アーガイル・ストリートの橋桁下/アルビオン

ある9月の土曜日の午後、ノースの知人宅からの帰り道、QLD州フットボールの聖地ペリー・パークで行われるQLD州のトップ・リーグのグランド・ファイナルの取材に向かう途中、アルビオン(Albion)の立体交差の橋桁の下にある大きなMural(壁画)の前を通った。
何度か通り過ぎていたので、その存在は知っていたが、お目当ての試合のキックオフが迫っていたにもかかわらず、その日に限ってなぜだか「もう少し見たい」という思いに駆られて車を停めた。
モチーフの男性は、年の頃は筆者よりかなり若いだろうに、その寂しい頭頂部にはシンパシーを感じずにはいられない。ひげの感じや白髪の混じり加減も絶妙で、白シャツの前をはだけ、薄目を開きながら左手を軽く臍(へそ)の辺りに当てて横たわる姿は何とも厭世(えんせい)的だ。
一体誰がモデルで、どんな意図があるのだろうかなどと考えながら、もう少し至近距離から見ようと道路を渡ると、右隅にQRコード付きの案内板があった。いわく、リサ・キングなるアーティストの作品で2022年に行われたブリスベン・ストリート・アート・フェスティバルの一環でここに描かれたとのこと。それ以上の情報を得るにはQRコードのリンク先に飛ばなければいけない。ここでようやく本来の目的を思い出して、QRコードをパチリと携帯のカメラに収めてからスタジアムへと道を急いだ。
その日のフットボール取材からの帰路。Servo(サービス・ステーション)で給油後、店内の飲食スペースでコーヒー片手にひと息ついた瞬間、今日の「出会い」を思い出した。携帯を取り出して、先ほど現地で撮ったQRコードのリンク先に飛んでみたものの目新しい情報は得られなかった。コーヒーをすすりながら、写真を拡大して眺めていると、彼の白いシャツのラベルに何やら文字らしきものが見えた。現地では全く気付かなかったのだが、よく目を凝らすと「John」とある。
ジョン、君はさ、何を思いながらあんな所で横になっているんだい──。当然ながら、ジョンからの答えはない。なぜだか哲学的で一抹の寂しさすら醸し出す寝姿のジョンは、今日も明日も明後日も、薄っすらと目を開き、橋桁の下で横臥しているだけだ。

植松久隆(タカ植松)
ライター、コラムニスト。ブリスベン在住の日豪プレス特約記者として、フットボールを主とするスポーツ、ブリスベンを主としたQLD州の情報などを長らく発信してきた。2032年のブリスベン五輪に向けて、ブリスベンを更に発信していくことに密かな使命感を抱く在豪歴20年超の福岡人