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宝石大陸見聞録 その6 アウトバックQLD編─ワルチング・マチルダ、クロコダイル・ダンディー…何だかベタな豪州に触れる旅/トミヲが掘る、宝石大陸オーストラリア 第38回

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北部準州スリーウェイズ。ここから一路QLD州を目指したが、ガソリンは逐次補充という内陸の旅の基本中の基本を怠り脂汗をかくことになるとは……

 スリーウェイズ・ロードハウスという有名なサービス・エリアで、スチュワート・ハイウェイに別れを告げ、バークリー・ハイウェイを東へ東へとひた進む。道路脇には無数の蟻塚がある以外、ひたすらフラットで単調な景色が広がる。次の町まで450キロ、「しんどそうだなぁ」とため息が出る。

このジェリーカンに入った20リットルのガソリンが頼みの綱

 250キロほど走った所で、大事な給油ポイントとして停まったServo(ガソリンスタンドを意味するスラング)が、何とまさかの定休日。残り200キロ。予備のガソリンはたった20リットルしかない。出発前にテナント・クリークで給油後、途中のスリーウェイズで給油しなかったことが悔やまれるが、もう進むしか選択肢はない。ひたすらガソリンの残量表示とにらめっこしながら走る。

 地形のせいで、時折り吹く横からの突風が車を揺らすと、その度に消費量のメーターがびっくりするくらい上がるので「こりゃ途中でガス欠だ」と、心拍数もつられて爆上がり。本当に予備のガソリンを使い切る寸前、何とかQLD州カムワル(Camooweal)に到着。その時、わが愛車にはもうあと2キロも走れないほどのガソリンしか残っていなかった。

何とかQLD州カムワルに到着。ガソリンの残量は本当にギリギリ、危なかったぁ

 まさに紙一重、いや、油一滴でほっと胸をなで下ろしたところで、今日はここまで。シャワーを浴びてからパブ飯とシャレ込む。町外れの干上がった川辺を今宵の宿に定めてくつろいでいると、メーターとにらめっこドライブの疲れにあっという間に寝落ち、爆睡のトレジャー・ハンター。

 翌朝、歯を磨きながらブラっと川の周りを散策していると、地表からツルっと光沢のある石が顔を出しているのを見つけた。淡いクリーミーな色の縞模様が特徴のジャスパーの一種、リボン・ストーンだ。ちょうど、この日は町の北側でリボン・ストーン探しをする予定だったので、移動の手間が省けた。

リボン・ストーン。ズシッと重くツルっとした表面から淡い縞模様が見える。これは磨き甲斐がありそう!

 そこからさらにバークリー・ハイウェイを東進、QLD州最大の鉱山の町、マウント・アイザ(Mount Isa)を目指す。マウント・アイザは人口2万人。1920年代から銅、銀、鉛に加えて亜鉛も採掘され、その採掘量は世界一を誇る。1970年には、2022年に亡くなったエリザベス2世女王も訪れたほどの町。とにかく、久しぶりの「町」、何たって、マッカズ(マクドナルドの愛称)がある。

 さっそく、ソフトクリームで糖分補給してから案内所をのぞいてみると、化石の博物館が併設されていて、現地で採れた石もたくさん展示してある。化石ではないが、ここに展示されているアボリジニー・アートが装飾された巨大な銅板は一見の価値あり。当然、案内所でのお約束、係員からの石探し情報を忘れはしないが、鉱物というより奇石珍石や化石の類の情報で、しかも4WDでないと危険な険しい道とのことなので、この日は観光がてら町の外れの丘でさっと石探しをするだけにした。

逆光で分かりづらいが、湖畔に群れる孔雀を眺めながらのピクニックも一興

 町の北のムーンダラ湖(Lake Moondarra)で、湖畔にたたずむ孔雀の大群と沈む夕日をおかずに「やっぱり、地元QLDは落ち着くな」と独り言ちながら食べるステーキのうまいこと。その後、その日のベースに戻って、車中泊で足を伸ばしたのもつかの間、睡魔に襲われ、爆睡のトレジャー・ハンター。

マウント・アイザの町外れで拾った木の化石などの興味深い石

 翌朝、町を一望できる丘で朝食をすませ、昨晩、車内泊中に誰かがのぞき込んでいるような嫌な気配を感じたこともあって、「長居は無用」と先を急ぐ。次なる目的地は、バークリー・ハイウェイを東へ100キロのマリー・キャサリーン(Mary Katherine)。1950年代にウランが見つかり60年代には約1000人が住んでいた廃鉱だ。マウント・アイザ出身で個人的に師事する人から「絶対に気に入るはずだから行ってみなさい」と言われていた場所なので外せない。

 廃鉱へと続く道は険しく、ポカリと地表に開いている穴は1つひとつが大きく深い。はまると危険なので、途中からは徒歩に切り替える。乾いた赤い大地に白や黄色のワイルド・フラワーが満開で、落ちている石も興味深い物ばかり。ギラギラと深緑色に光る緑簾石(Epidote)。サーモン・ピンクの石に深緑が入ったユナカイト(Unakite)まである。地層のサンプル用か何かで円柱にくり貫かれた石や、何やら怪しい黄色い硫黄臭の石など、とにかく楽しみが尽きない至福の時間を過ごせた。

ユナカイトは、エピドート(緑簾石)という緑色の石にオレンジのフェルスパー(長石)が混ざった石

 昼食後、更に東進。クロンカリー(Cloncurry)から南のウィントン(Winton)を目指す。ここで長かったバークリー・ハイウェイとお別れ。“マチルダ・ウェイ”という別称を持つランズボロー・ハイウェイを南下する。その別称の通り、この道は、オーストラリアの非公式の国歌とも言われる国民的愛唱歌「ワルチング・マチルダ」と深い縁があり、詩を書いた有名な吟遊詩人であるバンジョー・パタソンの足取りをたどりながら、オーストラリアのアウトバックの歴史を追体験できる象徴的な道だ。

クロンカリーの案内所にはアズライト(藍銅鉱)の巨大な塊。「我にエネルギーを与えたまえ!」とばかりに抱きついてみた

 1895年に書かれた「ワルチング・マチルダ」は、ざっくり訳すと、「ブッシュを流浪する男が、川辺のユーカリの木の下で盗んだ羊を食べているところを追いかけて来た警察に見つかる。男は川に身を投げ命を落とすが、その魂はまだその川辺に残っている」というような内容で、1894年にパタソンが婚約者を訪ねてこの地域を訪れた際に実際に見聞きした事件のことを書いたものらしい。

 更に小1時間、南東に走って最初に現れるのがマッキンレー(McKinlay)。ひたすら真っ平らで乾燥した大地にポツンとたたずむ小さな町だが、あの人気映画『クロコダイル・ダンディー』の撮影セットが残るパブがある。ウォークアバウト・クリーク・ホテル、映画好きにはたまらないスポットだ。ビールを飲みながら、いろいろと記念撮影をたっぷりと楽しみ夜が暮れる。

ウォークアバウト・クリーク・ホテル。あの伝説の映画『クロコダイル・ダンディー』の舞台となった場所で飲むビールのうまいこと

 翌朝に訪ねたカイヌナ(Kynuna)という静かな町では、町に1軒しかない店の店主の話を聞きながらコーヒーをすする。曰く、「ワルチング・マチルダ」の歌詞に出てくるユーカリの木は、この町の名物だったが、残念ながら朽ちてきて危険ということで切り倒されてしまった……残念。

 北部準州から出て、いよいよ、本拠地ブリスベンと同じQLD州に戻って来たは良いが、今回は次の目的地ウィントンに着かないまま終わってしまった。

カイヌナで、朝コーヒーを飲んでいると内陸部を代表する鳥のハイイロツチドリがあいさつに来てくれたけれど、すごくうるさい……(苦笑)

 宝石大陸はでかいなぁ……。これだから飽きない、止められない、止まらない。トレジャー・ハンター渡世、決して楽ではないが楽しくはある。広大な大陸を駆け抜けて掘り歩く旅はもう少しだけ続くので、どうかお付き合いあれ。

(この稿、続く)

(写真はすべて筆者撮影)

このコラムの著者

文・写真 田口富雄

在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は、宝探し、宝石加工好きは必見の以下のSNSで発信中(https://www.youtube.com/@gdaytomio, https://instagram.com/leisure_hunter_tomio, https://www.tiktok.com/@gdaytomio)。ゴールドコースト宝石細工クラブ前理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)





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