出す。透明な無色な水晶、黒っぽい煙水晶も見つかるが、全体的に黄水晶が多い。

 しかし、掘れば掘るほど、出るわ出るわ。まさに入れ食い状態だ。ジェリー・ビーンも小指の先ほどの大きさだが、太陽に透かせる透明なものがゴロゴロ出る。ファセット・カットするのにはちょうど良いサイズなので、小ぶりでもテンションが上がる。テンションが上ったまま、あっという間にランチ・タイムとなって、そこで小休止した。

透明でおいしそうなジェリー・ビーン・クォーツ。角ばった水晶がここまで丸みを帯びるには、どれだけの時間が掛かるのだろうか

 午後は、午前のポイントから南に3分ほどドライブした場所にある硯鉱山跡に移動した。ここは鉱山跡なので、ひょっとしたら大物に出合えるかもと一同、否が応でも気合いが入る。

 掘り始めること30分、仲間の1人が叫び声を上げた。皆が「なんだ、なんだ」と集まると、そこでは15センチほどの煙水晶のジェリー・ビーンを持って満面の笑みの仲間が迎えてくれた。小ぶりのキュウリくらいのサイズの水晶を見て、自分のことのようにテンションが上がる一同。誰もが「次こそは自分が!」と表情は希望にあふれている。

 残念ながらこの日、それ以上の大物には誰も巡り合えなかったが、それでも、3時間ほど掘ってから、皆が美しい石英で容器を満たすことができた。帰路は1時間ほどドライブになるので早めの撤収と相なった。

表面がオレンジ色だったジェリー・ビーン・クォーツを磨いてみると、中はなんと無色透明

 キャンプ場に帰る前には、皆で石探し帰りの“お約束”とばかりにディープウォーター(Deepwater)のパブで晩ご飯とビールにありつく。石好きばかりの会食なので、会話はもちろん石談義一辺倒。キャンプ場に戻ってからも軽く飲み直したが、1人また1人と、各々のテントに引き上げていく。

 石探しの夜、同好の士と共にうまい酒を飲む。これも石探しの醍醐味の1つ。だから、石探しは止められない。(この稿、まだ続く)

硯鉱山跡地。硯を採るため水晶を棄てていた場所だけに、掘れば掘るだけ出てくる

このコラムの著者

文・写真 田口富雄

在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子はYouTube(https://www.youtube.com/@gdaytomio/featured)やインスタグラム(@gdaytomio https://instagram.com/leisure_hunter_tomio)に詳しい。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)

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