第22回:言うは易く行うは難し
「お前は風呂屋の桶か!」昭和一桁生まれのガンコ親父である私の父は、いつもそう言って私を叱った。
「風呂屋の桶って何よ!」と生意気な娘の私。「お前は、言う(湯)ばっかりで行動が伴っておらん。しっかりせい」これが我が家の教育だった。
父は、人を理解するには、その人の行動をじっくり見て判断しろといつも言っていた。
「若い男は、女性を口説くために何でも言う奴が多い。将来の伴侶を選ぶのなら、どれだけ実際に行動が伴っているのか、本当にできた奴なのかをよく観察して、真の姿を見抜け」というのが父の論であった。
実際社会に出て、私は父が教えてくれたことが真髄だということがよく分かった。どれだけ「口先だけの人」を見てきたことだろう。口が上手で、自分の立場が悪くならないようにいつも言い訳をして、上司の機嫌を取っているけれど、一体それでどこまで行けるのか。自分の責任を他人に押し付ける人は不幸な人である。自分の能力に自信がない人ほど、言い訳が多い。そしてそういう人はいずれ去っていく羽目になる。
本当にできる人というのは、何事にも全力で臨んでいる。褒めてもらうためでなく、自分で納得することができるように。当たり前のことを、当たり前にするための難しさを知っているからだ。つまり仕事も生活上のことも、どれだけ責任を持ってやり遂げているかということなのであろう。
我が夫のピーターは、とにかく家事ができる人である。本人は独身生活が長かったからというが、彼が一生懸命に家事をする姿を見ていると、父親の言った言葉を思い出す。2人ともフルタイムで働いているのだから、家事は2人で分担するのが自分たちの共同生活における責任だとピーターは言う。
とは言っても、料理以外の、洗濯、アイロン、掃除、ゴミ出しと、実際はほとんど彼がやっている… 筋金入りの「オーストラリアン・ハズバンド」ことピーター。元ボーイスカウトのリーダーだったと聞けば、「やっぱりね!」と納得。
ミッチェル三枝子
高校時代に交換留学生として来豪。関西経済連合会、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に勤務。1992年よりシドニーに移住。KDDIオーストラリア及びJTBオーストラリアで社長秘書として15年間従事。2010年からオーストラリア連邦政府金融庁(APRA)で役員秘書として勤務し、現在に至る