近海で中国「小艦隊」実弾演習 ロシアも隣国インドネシアと関係強化
5月3日の投票まであと1週間となったオーストラリア連邦選挙は、物価高対策やエネルギー供給、住宅問題などが主な争点となっている。オーストラリアの選挙戦は内政が主眼で、外交・安全保障は議論になりにくい。ただ、地政学的な変動を背景に、国防政策の重要性は増していると言える。

アンソニー・アルバニージー首相(労働党=中道左派)は昨年、今後10年間で国防費を503億豪ドル(約4兆6,000億円)増やし、国防費の対国内総生産(GDP)比(2023年時点で1.9%)を33-34年度に2.4%まで引き上げるとの目標を掲げた。この計画をめぐり、アルバニージー首相は26日付の全国紙「オーストラリアン週末版」のインタビューで、国防費のさらなる拡大とGDP比目標の追加引き上げを否定しない考えを示した。
これに対し、最大野党の保守連合(自由党、国民党=中道右派)のピーター・ダットン代表(自由党党首)は25日、5年間でGDP比を2.5%に引き上げるとの公約を発表した。政権を奪回すれば、現政権の目標よりも早いペースで防衛力の整備を進める方針だ。
国防費は国・地域のおおむね経済力や国力に応じて大きくなるが、GDP比は防衛力整備にどれだけ力を入れているかの指標となる(グラフ1)。数字は戦争や内戦を抱えている国・地域で大きい一方、GDPが大きい先進国では相対的に小さくなる傾向がある。

オーストラリアの国防費のGDP比は冷戦終結後、おおむね1%台後半から2%付近で推移していた(グラフ2)。しかし、ここにきて与野党が相次いでGDP比引き上げを打ち出している背景には、中国やロシアが地域で影響力を拡大するなどオーストラリアを取り巻く安保環境が不安定化していることがある。
南シナ海などではここ数年、オーストラリア軍に対する中国軍の妨害や挑発が相次いでいる。加えて、今年2月には中国海軍の艦船3隻がオーストラリア東海岸沖を南下した後、シドニーの南東630キロの公海上で実弾射撃を含む軍事演習を行った。3隻はニュージーランド沖でも演習を実施した後、オーストラリア大陸南岸を舐めるように西に向かった後北上した。
一方、ロシアは、安保面で独自路線を採るインドネシアに接近している。今月には、インドネシア東部パプア州の空軍基地に、ロシアが空軍機の駐留を要請したとの報道も明るみに出た。同基地は北部ダーウィンから北に約1,400キロしか離れていない。
オーストラリアはこれまで同盟国・米国の戦争にはほとんど兵を送り、米国と一連託生の安保政策を採ってきた。しかし、トランプ政権の安保政策の先行きが見通せないのも不安定要因となっている。
オーストラリアン週末版は社説で「アルバニージー氏が国防費を増額する用意がある姿勢を示したのは重要で、支持できる」と指摘した。その上で「地政学的な問題を明らかにして、政府の優先順位を入れ替える必要性を説明できる気概を持ったリーダーを国民は必要としている。社会福祉予算を犠牲にしてでも、私たちは信頼できる防衛力が必要だ」と呼びかけた。
■ソース
PM’s red-button diplomacy (The Australian)
Serious security dangers marginalised in campaign (The Australian)