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「こんな所でお茶の栽培を!?」─オーストラリア産緑茶生産への挑戦「国太楼オーストラリア」

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左から小ノ澤昭夫さん(茶師)、オーナーのYuri & Bill Atkinson夫
妻、筆者、伊藤元美さん(茶師)

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記 〜オーストラリアでの日本食の変遷を辿る〜 其の六拾壱

 シドニーから北に車で1時間弱のマングローブ・マウンテンに茶畑が広がり、そこで有機栽培による緑茶の製造・販売が行われていることをご存知でしょうか?

 オーストラリアは広大な土地と資源を生かした新たな農産物の発展に力を注いでおり、国太楼は、第一次産業省(NSW Department of Primary Industries)との日本茶の共同研究を開始し、その後19 97年にKUNITARO Australiaを設立。2004年にマングローブ・マウンテンに茶畑農園を創立しました。

 スタッフ(茶師)の小ノ澤昭夫さんは当時を振り返り、初めてマングローブ・マウンテンに連れて来られた時、そこはまだ雑木林で、「こんな所でお茶の栽培を!?」という第一印象だったそうです。「最初の仕事は茶園造成でした。木々を伐採して大きな切株や根を掘り起こし、焼却。測量してなんとか畑のような平地にしました。そして、雑草の根を取り除き、石を運び出し、潅水設備を設置して、ようやく定植できるような畑になりました」と小ノ澤さん。「やぶ北」と「さやまかおり」の苗が成長し、茶畑が奇麗にうねり広がる現在の農園を見ると、ずっとそこに存在していたように思えます。しかし多くの時間と努力からできたことを知ると胸が熱くなります。

 オーストラリアの土地の多くは砂質土壌で、小ノ澤さんは「さらさらのビーチにお茶を植えるような感じで水はすぐに浸透します。しかも年間雨量は静岡県のおよそ半分」と言います。

 この周辺にあるピーツ・リッジ(Peats Ridge)はミネラル・ウォーターの産地として知られるほど良質な水に恵まれ、茶畑にとっては最良の条件。茶畑ではそれぞれの畝うねにホースを設置し、地下水をくみ上げて潅水も行っています。しかし砂質土壌のため、肥料成分を保持できるほどの容量がなく、毎年緑肥の種をまいて生育し、それを堆肥と一緒に土壌にすき込んで、土壌内に有機物を補給するなどの有機的管理を続け、オーガニック認証機関の実地審査を受け有機栽培を維持しているそうです。

 1997年から「やぶ北」と「さやまかおり」の幼木の定植が始まりましたが、その年の夏の雹(ひょう)や40度を超える猛暑により幼木の60%を喪失するという大被害が出たことも。小ノ澤さんは「日本では3月に定植をするので、オーストラリアでも春が定植時期と捉えて行いましたが、こちらではすぐに夏になり枯死する苗が大量に出てしまうなど、試行錯誤の連続でした」と振り返ります。

 しかし翌年、3ヘクタールの「やぶ北」畑を造成し、残る半分の農地も引き続き開墾作業を続け、2012
年には農園内に荒茶工場を落成しました。16年には碾てんちゃ茶ラインを設置。工場を増設して有機碾茶(抹茶の原料)の生産を開始しましたが、19年、先代中村国田郎社長が逝去。更には20年からのコロナ禍により、日本の国太楼は豪州での茶事業から撤退することになりました。

 KUNITARO Australiaは存続の危機に立たされますが、現在のオーナーであるYuri & Bill Atkinson夫妻が
熱意を受け止め、22年、新生KUNITARO Australia /Green Tea Estateを設立。16年から中止していた煎茶
の生産を再開したのです。

 茶樹の樹勢も回復しており、煎茶も碾茶も高品質なお茶を生産。先代の中村社長のモットー「消費者尊重。安全安心を第一とし、買いやすく、使いやすい、価値ある健康的な商品を作る」を引き継ぎ、食品安全マネジメント・システムを導入した日本の製茶工場で仕上げ工程を行い、オーストラリア市場で展開しています。

 これまでの道のりは容易ではなかったものの、50年後、いや2、3年後にはオーストラリアにおける緑茶市場を変えてしまう存在になり得るかもしれません。

 20年の豪州茶の研究を経て、ようやく味、色などが静岡のお茶の域に達するかという品質の物ができ上がったそうです。丹精込めて育てられ、日本の技術が生み出したKUNITARO Australiaのお茶をぜひお試しください。

●Green Tea Estate/KUNITARO Australia

Web: www.greenteaestate.com

このコラムの著者

出倉秀男(憲秀)

出倉秀男(憲秀)

料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese Cuisine、Japanese Cooking at Home, Essentially Japanese他著書多数。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、四條司家公認天日大膳宗匠、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章





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