9月2日、シドニーCBD南部に位置するジャパンファウンデーションで、豪州繋生語研究会が、幼少期より日本とつながる若者のための懇親イベント「つな豪未来」を開催した。人気YouTuberをゲストに招き、約40人の若者が軽食やクイズを楽しみながら交流を深めた同イベントに、日豪プレスのインターンシップの学生2人が参加。イベント・リポートをお届けする。
(文・写真=常山紫馬、村瀬萌香)
豪州繋生語研究会(ANJCL)
豪州繋生語研究会(ANJCL)は、オーストラリアで繋生語として日本語を使う人びとやコミュニティー支援を目的に活動している。同研究会は「繋生語」を、海外に住む日本とつながる子どもたちのことばと定義。子どもたちが親から受け継ぐ言語を含め、親や家族、友人、社会とのつながりから生まれ、更なるつながりを生み、そこで新しい意味を生み出し、そのつながりを次の世代に受け継いでいく言葉としている。これまで、移民先で親の言語を伝承していく「継承語」という言葉が重要な役割を果たしてきたが、「継承語」から更に広がりを持たせた「繋生語」という新しい言葉を提唱しているのだ。
同研究会の事務局長であり、シドニー工科大学で日本語を教える大野唱子さんは「2019年からオーストラリア全土で行った、日本とつながりのある若者を対象とした調査から『若者のコミュニティーがあればもっと楽な人生だった』という声を耳にしました。更に日本語補習校の先生から、『補習校を終えた若者は、日本と縁が切れてしまう傾向があるので何かコミュニティーがあれば』という声がありました。そこで今回、シドニーの三大学で行われている国際繋生語大会開催のタイミングで、ジャパンファウンデーションの協力を得て、コミュニティ「つな豪未来」JAFCO(Japan Australia Future Connections)を立ち上げました」と同イベントを開催した経緯を話す。
ゲストには人気YouTuberフォーサイス家が登場
フォーサイス家は、オーストラリア人の父と日本人の母を持つ7男1女の日豪ハーフYouTuberだ。母国である日本とオーストラリアの架け橋になるべく家族の日常をSNSに投稿している。
長女・伊織さんは「シドニーには日豪ハーフや日系オーストラリア人、日本にルーツを持つオーストラリア人がたくさんいるはずなのに、そういう人たちが集まる、特に若者のコミュニティーが見付からなかった。存在しないのであれば自ら立ち上げに関わりたいと思った」とコメント。
また参加者に対し「似たようなバックグラウンドを持つ同世代の人とつながり、同じバックグラウンドを持つ人にしか分からない気持ちや経験を共有し合いながら仲良くしていって欲しい」と続けた。「今後は、日本の文化や日本語を自分たちの子どもにも繁生し、オーストラリアで日本にルーツを持つ人たちのコミュニティーを強く大きくしていきたい」と、強い思いを語った。
六男・青羽さんは「サンシャインコーストに住んでいた時は、日本とオーストラリアのコミュニティーが1つもなかったんですよ。ハーフの知り合いは数人いましたが、交流会みたいなのはなかったですね。でもそういうのはあった方が良いと思います」と話す。また、参加理由として「自分みたいなハーフやシドニーに住んでいる日系の人とつながりたかったから」と続けた。
日豪クイズで会場は大盛況
プログラムの説明後、チーム対抗のクイズ大会が始まった。各5人で構成された全8チームがお互いに意見を交わしながら日豪関連の4択クイズで大奮闘。優勝チームには下駄やトートバッグなどの景品が贈られた。
日本人の両親を持ち、オーストラリアの大学に通う参加者の加藤眞莉和さんは「周りに仲の良い日本人がいないから同じ境遇の人たちと会う機会ができてうれしかった」と笑顔でコメント。今回、取材を通してイベントに参加し、参加者に話を伺ったり意見を交換したりする中で自然と会話が生まれるだけでなく、日豪に関する知識を深めることができ、とても良い経験になった。
クイズ大会が終わると、お弁当が配られ、用意されていたスナック菓子やドリンクと共に参加者たちは自由に交流を深め、イベントは終了した。
大野さんは「今日のイベントだけで言うなら、新たなつながりを多く見ることができたので成功だったと思います。私たちがこのイベントを通して一番伝えたかったことは、日本語ができないからといって引け目を感じてほしくない、その逆も言えます。言語は横に置いておいて、日本とのつながりを見て欲しい。1つだけ大きなコミュニティーがあれば良い訳でもないと思っています。映画が好きな人、運動が好きな人など小さなグループにコミュニティーが細分化していく可能性もあるでしょう。その際、どのように立ち上がり、発展していくのかが今後の課題となります」と話す。
次回以降については、「日本とつながる若者が、映画、音楽、踊り、朗読など、ジャンルを問わずクリエイティビティーを持ち寄って開催することを考えています。発表の場を求めている若いクリエイターがたくさんいるのが理由として挙げられます。しかしその際は、我々研究者というよりは、当事者である若い人が中心となって動いて欲しいですね」と思いを語った。
取材を終えた感想
日本とオーストラリア、両国をバックグラウンドに持つ若者が、シドニーでこれほど多く集まる機会は少ないため、貴重な経験となった。日本語が上手な人、少しできる人、あいさつ程度ができる人など、さまざまな参加者がいた。その中で印象的だったのは、参加者全員が日本と関わろうと強い意志を持っていることだ。日本の文化の話になると、目を輝かせて話を聞いてくれたことが、とてもうれしかった。この先、日本とオーストラリアのつながりを持とうとする若者のためにも、このようなイベントを続けていくことの意義は大きいと感じた。(常山紫馬)
実際に会場に足を運んで感じたことは、同じバックグラウンドを持つ人とつながりたいと感じている人や日本の文化に興味を持っている人が多数いるという現状だ。参加者たちが会場に入ってすぐ自ら積極的に声を掛け合い、輪が大きくなっていった光景や、英語だけでなく日本語でも会話をしていた様子はとても印象深い。今回のイベントで、人びとの親交が深まる空気感を肌で感じ、自分とは違うバックグラウンドを持つ人と関わることができたためとても貴重な経験になったと感じる。これからも若者につながりの場を提供し、次の世代に繁生していく場になるであろう「つな豪未来」のようなイベントの必要性を強く感じると共に今後も増えていくことを願う。(村瀬萌香)
つな豪未来(JAFCO)
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