インターネットで「和製英語」と検索してみると、こんな和製英語は実はネイティブには通じない、こんな和製英語は伝わらない、海外では通じない、英語だと勘違いしがちな言葉に要注意……といった、ネガティブな文章がずらっと並ぶ。「クレーム」「コンセント」「アルバイト」といった言葉は、いかにも英語を日本語に置き換えたような言葉に見えるが、そのまま英語として使っても日本で使っている意味では通じない。それを知らずに英語の文章で使ってしまうと、確かに「言いたいことが伝わらない!」という困った状況に陥ってしまうだろう。
しかし、英語から取り入れたカタカナ言葉(借用語)をよく見てみると、この和製英語というのは実に面白いのだ。
例えば、「ホスピタリティー」という言葉。これは、日本では「おもてなし」という意味で使われることが多い。日本でよく使われているオンライン無料英和辞典の「Weblio」にも、「Hospitality:親切にもてなすこと、歓待、厚遇」という意味しか掲載されていない。
ところが、オーストラリアに住む日本人同士の会話で日本語としてこの単語を使うのは、こちらで多くの日本人が従事しているホスピタリティーという業種について話す場面が多いのではないだろうか。つまり、ホテルや旅行業、レストランなどの「サービス業」という意味で、この「ホスピタリティー」という言葉が使われているのである。
オンライン無料英英辞典の「ケンブリッジ辞書」では、「おもてなし」に加え、「食べ物や飲み物、エンターテインメントなどを提供すること」「食べ物や飲み物、エンターテインメントを提供する仕事やビジネス」といった3つの意味が掲載されている。英語の影響を強く受けている在豪日本人のカタカナ語は、日本での使用用途から少し変化したものが多い。
日本人は、外国の言葉に出合うと、本来の言葉の意味の一部だけを取り出して利用したり、元々の言葉から意味を少し変化(シフト)させたり、日本語として咀嚼(そしゃく)しながら便利に取り入れてきた。そのような工夫の方法そのものも大変興味深く、そこに反映されている人びとの環境や文化、社会を考えることも、大変面白い。
「和製英語」にただネガティブなイメージを持つのは、もったいなぁと思ってしまうのである。
プロフィル
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「オーストラリア弁を探せ!プロジェクト」
(Web:www.facebook.com/JapaneseVariationInAUS)