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NSW州“大分水嶺山脈”石探し紀行 番外編-QLD州ワランガラの花崗岩/トミヲが掘る、宝石大陸オーストラリア 第28回 

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 前回まで3回にわたってお送りしたNSW州グレン・イネス(Glen Innes)周辺での宝石探しを終えての帰路、休み休みゆっくりと北上しながら進んだ本拠地ブリスベンへの家路の途中での出来事について今回は話そう。

 QLD州境に近いテンターフィールド(Tenterfield)という町で休憩をしている時、何気なく車に常備している石探しの本をパラパラとめくった。何度も目を通している本であっても、基本的には宝石のありかが書いてあるページばかり読むので、花崗岩(かこうがん)について書いてある箇所はそこまで気にはしていなかった。この時は、たまたま目を通したページの「州境のQLD州側のワランガラ(Wallangarra)という町で良質な花崗岩が見つかる」という記述に目がとまった。その町はテンターフィールドから北上する帰り道で通過することもあって「どうせならちょっと見ていくか」とばかりに道草を食うことにした。

スタンソープで見つけた白い石英が斑点状にある黒花崗岩。ずしりと重く、硬い!

 花崗岩とは火成岩の一種で、地下深くでマグマがゆっくりと冷やされて形成される石。英語ではグラナイト(Granite)と呼ばれ、ラテン語では種を意味する。小さな石英や長石の結晶が集まり斑点状の模様をしているのが特徴だ。

 QLD州南部のスタンソープ(Stanthorpe)とその周辺地域一帯は、グラナイト・ベルト(Granite Belt)と呼ばれるように花崗岩が多い地域として知られる。更には、非アルカリ岩質の土壌と昼夜の気温の高低差がリンゴなどの果樹の栽培だけでなく、良質のブドウの生産に向いているということもあって、QLD有数のワインの名産地として名高い。

 そんなスタンソープには何回も訪れ、当地の花崗岩にも何度も触れてきたのだが、肌色や茶色で半透明の石英が混ざっている物が多くて岩自体も粗くもろい物がほとんどで、自分がやりたい加工に適した花崗岩には結局出合えないままだった。

 そんな経験があるので、今回のポイントに関しても「期待し過ぎず、見学くらいの気持ちがちょうど良い」と、気楽にアナログの石探しの本が示す場所をデジタルのグーグル・マップに打ち込んだ。

 本で紹介されたポイントは簡単に見つかり、現地に急ぐ。ポイントに到着後、車を停めてから周辺を歩いてみると、やはり想像していたのと同じような粗くもろい花崗岩ばかりがむき出た茂みしかない。「どうして、この程度の岩がわざわざ石探しのバイブルのようなあの本に書いてあるのだろうか」と不思議でしょうがなかった。それでも念のためにと、もう少しだけ歩きながらの探索を続けてみた。

 だんだんと空が薄暗くなっていく中、ゴツゴツと岩がむき出た茂みを歩きまわること5分。「おや?」と目を引かれると同時に、岩の色が黒っぽく変わってきたことに気付いた。おもむろに1つ手に取って持ち上げてみる。明らかに花崗岩だが、想像していた重さよりもずっしりと重い。黒い石の表面には無数の小さな石英が斑点状に見えている。

 持ち上げた石を足下の岩に勢いよく投げつけてみても割れない。とても頑丈な花崗岩だ。よくよく目を凝らして、周囲を見渡すと、地表にむき出た黒い石の数々を視界が捉えた。見渡す限り一面の黒い石の全てが硬く詰まった花崗岩だ。

 「おー、見つけたぞ! こここそが本に載っているポイントだ」

 これほど高いクオリティーの花崗岩の発見を全く期待していなかっただけに、驚きと喜びで喚起の雄叫びが自然と飛び出た。とにかく選び放題なので、加工しやすい掌サイズで白い斑点の出方が気に入った石を1つだけ慎重に選んでから持ち帰った。

このすてきな夕陽に「また石探しに行こう」と誓ってゆっくりと安全第一で家路を急ぐ

 帰宅後、さっそく持ち帰った石をパカッと半分に切ってみる。ボロボロと欠けるようなこともなく奇麗に切れた断面は、外見と同じで黒に白い斑点があり、ツルリとして滑らかで目が細かい。

 それでも花崗岩なので、ひょっとしたら磨いている時にボロっと崩れるかもしれないと思いながら、とにかく慎重に丁寧に片面をドーム状、もう片面を平らに仕上げるカボション・カットに加工する。心配をよそに石は思った以上に硬く、とても加工しやすい。念入りに削ったこの黒花崗岩の表面がツルツルになったのにも、またまたビックリするなど、これまでにないくらい質の高い花崗岩だった。

黒花崗岩のカボション。とても質が良く、磨き応えのあるすばらしい石だった

 今回の石探しの帰路で思い立っての道草で、まさか花崗岩でここまで興奮して感動することになるとは、正直、思ってもいなかった。今回の道草は、「いつどこで、どのようにして、どんなすばらしい石に出合えるか分からない」という、石探しの楽しさ、石磨きのすばらしさという醍醐味を再体験する結果となった。

 こういう経験を積み重ねながら、どんどん石の世界の魅力という名の“底なし沼”にハマっていったのが、私、トミヲなのであります。読者の皆様で、この沼に一緒にハマってみたいという人がいれば、遠慮なくご連絡を。決して、後悔させませんから(笑)。

 やはり、石の世界は奥が深い。これだから石探しはやめられない。

このコラムの著者

文・写真 田口富雄

在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は、宝探し、宝石加工好きは必見の以下のSNSで発信中(https://www.youtube.com/@gdaytomio, https://instagram.com/leisure_hunter_tomio, https://www.tiktok.com/@gdaytomio)。ゴールドコースト宝石細工クラブ前理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)

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