当連載を執筆開始以来、ここ宝石大陸オーストラリアでの石探しの醍醐味やその獲物をいろいろと紹介してきた。せっかく手にした獲物をそのまま箪笥(たんす)の肥やしにしていてはもったいない。もちろん、自然体のままの方がすてきな石もあるにはあるが、経験上、やはり形を整え研磨すると、どんな石でも更に魅力的で独特の美しさを放つようになるものだ。
宝石の磨き方は主に3つあり、宝石の持つ可能性をどのように引き出したいかでカット方法が変わってくる。今回は、その3つの方法を、実際に筆者が磨いた石の写真と共に簡単に説明していきたいと思う。
1. ファセット・カット
石の表面に規則正しく平な面を作って研磨していく。これは上部、側部、下部それぞれに面を作ることで、上部から取り込んだ光が下部にできた面に反射して上部の中央部分から放出され、色、光、デザインを同時に楽しめる研磨方法。有名どころで言えば、ダイアモンド・カットやエメラルド・カットなどがこの手法に分類される。
カットする宝石それぞれに光と色を最大限に引き出す角度を見極めるには熟練の技が必要で、透明度の高い石に適するこのカットで研磨された石の多くは、ジュエリーに使われ宝石店などで高価に取り扱われるようになる。
2. カボション・カット
石の表面を丸みをおびたドーム状に加工、裏面を平らにカットする手法。不透明、半透明の石の模様や、その色を純粋に楽しむのに最適。裏面を平らにするため、セットがしやすく、アクセサリーとして扱われることが多い。
まれに表面から取り込まれた光が、石の内側で乱反射して表面に光の筋を作るものもあり、サファイア、ルビーでは3本、ガーネットやローズクォーツなどでは2本の光の筋が交差して星のきらめきのような模様を作る(スター効果)ものや、タイガーアイやアレキサンドライトなどのように、1本の光が輝く(猫目効果)ものも見られる。
このような宝石は表面をドーム状にするカボション・カットで研磨することで、この光の筋1本1本を最長にして、その美しさを楽しめる唯一無二の宝石に仕上げることができる。
3. フリー・フォーム
読んで字の如し。その名の通り自由に磨くやり方。オパールは光を当てる角度により色が変わり、その色の種類、模様、強さは個々によりけりなので、それぞれの個性に合わせ研磨しなければならない。色の美しさが最大限引き出される場所を見極めて、ギリギリまで研磨し、現れた色を失わないように形を整えるため、表面は隆起、形にとらわれない独特の仕上がりになることが多い。
これは、オパールでも特にQLD州から採れる母岩の鉄鉱石の模様が特徴的なボルダー・オパールによく使用される手法だ。
石磨きとは、それぞれの石に合った手法で整形、研磨して、石の持つ美しさを最大限に引き出す。そうすることで石の価値を高め、更にはジュエリーやアクセサリーに形を変えて、装飾品として長い間楽しむこと可能にする行程だ。更に表面の細かい傷を取り除くことで傷が大きくなるのを予防し、大気に触れる表面積を最小にすることで劣化を遅らせる保存目的もあるだろう。
それぞれの手法を理解し体得することで探す石のバリエーションも増え、石の世界を更に楽しめるようになる。そして何より、宝石は身に付けてなんぼ、見せびらかしてなんぼ。ここは宝石大陸オーストラリア、掘らなきゃそん損、磨かにゃそん損。ああ、これだから石探しは止められない。
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は、宝探し、宝石加工好きは必見の以下のSNSで発信中(https://www.youtube.com/@gdaytomio, https://instagram.com/leisure_hunter_tomio, https://www.tiktok.com/@gdaytomio)。ゴールドコースト宝石細工クラブ前理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)