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オーストラリアのでこぼこ道が原因で交通事故に遭ったら市に賠償してもらえる?ー危険な落とし穴、ポット・ホール/日豪プレス 法律相談室 第93回

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オーストラリア弁護士として30年以上の経験を持つMBA法律事務所共同経営者のミッチェル・クラーク氏が、オーストラリアの法律に関するさまざまな話題・情報を分かりやすく解説!


 オーストラリアでは、毎年、交通事故で何千人もの死傷者が出ています。事故原因の多くは、自動車やトラック運転手の不注意によるものです。そうした場合、負傷者は加害車両をカバーするCTP保険会社を通じて、経済的支援を受けることができます。CTP保険制度は、自動車の所有者が毎年支払う車両登録(必須)によって賄われており、相手の過失が原因で生じた交通事故で負傷した人を、金銭的に支援するための制度です。その他の事故は、道路自体の設計不良やメンテナンス不良が原因で起きています。これには、オーストラリアの道路でよく見られるポット・ホール(アスファルト道路の表層がはがれてできる穴、へこみ)も含まれます。

 ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州南西部で、道路にとてつもない大きさのポット・ホールができたことがあります。長さ40メートル、幅15メートルに及ぶこの穴は、オーストラリア最大のポット・ホールとされています。ポット・ホールの修復は、南半球で最も平坦な場所であったことに加え、洪水時に発生したため、巨大な穴を満たした水たまりの排水を行おうとする市の職員たちを悩ませました。その解決策として、穴の中の水をくみ上げるためのダムを建設するという大規模工事になったのです。

 市の職員たちは、道路の修復を始める前に、間に合わせのダムを作り穴の水を抜く必要がありました。なんと、ポット・ホールの深さは9メートルもあったのです!

 道路にできた穴を、なぜ「ポット・ホール」と呼ぶのでしょうか? 歴史上、陶器職人(potter)たちは、道路の深いわだちを掘り、その下に堆積している粘土を取っていました。陶工にとって、これは陶器を作るための安価な原料だったのです。道路を利用する馬車の運転手たちは、誰がその穴を作ったかを知っていたので、「ポット・ホール(pot-hole)」と呼んだのです。

 オーストラリアの道路によくあるポット・ホールは、基盤の破損、悪天候、交通量の多さ、自然の消耗など、さまざまな要因によって出現します。道路に空いた穴は危険をもたらし、車両に大きな損傷を与えるだけでなく、自転車やオートバイのライダー、歩行者にも健康被害をもたらす危険性があります。

 オーストラリアの市と道路管理当局は、道路のメンテナンスに関して法的責任を負っています。しかし、市は民事責任法(Civil Liability Act)という法律によって、広く守られています(事実上、道路利用者からの賠償請求に対する免責が与えられている)。単にポット・ホールでけがをしたり、車が破損したりするだけでは、道路を管理する市に対する法的賠償請求の十分な根拠にはならず、賠償請求に成功するためには、以下2つの要素が証明されなければなりません。

1. 市が問題を認識していたこと
2. 市が合理的な措置を取らなかったこと

 「合理的な措置」とは、道路補修や整備を行う時間を市に与え、ポット・ホール発生から短期間で事故が発生しても責任を問われないことを意味します。これは、市が複数の問い合わせに対応する必要があること、特に大雨や洪水などの際の責任回避を可能にするためです。

 しかし、この法的保護は絶対的なものではありません。市は道路利用者に対し、自身の安全のために合理的な注意を払っている道路利用者が傷害を負う予見可能なリスクに関して、あらゆる合理的な注意を払う義務を負っています。市が、報告されたポット・ホールを数カ月経っても修繕しないなどの適切なケースにおいて、負傷者による賠償請求は成功するでしょう。

 私が最近担当した案件の1つ、ブリスベンのとある重役が行った賠償請求が成功した例を紹介しましょう。依頼人は、仕事帰りに、バイクで路面の悪いラウンドアバウトを走行中に転倒し、足首と肩を負傷しました。調査したところ、市は2カ月ほど前に、その特定のラウンドアバウトの路面に具体的な問題があることを知らされていたにもかかわらず、適時に修理を行っていませんでした。その結果、依頼人には30万豪ドルを超える賠償金が支払われました。

 市に認められている広範な保護は、公序によるものです。具体的には、市の財源は膨大ですが、無限ではなく有限です。市の予算は、地域の住宅所有者から徴収する市税によって制限されます。NSW州では、税率は州政府によって上限が決められています。また、市税は、地方道路を補修する目的だけでなく、市が提供するさまざまなサービスに充てられ、歩道や公園の維持管理、ゴミ収集など、他の分野にも行き渡らせる必要があります。

 興味深いことに、クイーンズランド(QLD)州の市は独自に税率を設定することができ、市がさまざまなサービスの費用を賄うために毎年必要な金額を決定することができます。

 これは、NSW州のバイロン・ベイとQLD州のヌーサを比較するとよく分かります。両地域とも海岸沿いの人気観光地として知られ、毎年約200万人が訪れ、その多くは日帰りの車利用者です。ヌーサの地方道路網は670キロ、バイロン・ベイは510キロです。しかし、似ているのはそこまでで、ヌーサには3万人以上の市税納税者がいて独自の税率を設定できるのに対し、バイロン・ベイには1万5585人の市税納税者しかいません。その結果、バイロン・ベイの市税収入が2,300万豪ドルであるのに対し、ヌーサは5,100万豪ドルということになるのです。

 最後にトリビアを1つ:バイロン・ベイに入る主要道路は、でこぼこ道の「Ewingsdale Road」。路面がでこぼこしている理由は、道路が丸太を土台にして作られているからです。この地域は湿地帯で、かつては伐採された木が最も安価で利用可能な埋立材でした。

このコラムの著者

ミッチェル・クラーク

MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として30年の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート

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