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アートでたどるオーストラリアの歴史─NSW州立美術館日本語ガイド・ツアーにインターン生が潜入

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日本語ボランティア・ガイド鴨粕弘美さん(右)と筆者

 12月3日~15日の2週間、東京経済大学2年生の学生が日豪プレスのインターンシップ・プログラムに参加した。今回は、インターン生がニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(Art Gallery of NSW/以下、NSW州立美術館)で日本語ボランティア・ガイド・ツアーに参加したのち、ガイドの鴨粕弘美さんにインタビューを行った。ガイド・ツアーを体験し、鴨粕さんがどのような思いでボランティア・ガイドを続けているのか、日本の美術館の在り方などについて、話しを伺った。

(文・写真=小山田衣織)

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ガイド・ツアー/アートが語るオーストラリアの歴史

NSW州立美術館の南館の正面に展示中の「Maman 1999」

 12月8日午前11時、NSW州立美術館の南館インフォメーション・デスク近くに集まった私を含む4人の参加者が、ガイドの鴨粕弘美さんと対面した。参加したツアーは「Guided Tour: Art Gallery Highlights in Japanses」というもので、事前登録や参加費は必要ない。

 鴨粕さんはまず、アボリジニへの敬意について話し、それから参加者1人ひとりにシドニーでの滞在歴を聞いた。参加者は、シドニー滞在4カ月の私と、3週間の学生男女2人、同ツアーの前日に到着したばかりの女性1人だった。

 ツアーが始まり、最初に私たちが目にしたのは、オーストラリア出身の画家ウィリアム・ピゲニットの作品「Mount Olympus, Lake St Clair, Tasmania, the source of the Derwent」(1875)だった。この絵画は、NSW美術館にとって、初めてのオーストラリア出身画家の作品だという。

ツアー中の様子。エントランスの展示を説明する鴨粕さん

 この美術館には、クロード・モネやフィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・セザンヌなど、日本でも知られる画家の作品がいくつか展示されている。しかし、今回のツアーのテーマは、「オーストラリアの歴史」。私たちは彼らの作品の展示を横目に、オーストラリアを流刑地時代からなぞった。鴨粕さんは、細かい絵画のポイントを示したり、遠くから俯瞰して見ると分かる簡単な構造について説明したりしながら、私たちを芸術の世界へと少しずつ引き込んでいく。途中で、アボリジニのティウィ族が作った墓標と、当時の美術館副館長とのやり取りが挟まれ、それらが制作された20世紀半ばに、この美術館がどのようにアボリジニとの関係を築いてきたかが説明された。

 そして、ツアーはシドニーで活躍した女流画家の話へと移っていく。他国と同様に、女性の権利が男性よりも遅れたオーストラリアで、女性たちがどのように美術作品を残したのか、同美術館がそれらを展示するに至った経緯などが鴨粕さんから語られた。

 1時間のツアーは、銀色に輝きひときわ目立つ鋼の彫刻、ジェームズ・クック船長(マイケル・パレコーワイ)とそれが見下ろす、彼が発見したシドニーの海を見て終了した。

 ガイド・ツアーに参加した京都府から来た女性は、このツアーの前日にシドニーに到着したばかりで、たまたま美術館のホームページを見ていた際、同ツアーを見つけたという。ドイツでの生活が長く、ヨーロッパ圏の美術館は普段から訪れていたそうだが、NSW州立美術館を訪れるのは初めてだそう。ツアーについて、「オーストラリアの歴史について、さまざまな基本のことを知れてうれしかった。ガイドに参加しなかったら、ゴッホやモネばかりを見て帰ったかもしれない。オーストラリアについていくつか興味を持ったことをメモにとったので、これをきっかけにいろいろと調べてみたい。」と語ってくれた。

日本語ボランティア・ガイド鴨粕弘美さんにインタビュー

インタビュー中の鴨粕さん

まず、日本語ボランティア・ガイドを行うに至ったきっかけは何でしたか。

「小さいころは絵を描くのが好きだったんですが、大人になるにつれて絵を描く機会は減ってしまいました。定年が近くなった時に、オーストラリアで日本人の墨絵の先生に出会ったんです。2003年ごろに、そのご縁でこのボランティアを紹介してもらい、応募したのがきっかけです。日本人の主人の都合で最初は3年だけのつもりでしたが、これまでずっとオーストラリアで生活しています」

もう20年ほど続けているのですね。20年続けることができた理由は何だと思いますか。

「『他のこともやりながらボランティアをやる』というのがポイントですね。それに、アートを通じて、これまで知っていた断片的なものがつながる感覚があって、知れば知るほど面白いです。見方もいろいろあって、同じテーマの作品でも全然違って描かれていたり、見る人によって感想が全然違ったりしますよね」

ガイド中にもおっしゃっていましたね。

「そうですね。私は、作品を鑑賞した人がどう捉えるかを大切にしています。『この絵はこういう絵です』『この作品の見方はこうです』と決めつけたくない。イメージを持ってもらうお手伝いをし、一緒に楽しめたらと思っています」

なるほど。では、ツアーの後などに参加者と軽く作品について話をするのは好きですか。

「好きですね。ツアーで言わなければならないことと、あんまりお伝えできないことがあるじゃないですか。画家のかわいそうな一面とか。私たちガイドの身内では、よく案内する作品の3つのポイントを言えば良いと言われています。ツアーに参加する方々は、アートを見に来ているので、いろいろ、たくさん説明するより、なるべく満遍なく、大切なポイントを3つくらい話して、あとはもう皆さんにお任せしています。話すことは、その人たちがどれくらいシドニーにいるかツアーの最初に伺い、その回答によって臨機応変に遂行の仕方を決めます」

普段、美術館をあまり訪れない人は、作品をどう見たら良いか迷っていると思います。何かお勧めの方法やアドバイスはありますか。

「どの作品にも説明が書いてあるし、今はスマホで翻訳して日本語で読むこともできるので、それを読んでもらうのが良いのかな。もちろんカウンターでガイドの音声を買ったり、借りたりもできますし、それを使うともっと面白くなると思います。若い人ってあんまり美術館に行かないですか?」

遊びに行く時の選択肢にはあまり挙がらないですね。どちらかというと博物館の方が人気な気がします。

「得に日本の美術館では入館料が掛かるので、そこはオーストラリアと違うところですね。国自体ががもう少し何かしてくれたらもっと良いと思います。学校の授業の一環で美術館に行くとか、あんまり聞きませんよね。それがすごく残念です。漫画やアニメよりもっと前の段階の浮世絵とか、それこそ墨絵とか、若い人に知ってもらって、もっと美術の知識に自信を持ってもらいたいです。

 NSW州立美術館では、結構子どもたちが対象のイベントが最近増えているんです。参加型とか、体験型って呼ばれるような企画なんですが、そういうのがもっと増えれば、日本でも美術館は堅苦しいものというイメージが消えるのではないでそうかね。やはり絵は、もともと楽しいものじゃないですか。アーティストたちがそれぞれ違う方法で表現するから、みんなと同じである必要がなく、自由ですよね。自由に見て、自由に感じて欲しいです」

ありがとうございました。

ツアーとインタビューを終えて

 今回のガイド・ツアーの参加とインタビューでは、美術品を通して見るオーストラリアの歴史と、鴨粕さんの日本の美術に対する思いを聞くことができた。ガイド・ツアーでは、展示されている作品の中に、NSW州立美術館とオーストラリアの歴代の芸術家たちの関係を垣間見た。インタビューでは、鴨粕さんに、ボランティア・ガイドに対する思いと、日本の美術館の在り方とこれからを語ってもらった。

 今回、日豪プレスのインターンに参加できたこと、インタビューと記事作成を経験する場を設けて頂いたことは、とても貴重でありがたい経験だった。また、鴨粕さんへのインタビューを通して、芸術を楽しむことの自由さを学んだ。

 NSW州立美術館では現在、期間限定の特別展として、「カンディンスキー展」と「ブルジョワ展」が開催されている。これらのツアーにも日本語ガイド・ツアーが用意されているので、常設展と合わせて訪れてみてはいかがだろうか。

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